Amusement Park

アトラクションに着いて、お坊っちゃまの方を見たけど、薄暗い場所なせいか、顔がよく見えない。



「お坊っちゃま、大丈夫ですか?具合悪かったら、すぐに言ってくださいね?」

「…平気」


それからプールの話はしなくなったから、良かったけど。



そして、お昼になる少し前にお腹が空いたからと近くのレストランに入って、昼食を取ることにした。ここは先に注文してから、お金を支払い、品物を受け取ってから席に向かうシステムだが、ほとんどの人が先に席を取っていた。だから、私達も最初は注文する列に並んでいたが、窓際の席が空いたのを見つけて、お坊っちゃまにその席に行ってもらった。頼むと珍しくお坊っちゃまは言う通りにしてくれて助かった。


数十分後。
私は二人分の品物を持って、お坊っちゃまの待っている窓際の席に向かった。



「お待たせしました!」

「ん、買えたのか?」

「はい。買えましたよ。これがお坊っちゃまの分ですね」

「ありがと」


二人で食事していたら、お坊っちゃまが窓の方をジーっと見ている。ずっと見ていたから、気になって声をかけた。



「何か見えました?」

「同じクラスのヤツがいた」

「そうなんですか?」

「しかも、見つかるとやかましーのと目が合った。最悪…」

「じゃあ、食べたら帰りますか?アガットさんが来るまで、かなり時間がありますけど」

「まだ帰らねェよ!アイツらに見つからなきゃいいだけの話だろ。まだ乗ってないアトラクションもあるし、それに…」

「お坊っちゃまがそう言うなら、いいですけど」


昼食後は食べたばかりなので、ゆっくりしたアトラクションなどを中心に乗り、落ちついた頃にまた絶叫系や回転系のアトラクションを乗り回った。

時間も忘れて、遊び回っていたら、いつの間にか夕方になっていた。最後は観覧車だ。これでこの遊園地のアトラクションは全部乗ったことになる。
アガットさんが迎えに来る時間的にも、このアトラクションが最後だろう。

観覧車に乗り込み、私達は向かい合うように座る。



「これ、遅くねェ?」

「観覧車はこういう乗り物ですから。私も久々に乗りました。懐かしい…」


昔を思い出して、思わず笑う。
窓の外を見れば、地上から離れ、少しずつ上に上がっていく。夕方だから、太陽がだんだん沈んでくのが見えた。直に夜になる。夜になってから乗るのもいいな。イルミネーションとかキレイだろうし。



「お坊っちゃま、今日は楽しかったですか?」

「……楽しかった」

「なら、良かったです」


観覧車はゆっくりではあるが、頂上へと近づいていた。



「あと少ししたら、頂上ですね」

「……そうだな」


さっきからお坊っちゃまの口数が少ないような。観覧車に乗ってから、私しか話してないのよね。もしかして、高いところがだめだった?いや、ジェットコースターは平気だったし、それはないか。じゃあ、何で?



「なあ、そっちに座ってもいい?」

「別に構わないですよ」


お坊っちゃまが隣に座ったくらいで傾きはしないだろう。そんなにこの中も狭いわけでもないし。
だが、お坊っちゃまは私のすぐ横に座った。空間も開けず、ピッタリとくっつくように。



「ちょっと近くないですか?」

「近くねェよ」


そうかな?私が気にしすぎなのかな?
そう思いながらも、再び窓の外を見れば、頂上に来ていた。

その時、頬に何かが当たった。
と思ったら、お坊っちゃまが私の方に倒れ込んできた。抱き合う形になり、そして、観覧車が突然停まったのだ。



「っ!」


そこへアナウンスが入り、観覧車は緊急のトラブルにより、自動で停まってしまったらしく、しばらくはこのままということらしい。
きっと原因がわかれば、すぐには動くだろう。
それよりも…。



「大丈夫ですか?お坊っちゃま」

「……っ、平気」


お坊っちゃまが私の上に座ってるんだけど、何故かそのまま動かないのよね。どうしたのかな?怪我とかはしてないはずなんだけど。



「……っ」

「お坊っちゃま、動けます?」

「……」


いくら声をかけても返事がない。
しかも、何かこの状態のまま、動かないし。こういう事態に遭ったのが初めてだから、怖くちゃったのかな?まだ6年生でも子供だからな。よし。ここは年上である私が落ちつかせないと。



「怖くないですよ」

「………は?」


頭を撫でたら、お坊っちゃまはものすごい不機嫌な声を出した。あれ?怖いんじゃないの!?だから、私から離れなかったのかと思ってたんだけど。



「違うんですか?怖かったから、私に抱きついたままなのかと思ったんですけど」

「違ェよ!……この鈍感!!」

「はい?」


鈍感?何で。
それからお坊っちゃまはようやく私から離れ、向かい側に座った。

その直後に観覧車は動き出した。良かった…。直ったんだ。



「動いて良かったですね!お坊っちゃま」

「……」


お坊っちゃまは怒ってるのか、ずっとそっぽ向いちゃって、観覧車を下りるまで、こちらに向いてくれることはなかった。

男の子はよくわからない。扱いに困ってしまうわ。思春期だから?



「アガットさんも迎えに来てる頃ですし、そろそろ出ましょうか?」

「……ああ」


観覧車を下りて、出口のゲートに向かって歩いていたら、後ろからお坊っちゃまを呼ぶ声がした。



「ハルク!!」

「やっぱりハルクじゃん!」

「げっ。うるせーヤツらに見つかった…」


隣にいるお坊っちゃまがげんなりとした顔をする。振り返ると、小学生の男の子や女の子が6人いた。もしかして、お昼に言ってた子達かな?すると、私の姿に気づいた男の子の一人がお坊っちゃまに尋ねる。



「何、お前、姉ちゃんと来てんの?」

「姉ちゃん??ああ、アリスのことか?オレの姉ちゃんじゃねェよ」

「じゃあ、何でその人といるんだよ。おれらが誘っても全然来ないくせに!」

「別にいいだろ。誰と来たって…」


男の子達はニヤニヤしながら、お坊っちゃまに絡む一方で、女の子達は静かに私を睨んでいた。この子達はお坊っちゃまのことが好きなのでは?
私、別にお坊っちゃまの彼女とかじゃないよ!……って、そんな勘違いするわけないか。歳も違うんだし。



「私のことはいいですから、皆と少しだけ回ってきたらどうですか?」

「は?何でそうなるんだよ!」

「私は先に車に戻って、アガットさんに伝えておきますから。ね?」


アガットさんが迎えに来ていても、ちゃんと伝えていれば、少しは遊べるはずだ。やっぱり同じくらいの子達と遊んだ方が楽しいわよね。



「その人もそう言ってんだし、一緒に遊ぼうぜ!」

「そうだよ!一緒に遊ぼうよ!!」


お坊っちゃまはクラスメイトの子達と私を見比べ、口を開いた。



「オレ、行かない。今日はコイツと遊ぶ約束でここに来たんだし。それにもう帰るから。じゃあな!」


クラスメイト達にハッキリそう告げると、私の右手を取って、歩き出す。



「え、ちょっ…腕、痛いです!」

「帰んだろ。さっさとアガットの車に行くぞ」


観覧車の時と同じ不機嫌な声だった。
遊園地のゲートを抜けると、お坊っちゃまは私から手を離す。それから私の方に振り向き、怒った顔で私に言った。



「何であんなこと言うんだよ!」

「だって、同じクラスの子達と遊んだ方がいいかと思いまして…」

「オレ、ここに来るのずっと楽しみにしてたんだよ!」

「それはわかります。遊園地は楽しいですよね。私もここに来るのは楽しみでしたよ」

「わかってねェよ!」

「え?わかってますよ。お坊っちゃまは遊園地が好きなんですよね!」

「全然噛み合わねェ。本当にお前は全然気づかねェし、鈍いし、はぐらかすしで…!観覧車の時でもオレが勇気を出して…」

「勇気?」


な、何のこと?観覧車??いきなり停まったのには驚いたけど。それ以外、何かあったかな。
あ!もしかして、今日一緒に回って、もう私とは来たくないってこと?何か気に食わないことがあったのね。
もうその場で言ってくれれば、良かったのに…。



「じゃあ、私とはもう一緒に出かけたくないってことですよね?」

「だから、何でそういう考えになんだよ!バカ!!」


バカって言われた…。本当にわからない。何でお坊っちゃまは怒ってるの。私が何かやらかしたから?やらかしたつもりはないんだけど。



「すみません…」

「謝れば許すわけでもねェから。てか、オレが何に怒ってるかわからないで謝ってるだろ!」

「……そ、うですね」

「もういい…。お前に言うだけムダな気がしてきた」


そう言って、お坊っちゃまは先に行ってしまった。

その後、アガットさんの車を見つけて、乗り込んで屋敷に帰る。私とお坊っちゃまは後部座席に座っていた。だが、お坊っちゃまは私の方を見ないように窓の外をずっと見ていた。

声をかけようにも声をかけられる雰囲気じゃない。私とお坊っちゃまの雰囲気を感じ取ったのか、アガットさんも話さない。車内はカーステレオの流れる曲だけしか聞こえない。

静かだな…。


その時、私の肩に何かが当たる。横を見ると、お坊っちゃまの頭があり、私に寄りかかっていた。
というか、寝てる?起きていたら、寄りかかってはこないはず。あれ?でも、車に乗った時はシートベルトしてたよね。見てみると、今は外されていた。おそらく窮屈で外したのだろう。
アガットさんだから、事故は起こらないと思うが、外すのは良くない。私はお坊っちゃまのシートベルトを装着させた。



「…やっぱりこういうところは子供だ」

「きっと疲れちゃったんですね。お坊っちゃま、この日が来るのをずっと楽しみにしていましたから」

「そうなんですか?」

「ええ。部屋にあるカレンダーを見ながら、毎日呟いてましたよ。遊園地に行く日が決まってから、毎日。遊園地だけじゃないです。アリスさんと出かける時は毎回ソワソワしてましたから」


そうだったんだ。隣で眠る寝顔を見つめた。
確かによく二人で出かけることは増えた。でも、そんなに楽しみにしているとは思わなかった。



「私、お坊っちゃまのことをわかってるようで、全然わかってなかったんですね…」

「気づけたのなら、これからわかっていけばいいんですよ」

「そうですかね?」

「はい。あなたはちゃんと気づけたんですから。お坊っちゃまもわかってくれますよ。素直じゃないですけど」

「…そうですね」


お坊っちゃまが私といたがる理由。それに私がようやく気づくのは、まだまだ先のこと。





【END】
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