Pure First Love
「はじめまして、ライ様。今日からあなたの執事になります。マホガニーです。よろしくお願いいたします」
「……」
その笑顔に見とれて、返事出来なかった。きっとこれが初恋だった。
マホガニーは男にも女にも見える中性的な感じで、不思議な感覚を覚えた。声もどちらにも聞こえる。けど、その優しい声で俺の名前を呼んでくれるのが嬉しかった。
「マホガニー」
「どうしました?ライ様」
名前を呼べば、いつも笑ってくれた。
「マホガニー。どうしよう!おれ、テストで悪い点をとっちゃったー。とーさんにおこられるよ!」
「じゃあ、おれも一緒に怒られましょう!そしたら、怖くありませんね」
テストで悪い点数を取っても怒らない。笑って励ましてくれた。
どんな時でも、笑ってくれた。そんなマホガニーを好きになるのに時間はかからなかった。
ずっと俺の傍にいてくれると思っていた。
だけど、幸せは長く続かなかった。
「何で辞めんの!俺の執事でいてよ!」
「……」
「辞めないでよ!」
「申し訳ありません、ライ様」
俺が駄々をこねたって、マホガニーの意志は固く、もう引き止められないのがわかった。
なーんだ。
一緒にいたいってのは、俺だけだったんだ。マホガニーにとって、俺は面倒見てただけのガキだったってことだ。
「……勝手にすれば?もうお前なんかいらねーし」
そう言い捨て、俺はマホガニーから離れた。もういらない。執事なんて、いっぱいいんだし。
そして、マホガニーが屋敷から去る日。
俺は見送りもしなかった。カルロやリク兄から「最後くらい顔を出せ」って言われたけど、誰が行くかよ。
俺よりも他を選んだやつ、なんか…!
「ライ様」
部屋の外からマホガニーの声がした。
なんだよー。さっさといなくなれよ。もうお前なんかいらねーし。返事もしなかった。
「そこでいいですから、聞いてください。短い間でしたが、ライ様の傍にいられて楽しかったです。……おれ、弟がいたんです。病気で亡くなってしまいましたが。その弟が、あなたと同じ“ライ”って名前だったんです」
え。俺と同じ名前の弟?
「名前も似てるせいか、あなたは似てました。弟みたいに見えて、つい甘やかして、ボルドーさんによく怒られました。でも、こないだライ様に怒られて気づきました。あなたと弟は違うことに。申し訳ありませんでした」
「……」
「おれは今日でここを離れますが、ライ様の幸せを遠くから祈っています。それではお元気で」
去っていく足音。これを逃したら、もう会えなくなる!俺はドアを開けて、部屋から出て、マホガニーを追いかけた。
「マホガニー!!」
「ライ様」
駆け寄り、マホガニーに抱きついた。出会った頃からの思い出が駆け巡り、涙が溢れた。
「俺、マホガニーのこと好きだ!大好きだった!」
「ありがとうございます」
「今までありがとう!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔をした俺にマホガニーは笑ってくれた。
それからマホガニーとは会うことはない。これからも会うことはない。
でも、マホガニーに恋したことだけはずっと思い出に残ってるから。
ばいばい、マホガニー。
【END】