Shadow
数時間後。
アメジストの前にさっきまで人間だった者がもの言わぬ塊となり、転がっていた。
「本当に大したことなかったな。こんなのに俺は、陥れられそうになったのか。何も出来ないと油断をし過ぎたか。……はあ」
そこへまた誰かの足音がした。
一瞬、警戒したアメジストだが、その相手を見て、警戒は解く。
「……………ジルコンか」
「アメジスト。もう片はついたんですかい?ありゃ、そいつ、壊れちゃいましたか?あはは」
それを見て、ジルコンは笑った。アメジストは腕を組むと、つまらなさそうに答えた。
「ちょっと遊んだだけなのに、あまりにもぎゃあぎゃあとうるさいから黙らせた。そしたら、勝手に壊れただけだ。この口だけの人形が」
「ふーん。相変わらず容赦がないですねー。ま、どっちあなたがが手を出さなくても、これの終わりは見えていたんですよ」
「また未来が見えたのか?」
「こいつだけじゃないですよー?こいつの家自体も破滅に向かっていたんで。今頃、大変な騒ぎが起こっていますよ。知りたいですかい?」
「……どうでもいい。それよりこいつの処理を何とかしないといけない」
「ああ、心配いりませんよー?」
そう言い、ジルコンが携帯を取り出して、誰かにかけた。電話を切って、数分後に人相の悪い二人組がその場に現れた。彼らに軽く手を振って、指示をする。
「これの処理をよろしくー」
「かしこまりました。ジルコン様」
ジルコンが塊を指差すと、二人は手慣れた様子で片し始める。アメジストがそれを見ていたら、ジルコンに腕を掴まれた。
「なんだ?」
「ここは二人に任せて、オイラ達は帰りますよ。流石にいつまでもここにいると、誰かに目撃され証言されても困りますからねー」
「……わかった」
アメジストはジルコンと共にその場を離れた。
ジルコンが辺りを警戒しながら、誰もいないことがわかると外に出る。
そこには二台の車が置いてあり、そのうちの一台にジルコンが乗り込み、アメジストも助手席に乗り込んだ。車を走らせて、しばらくしてからジルコンが口を開く。
「捕まえておいた鼠達が自白した奴らの処理もすべて終わりましたから」
「早いな」
「ええ。アメジストが裏切り者と会う前に一気に片をつけました。残骸も残らずにね。裏切り者に流された情報も大したものでもなかったんでしょ?アメジスト」
「…ああ。うちには被害は何もない。元からあれを信頼していなかったからな。有能でもなかったし、無能に近い人間に情報を教えるわけがない」
アメジストは窓の外を眺める。真っ暗な空と海がただあるだけで、彼を惹くものは何もなかった。
すると、運転していたジルコンがつまらなさそうなアメジストにある話をしてくる。
「アメジスト。あなたの未来を少し教えてあげましょうか?」
「未来?そんなものに興味はないが」
「まあまあ。オイラの占いはあまり外れたことはないですよー」
「はずれたこともあるんじゃないか。それで?」
アメジストは話の続きを彼に促す。それにジルコンは吹き出す。
「ぷっ、気になるんじゃないですかい」
「そこまで言われたらな。聞いてやる」
「ははは。じゃあ、話しますよ」
すると、ジルコンは今までの軽口ではなく、真剣な声色で話し始めた。
「アメジスト・ドルチェ。そのうちあなたの前に金髪の少女が現れます」
「金髪の少女?」
「あなたの愛していたラピスラズリ・マリーゴールドではありません。また別の人間。その少女はあなたに幸福を呼びます。ですが、あなたが彼女を手に入れようとすれば、あなたの周りにいた者達は敵になる」
「その娘を手に入れなければ?」
「何も変わらない。退屈な人生のまま終わりを迎えます。ですが、その少女を手に入れたら、最高の幸せな未来に変わります。ま、アメジストの振る舞い次第ですけどね」
「最高の未来、ね…」
この時の彼は、鼻で笑い飛ばしていた。占いを信じていなかったからだ。
そして、このことを忘れて、数十年が経ったある日の夜。
「……誰だ?そこにいるのは」
ラピスラズリに似た金髪の少女との邂逅を果たす。
この出会いにより、自分の運命が変わることを彼は知らない───。
【END】