Hero Behind

アガットと話してから、ふと昔を思い出す。

弱くおとなしかった俺は、よく幼稚園でいじめられていた。そんな時、いつも助けてくれたのがアガットだった。





“だいじょうぶか?”

“うん…”

“今日は泣かなかったんだな!エライな”



そうやって、笑って褒めてくれた。
俺には兄なんていなかったけど、いたらこんな感じなのかと思った。アガットには弟がいたから、それと同じだったんだろう。


優しくても強い君が憧れだった。
小学生になってからは離れてしまったけど、またどこかで会えたらいいなとは思ってた。










その10年後。
俺はアガットと再会した。


向こうは最初、俺だとわかっていなかったが、俺はすぐにわかった。
あれから俺は色々なことがあって、あの時に比べたらかなり変わってしまったから、わからなくても当然だと思う。



後から聞いた話。アガットの家が大変なことになってしまい、彼が弟達のために必死で働いていたことを知った。

だから、今度は俺が助ける番だと思った。でも、彼はいらないと言った。





“俺が惨めに見える?”

“違う。そうじゃない!”

“俺は惨めじゃないよ。俺が今もこうして生きていられるのは旦那様のお陰だから。じゃなきゃ、ここにはいないんだし”

“親父のお陰?”

“そう。俺はもう昔のようには生きられない。陽の下には立てない存在になったから”



それを聞いて、意味がわかった。
いや、本当はわかりたくなかったんだ。





“アガット。顔に血が…”

“これ?俺の血じゃないよ”



アガットの顔に血がついていた。でも、それは彼が服で拭うと取れた。アガットは、誰かの血を浴びた。だから、顔に血がついていた。
それはつまり…。





“それでもいいんだ。弟達を救えるなら。俺は何でもやる。だから、カルロ。お前が知っているアガットはもういないから、忘れてくれ”

“アガット。待っ…”





その日を境に彼は、俺に対して態度を変えた。
今のように敬語を使うようになった。距離を置かれた。


昔は同級生でも、今は雇い主の息子と雇われの使用人という立場だから、その態度は間違ってないのかもしれない。

でも、俺はそれが少し寂しかった。



変わったのは俺だけじゃない。アガットも変わっていたんだ。それを俺自身が認めたくなかっただけ。





それからアガットがハルクの専属執事になって、時折二人でいるところを見かけようになった。彼はハルクに弟でも重ねているのか、優しい顔をしていた。そんなアガットにハルクも懐いていた。


ハルクに向ける笑顔に昔を重ねる。
何もかもが変わってしまっても、君の笑顔だけは変わっていないことを。





【END】
1/1ページ
スキ