Lucky Pervert

「お坊っちゃま、いいところに!ちょっとこれを何とかしてください」

「わ、わかった!」


お坊っちゃまに頼んで、取ってもらおうするが、手こずっているのかなかなかロボットから私のスカートが離れない。



「お坊っちゃま、まだですか!?」

「ちょっと待っ……あ!!」


ビリッ。ビリビリッ!
お坊っちゃまの声と同時に聞こえた破けた音。嫌な予感がしながらも、見てみるとスカートが激しく破れていた。スカートの下のペチコートまで破けて、下着が見えていた。



「きゃああああ!破れた!!」

「わざとじゃねェけど、ごめん!」

「スカートがあああああっ!!」


チャイナ服のスリットみたいならまだしも、それすらも通りすぎて、下着が丸見えだよ!



「てか、そんな大きな声で騒いでると、人が集まってくるぞ!」


それは困る。こんな姿はは見られたくない。私達は慌ててお坊っちゃまの部屋に走る。



「……はぁ」


誰か来る前に部屋には入れた。何とか他の人には見られないで済んだけど、このままじゃ自分の部屋に帰れない。隣を見れば、私に背を向けるお坊っちゃま。しかし、耳が赤く染まっている。



「すみません。見たくないものを見せてしまって…」

「いや、その、…違っ……っ!」

「もう今日は朝から厄日だったんですよ。寝坊から始まり、リク様の着替え中に入るわ、続いてタスク様の部屋にも間違って入るわ、転んでライ様の上に乗っかるわ、カルロ様がいるのにバスルームに入るわと色々ありまして…」

「は!?突っ込みどころが多すぎじゃねェ」

「しまいには、このドラ様のお掃除ロボットにスカートは挟まれて破れるし。今日は何をやっても上手くいかなくて…」

「……」


私なんで、お坊っちゃまに愚痴ってしまったんだろう。愚痴りたいわけじゃないけど、誰かに聞いて欲しかったのかも。

さて、仕事は終わったから、自分の部屋に戻らないとなんだけど。誰にも見つからないように帰るのは無理よね。あ、タオルを借りて、巻こうかな。部屋に帰るまでの間だけだし。



「お坊っちゃま、ここにタオルありませんか?」


そう尋ねた時、目の前に何か差し出された。



「あの、これは…?」

「パーカー」

「それはわかりますけど」


私の前に出されたのは、黒のパーカーだった。しかし、お坊っちゃまのサイズは私では入らない。



「着るわけじゃないんだし、これ腰に巻けば、部屋までは帰れんだろ?」

「悪いですよ!タオルがあれば…」

「タオルの方がねェし。だから、これ…」

「わかりました。これをお借りしますね。ありがとうございます」


さて、私も部屋に戻ろう。私は立ち上がり、借りたパーカーを腰に巻く。良かった。下着は隠れた。



「お坊っちゃま、このパーカーをお借りしますね。必ず返しますから」

「いつでもいいって」

「それじゃあ、私、戻りま…」

「危ねェ!」


歩き出そうとしたら、足がもつれ、転ぶ。どうして、私は何もないところで転ぶのだろうか。今日だけで3回目だ。
しかも、助けてくれようとしたお坊っちゃまを下敷きにした。



「大丈夫ですか?お坊っちゃま」

「平気…」


ん。これ、端から見たら私が押し倒しているように見えるのでは?
まずい。こんなところを誰かに見られたら誤解されてしまう!

そこへ。



「ハルクー。持ってる漫画、貸し…」


ノックもなく、いきなりドアが開いた。
ドアの先にはタスク様とその後ろにはリク様がいた。何でよりにもよって見られたくなかった人がいるの!?



「えっと…」

「あー!アリスがハルクを襲ってる!!」

「違います!事故です!!」

「そんな格好で言われてもさ、誘惑してるようにしか見えないよ?」

「子供を誘惑するほど、飢えてません!!」


何で私が襲わないといけないのよ!ショタコンじゃないわよ!待って。リク様が私から顔を背ける。誤解されたんじゃないの!?待ってください。リク様!!私は無実です!



「リク様、これは違うんです!たまたま転んで…」

「アリスさん、あの言いにくいんですが、スカートから下着が見えてます。だから、隠した方がいいと…」

「っ???!!!」

忘れてた!借りたパーカーもいつの間にか外れて、床に落ちてるし。だから、リク様はこっちを見ないようにしていたんだ…。
というか、スカートが更に破けており、もう原形をとどめてない。



「タスク、部屋に帰るよ」

「えー、面白いとこなのに…」

「面白くないよ。ほら、早くドアを閉めて。漫画は今度にしてあげて」

「はーい…」


そうして、ドアは閉められた。
私はお坊っちゃまの上からどいて、落ち込んだ。

泣きたい。今日だけでリク様の私に対しての好感度がかなり下がった。上がることがただでさえ難しいのに…。



「アリス…」

「もうだめだ…。リク様に呆れられた。こんな痴女は嫌われて当然よね…フフフ」

「リク兄は別にそこまで思ってねェよ。気を遣って出たんだろ?」


その気遣いが逆に辛い。
すると、頭に何かが触れた。顔を上げると、お坊っちゃまがぎこちない動きで、私の頭を撫でていた。



「お前はいつも頑張ってるじゃん。リク兄だって、それはわかってるって」

「お坊っちゃま…」


何だろう?今、お坊っちゃまが天使に見える。いつもはワガママで口が悪い子供にしか見えなかったけど。



「たまに失敗しても、誰も怒らねェから。そんなお前を怒るヤツいたら言えよ。オレがソイツに言ってやるから…」

「お坊っちゃまが天使に見える!」

「………は?天使!?」

「しかも、私を慰めてくれるなんて…。いつものお坊っちゃまならありえない!」


私はつい手を合わせて拝んだ。こんなこと二度とないだろうし。



「……どういう意味だよ、それ」

「いつもはワガママな口悪お坊っちゃまめーとか思ってたけど、意外に優しさもあったのね。はっ!それか私、実は死んじゃってたとかいうオチじゃないよね?だから、お坊っちゃまが天使に見えて……痛い!」


お坊っちゃまに頭を叩かれた。
天使に見えなくなったわ。あれ、やっぱり幻だったんだ!



「現実に決まってんだろ!どうせオレはワガママだよ!この鈍感露出女!」

「……お坊っちゃま?何を怒って…」

「お前、全部口に出てたんだよ!」


私の顔は青くなった。その後は必死にお坊っちゃまに謝った。

だが、部屋に戻って来たアガットさんにその様子を見られて、またあらぬ誤解をされた。



「違うんです!これは色々なことがあって…」

「カルロと一緒に風呂に入って、リク兄やタスク兄の着替えを覗いて、ライの上に乗っかって、ドラの作ったロボットにスカートを吸い込まれたんだよ」

「……………え、アリスさん。それは…」

「違います!一部、間違ってますから!リク様やタスク様のはわざとじゃなくて、慌てて部屋に入ったら、たまたま着替え中だっただけですし、ライ様のは転んだ先にライ様の上に乗っかってしまっただけです!」


その後にスカートめくられたことは黙っていよう。何か言ってはいけない気がする。



「オレもアリスにその格好で襲われたし」

「アリスさん!?」

「違います!事故です!!襲ってなんかいませんから!あとカルロ様のもいるの知らないで、バスルームに入っただけで、お風呂は一緒に入ってませんから。……ただ」

「ただ?」

「何だよ。まだ何かやったのかよ」

「出ようとした時に転んで、カルロ様を押し倒した挙げ句、その際に私の口がカルロ様の鎖骨辺りに当たりまして、赤い痕がついてしまって…」

「「………」」


それを聞いた二人は、完全に黙ってしまった。ちょっと何か言って!二人共。



「お前、それをわざとじゃないって方が無理あるからな!?」

「本当にわざとじゃないんです!事故!完全に事故です!!」

「さっきから事故、事故って連呼してるけど、もう事故じゃねェよ!しかも、何かに取り憑かれてるレベルだよ!」

「本当です!信じてください!!アガットさんは信じてくれますよね!?」

「アリスさん。信じたい気持ちはあるんですけど、もう庇いきれません…」

「アガットさん!?」


その後、スカートがひどいことになった私にアガットさんがジャケットを貸してくれた。それにより、何とか破れたスカートも隠せたので、それで部屋に帰ることが出来た。
ちなみにお坊っちゃまのパーカーでは下着が隠れなかったんです…。諦めました。

ああ、本当にひどい一日だった!





【END】
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