Hobby that everyone knows
「きゃあ!……いたた」
「わっ、わりぃ! オレ、ちょっと急いでるんだ!」
考え事して歩いていた私が行けないんですけど、前から大荷物のお坊っちゃまとぶつかった。
謝るまもなく、嵐のごとくお坊っちゃまは去っていってしまったのだけれど。
「あ…下着が……! もしかしてお坊っちゃまの落とし物なのでは……?」
下着を手に取って、息を呑む。
筋肉ムキムキなキャラクターのイラストが描かれていたから。
「……ええっ!?……お坊っちゃま……み、見なかったことにしておきます」
そして、暫く歩くとまた何かが落ちていた。
「……お坊っちゃまったら……ひええっ!!」
手に取るとまた、衝撃が走った。
アガットさんそっくりなキャラクターがメイド服着ているイラストが描かれたシャツだったから……
お坊っちゃま……いくら、アガットさんに懐いてるからといっても、これは少々……
「いえ。趣味は人それぞれ……あ。もしかして、さっき急いでいたのは……知られたくなかったからなんじゃ……」
こ、これも見なかったことにしておきます。
これでいいんですよね、お坊っちゃま……
階段を上がると、また何かが落ちていた。
「えええっ!!」
手に取るのを躊躇うものだった。
「お坊っちゃまにこんな趣味があったなんてて…………」
拾う手が震える。
「まぁ……お坊っちゃまも年頃ってことですよね……あ。カバーが」
拾った本が、カバーからずり落ち──
「え、ええぇっ!?……“ムキムキんにくから細身まで萌えもえ男大全集”!?」
“天使~極上スイーツ女子ミニスカメイドセレクション~”のカバーはカモフラージュだったのですか。
でも好きな女の子の理想に近付く為、お坊っちゃまは影ながら努力している……そう言うことなのかな。
「意外ですけど、思春期の男の子にはよくあることなのかもですね」
それからも次々に色んなものが落ちており、次第に慣れたのか……驚くことも拾うことに躊躇うこともなくなっていた。
「……あら?」
「アリスじゃん」
誰かの足元が目に入り、顔を上げる。
「……拾いに行くつもりだったのに、持ってきてくれたんだね! 気がきくじゃん、アリス!」
「へ? あ、コレですか。なーんだ、ライ様のだったんですね!……えっ!! ライ様の!?」
驚いたものの、妙に納得した。
同時に安心もした。
お坊っちゃまのじゃなくて良かったわ。
引っかかっていたのは、“ミニスカメイド”。
ああっ、そういう意味ではなくて……
「……誰にも言うなよ」
「分かってますよ。誰にでも言えない趣味の一つや二つ──」
「言っても言わなくても、襲うけど」
この秒間もなく、お坊っちゃまが駆けつけてくれたのは言うまでもない。
更にいうと、お坊っちゃま曰く
「わざと廊下に落として、オレら兄弟をそっちの道に引き込もうとしているだけ」
らしい。
恐るべしです、ライさま……
〈Hobby that everyone knows-誰もが知ってる趣味-〉
END.