When I turned around, I knew someone
今、ベゴニアはなんて言った。
婚約者候補?リク様、そんなにいるの!?
「婚約者候補!?……はあ」
「喋り出したと思えば、更にショックを受けてるし…」
「リク様一筋だからね、アリスは」
二人の会話をよそに私は、イスから立ち上がり、呟く。
「私、もう寝る…」
「え!?」
「お風呂はいいの?」
「明日にする。もう今日は何もやる気にならない。部屋に戻るね。二人共…」
二人に見送られ、私は食堂を出た。
自分の部屋に戻り、部屋に入ると、着ていた制服を床に脱ぎ散らかし、パジャマに着替えるのすら面倒で、そのままベッドに入って寝た。
朝の目覚ましが鳴るまで、まったく起きなかった。
起きてからシャワーを浴びて、身支度を済ませ、重い気分のまま、お坊っちゃまの部屋に来た。幸い、リク様と顔を合わせることがなくて、ホッとした。たまに会う時もあるから。今はリク様の顔は、見られない。
「………おはよう、ございます…」
「おはよ。……って、お前、暗くね?」
「お坊っちゃま、何言ってるんですか?私は元からこうですよ…」
「いや、もっと元気だろ。何かあったのか?昨日、体調崩したって聞いたけど、まだ良くないなら休んでもいいぞ」
「休んでもいいんですか?なら、私、実家に帰ってもいいですかね…」
「は?実家?部屋で休めばいいじゃん」
「決めました。後でメイド長に辞めることを言いに行きます。……お坊っちゃま、今までありがとうございました」
「いやいや!休むんじゃなくて、何で辞めんだよ!本当にどうしたんだよ!?」
リク様に彼女がいるのよ!
もうショックで、仕事なんて続けてられないわ。もう無理。
「だから、今のうちに新しい世話係を探してくださいね?それか私が後任を探しておき…」
「ヤダって。アリス、辞めんなよ!」
「無理ですよ。私はもう続けられませんから…」
「お前以外、ヤダ!!」
ヤダって言われても、私には無理だ。辞めるって言いに行くなら、早めに言わなくちゃね。次のシフトのこともあるし。
「お坊っちゃま。私、メイド長のところに行き…」
「行かせるか!」
「ちょっと、離してください!行けないじゃないですか!」
「当たり前だろ!行かせねェようにしてんだから」
その後、アガットさんが私達の間に入り、仲裁してくれた。が、お坊っちゃまは、それからずっと不機嫌だ。
午前中、仕事をしているうちは何も考えずに済んだけど、お昼くらいになると、そのことをすぐに考えてしまい、昼食はスープ半分しか飲めなかった。
お坊っちゃまのところに戻ろうとしたら、タスク様とドラ様に会った。お二人共、私がいつもと違う様子に気づいたのか、駆け寄って来た。
「え、アリス?」
「どうしたの?具合悪いの!?」
「具合は悪くはないんです。ただダメージを受けていて…」
「ダメージ?」
それは、リク様に恋人が……うっ!だめ。やっぱり拒否反応を起こしているわ!
「リク兄と話でもする?」
「リク様…」
話したい。でも、リク様にはもう可愛い彼女がいるから、気軽には話せない。その彼女に悪いし。
「リク様と話したら、リク様の彼女に悪いので、やめておきます。それでは、失礼します…」
「え!?」
「アリス!」
二人の呼び止める声を振り切り、私はその場から立ち去る。
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