Him and Her
本屋に入ると、よく読んでいる作家さんのシリーズものの新刊を見つけた。もう発売されたんだ。三ヶ月前に出たばかりなのに。買いたいけど、まだ読めてない本があるから、今回は諦めよう。
手にした本を戻すと、声をかけられた。
「あれ?アリス、一人?」
「グレン様!」
グレン様に遭遇した。その手には時代劇の小説があったが、それを綴じて、元に戻すと、改めてこちらに向き直す。
「誰も捕まらなくて、一人で来ました。グレン様は?」
「俺も一人……と言いたいところなんだけど、連れがいるんだ」
「連れ?」
「そう。婚約者候補の子とね。今、その子はトイレに行ってるから、本屋で待ってるんだ」
婚約者候補か。タスク様以外に婚約者がいないからね。当主も上から決めて欲しいんだろうな。じゃないと下も続かないし。
「最近は屋敷にいること多いですね」
「必要な単位は全部取ったし、就職は決まってるから、大学に行かなくても問題ないんだ。今は卒論を書いてる真っ最中なんだ…」
「そうなんですね」
グレン様と話していると、誰かがいきなり私にぶつかってきた。痛っ!いきなり誰よ。
しかも、ぶつかった相手はグレン様の腕にしっかりと抱きつく。
もしかして、この人が婚約者候補の人…?
「アリス、大丈夫!?」
「はい…」
「グレン様、お待たせしました~!さ、行きましょう!というか、この方は誰です?」
私にぶつかったことなど忘れ、グレン様に話しかける。バッチリとメイクをして、キレイな顔していて、服装だって完璧なのだが、中身は最悪のようだ。
グレン様に見えないように私を睨みつけてくる。私がグレン様を逆ナンしたとか思ってるのかしら?
「彼女はうちに勤めている子だよ。偶然会ってね、少し話していたんだ」
「そうなんですか。彼女も行きたいところがあるでしょうし、私達も次へ行きましょう!」
その子に引っ張られたグレン様は、無理矢理歩き出される。困った表情を浮かべたが、私に言った。
「それじゃあ、アリス。またね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
グレン様はそう声をかけてから、前を向いてしまった。すると、一緒にいた女性は私に向かって、嘲笑うように去って行く。
きっと自分が勝ったとか思ってるんだろうな。私、グレン様とはそんなんじゃないのにね…。おそらくあの人は、グレン様の婚約者にはなれないだろう。それだけはわかった。
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