Strange Haunted House
なぜ、なぜこうなったの!?
「お前、いつまで不貞腐れてんだよ。ほら、行くぞ」
「ちょっ…ちょっと待って。まだ行くとは!」
「愚痴なら中で聞いてやる」
「いやだー!」
どう見られようと関係ない。必死に抵抗する。絶対に入らないんだから。私は、電信柱にしがみついていた。
「………」
「ん?ハルク…?」
「……わかった」
諦めてくれるの!?思わず電信柱から手を離す。だが、ハルクはそれを見逃さず、私の腕を掴み、歩き出す。
騙されたー。気づいた時には遅かった。
「卑怯者!最低ー!」
「何言われても痛くもねェよ。そこで抵抗してるお前の方が恥ずかしいから」
「くっ! 確かにさっきから周りの視線が痛いのは感じていたわ!でも、人には戦わないといけない時もあるの。この戦いだけは負けられないのよ!」
「声に出てる……てかお前、戦ってねェだろ。さっきから何言ってんだ。リコリス達も入ってんだから行くぞ」
「うー…」
抵抗虚しく、私はハルクに連れて行かれる。
パパからチケットをもらって、この新しい遊園地に来たのだが、何でハルクと回らないと行けないんだー!
「仕方ねェだろ。ここの遊園地は、男女で回らないいけねェとかいう変なルールがあんだから」
「それならドラかカルロが良かったよ!何でハルクなの!」
この変なルール、入る前に誰一人と気付かなかった。
なぜ、受付がカップルだったのか……今なら分かる。
「オレだって、リコリスの方が良かった。お前みたいに嫌がる女と組むくらいなら………あ」
「わかったよ!もう一人で回ったら!私、帰る…」
「アリス…!」
あんなこと言われてまで、入りたくないし。
ウェディング屋敷になんて!
相当怖いお化け屋敷なんだきっと……
リコリスお姉ちゃんと入った、タスクなんて……
全身血塗れで救急車で運ばれていたし……
クロノお姉ちゃんと一緒に入ったライは……二人揃って露出度がとても高くなってて、とてもじゃないけど直視できなかった。
ラセンお姉ちゃんとリンネは残念ながら、学校行事で不参加……
……ううん。
羨ましい……
リク先生も勉強かなんかだって……
私にとってプラスなことが何一つとないじゃない!
「てか、お前……さっきまですんげェ、楽しんでただろ」
「ラストがこんなだって聞いてないもん」
メリーゴーランドもコーヒーカップも、ジェットコースタも2人乗りに違和感はなかったもん。
なのに、お化け屋敷がなんでこんなにホラーなの?!
ウェディングドレスとタキシードに着替えて、教会の中……約50メートルを歩き、牧師さんの持つペンで名前を書く。
色んな意味でホラーだし、呪われそうだし……黒歴史に入るってばぁ!
「オレも聞いてねェって」
「それで、どちらにします?」
何百回めかの係員さんの言葉に適当に指をさした。
「ワカメさんスタイルですね」
「え?」
振り向くと、係員さんの手にはかぼちゃパンツとすごく短いドレス。
「ちょ、お前! 何それ……っ」
「ハルク、笑い堪えきれてないんだけど」
「パートナーの方はこちらになります」
そう言って、係員さんが差し出したのは……
「……っあはは! 短パンにスパッツのタキシード! ハルクに似合いそう!」
なーんて笑ってたのに、いざ着てみると……お互いに笑えない格好だった。
「似合ってますよ! いざ、ハッピーウェディングへ!」
地獄の50メートルが始まってしまった……
間違っても怖がってお化けにもハルクにも抱き付かないように──
「うらやまし~!」
「いやぁ!!」
「フグっ!!……愛って……素晴らし──」
あ……つい、お化けを殴っちゃった。
「何やってんだよ、アリス」
「うぅ……お化け、ただでさえ怖いのに……怖いこと言われた気がして……」
「うらやまし~! イケメンの隣ぃ~!」
「きゃー!」
「おわ! 何すん──」
咄嗟にハルクをドンと押してしまったらしく、ハルクはお化けを押し倒していた。
お化けは打ち所が悪かったのか、鼻から出血していた。
「ご、ごめんなさい……」
「い、イケメン……床ドン……ぐふん……」
こんな感じで地獄の50メートルを進み、漸くゴールの牧師さんの所に辿り着いた。
「……おい、お前の番」
そっぽを向きながらノートを渡すなんて、感じ悪くない?
何度も溜め息をつきながら、ノートを受け取る。
あれ? タスクの隣の名前……“めーめー”って書いてある。
これって、あのアニメに出てくるキャラの名前だよね?
リコリスお姉ちゃんも、うさレン好きなんだ。
でもなんで、タスクの相手が“めーめー”なのかな。
「ほら、早くしろよ。こんなとこ、とっとと出るぞ」
「分かってるってば」
そう言って、ノートに視線を戻す。
ハルクは……あ、ちゃんと名前書いてある。
“クルハ”……右から読まないとだけど。
胸を撫で下ろしながら、私もノートに名前を書いた。
リンゴン鐘が鳴り響き、花びらやブーケの代わりにオバケや骸骨が舞う。
「お~め~で~とう~……」そう呟くのは、言うまでもなくオバケ達。
明らかに酔っている……顔が赤いし、お酒くさい……
怖すぎて私はハルクの腕に思わずしがみついた。
ハルクも怖いのか、固まっていた。
「きゃー! アリス! 可愛いわ!! こっち向いて!」
ウェディング屋敷を出るなり、リコリスお姉ちゃんが駆け寄ってきた。
「リコリスお姉ちゃん、本当に恐ろしかったよぉ……っ」
「大丈夫よ、アリス。はあくんがいてくれたじゃない。って、はあくん? 顔が真っ赤よ!」
「あ、暑かったんだよ! タキシードだし! アリスも怖がって抱き付くし!」
「って何だよ、その格好!」
タスクに言われ、私とハルクは今日一番の悲鳴をあげた……
こんな格好、誰にも見られたくなかったのに……
「普段着ない服を選ぶなんて……お洒落さんね、アリスは」
違うよ、リコリスお姉ちゃん……っ!
〈Strange Haunted House-おかしなお化け屋敷-〉
END.
(2024.05.06)