Amethyst

高校に入学した時、特待生がいるという話を耳にした。

確か、家柄と金を持つ生徒達しかいない中に庶民が入って来た。奨学生制度を利用した特待生で、この学園でその制度を使う者は今までも数えられるくらいしかいなかったそうだ。周りもよほど神経が図太くなければ、来れるわけないと笑っていたやつもいた。


しかし、その男はそんな周りの声は聞こえていないのか、平然としていた。それとも鈍感なだけか。
俺も関わりがないし、興味もないから気にも止めなかった。



「あいつ、結構いいヤツだぞ」

「誰のことだ?セレスト」

「特待生のルビーだよ。勉強も出来るし、運動神経も悪くはない。性格もさっぱりしてるし、話してみたらすげー面白いんだ。俺、あいつのことは気に入ってるぜ」


セレストの場合、人見知りもしないし、興味を持つとすぐ話しかけにいき、誰とでも仲良くなる。
今回もそうだったのだろう。



最初は誰も近寄らなかった。
だが、いつからか彼の周りには人が集まるようになっていた。セレストも彼と仲良くなったのか話す姿をよく見かけた。





そして、ある時から、ラピスは俺と出かけなくなった。休みの日に出かけようと誘っても断られる。学校でも普通の話はするが、出かけようという話をすれば───



「ごめんなさい。私、そろそろ行かないと」


そう言って、ラピスは行ってしまう。まるで逃げるかのように。





そんなある日。
彼女を見かけたから、声をかけようとした。



「ラピ…」


彼女は一人ではなかった。
その隣に見知らぬ男がいて、そいつと楽しそうに話していた。

きっとこいつがセレストが言っていた男だろう。名前の通りの赤い髪。身長も俺より少し高い。外見だけなら、庶民にはまったく見えない。
それにラピスと一緒に歩いている姿は、似合っていた。俺よりも。


ラピスがそいつを見つめていると、彼女の視線に気づいて、声をかける。



「ラピス?どうかした?もしかして、オレの顔に何かついてる!?」

「違うわ」

「そう?なら、いいけど。前に何か皆に見られてるなーと思ってたらさ、顔に汚れがついたまま歩いてたみたいでさ」

「ふふふっ!」

「笑い事じゃないって!オレ、急いで顔を洗いに行ったんだから」


ラピスを見て、気づいた。彼女はあいつに恋をしていることに───。

だから、俺と出かけなくなった。一緒にいなくなった。

───俺よりもあいつを選んだから。





「あの男の何がいいんだ!ラピス!!」


彼女が俺から離れるなんて許さない。俺のものを奪う奴はもっと許せない。



「絶対にラピスを取り返してやる!ルビー・マチェドニア!」



.
1/2ページ
スキ