Sexy
今まで全く気にしたことがなかった。
ほんの“些細”な“一言”がキッカケだった。
「ねえ、ライ。今日はどこで?」
「ヤる気満々ってやつ?」
「あら、違うの?」
ライの癖に断るつもり?
場合によっては、ココでヤって騒ぎを起こしてもいいのよ?
「ヤりたいんだけど、とあるモノ取りに行ってからな」
「それは、あたしより価値があるのかしら」
「スッポーンまぁ虫ドリンク」
「それ、知ってるわ! 最高潮に気持ち良くなれるっていうものじゃない!」
所詮噂って思ってたけど、実在するものだったのね。
欲しいわ……絶対、手に入れたいわね。
「因みに値段は?」
「おれのセクシーな身体」
「……売り主とヤるのね」
「違うって。セクシーと認められたら、売って貰えんの」
だから今日はいつもより露出してるわけね。
「カメリアも貰えると思うぜ?」
「当然ね」
その時、ふと声が聞こえてきた。
「あのカップル、美男美女じゃね?」
「しかもセクシーだし」
「女の方、スタイル抜群じゃん! 抱かれてぇ!」
「くぅ! 時々、みえてるじゃねーか! チラ見せどこじゃねーぞ!」
サービスは、あたしの美の価値を上げるのよ。
けどね、あたしはあんた達なんて相手にしない。
利用価値がないから。
「男の方も捨てがたいって! 私、あの人になら好きにされてもいいかも……」
「見てるだけでも目の保養……いや、際どすぎて見てられない……っ」
そうね。
ライもいい男。
けど、あなた達には不釣り合い。
「野郎より女のがセクシーだって」
「彼のがセクシーよ!」
……“セクシー”
それは、あたしにとっても。
ライにとっても褒め言葉だった。
けれど、“どっちがセクシー”かなんて……気にしたこともなかった。
横目でライを見る。
彼も話が聞こえてるのか、満更でもなさそう……
でもね──
「あたしのがセクシーに決まってるじゃない」
男共の歓声が沸き上がる。
ほら、生足を見せただけでこれなんだから。
「ん? カメリア、脚なんかだしてどうした?」
何気ない、ライの項見せに女共の歓声が沸き上がる。
……許せないわ。
あたしのがセクシーなのに!
「ライ。30分で着替えてきなさい。最もセクシーな格好よ」
「……は?」
「全裸、以外ね。いい?」
「……ま、いいけど?……スッポーン、サービスしてもらうってことだろ?」
「そういうことにしておいてあげる」
ライと別れ屋敷に着くと使用人共を呼び寄せ、あれやこれやと準備させる。
フェロモン増強剤入りのお風呂。
性的欲求を高める香水。
そして、勝負服──
「おまたせ、ライ──……!?」
一方的な敵意を持って、勝負のステージに立つと……
ライは、あたしと同じような格好をしていた。
まあ、いいわ……
これなら、どっちが“セクシー”か分かりやすいものね。
しかし、一般人共は素通り。
一瞬見ても、目を逸らしてそそくさと立ち去っていく。
──どうして?
「おい、カメリア。スッポーン、行こうぜ」
ライに手を引かれ、その場を去っていく。
去り際に“お似合いの二人”と噂する声が聞こえた。
そんなのはどうでもいい。
どっちがセクシーなのよ!
あたしでしょ?
「おい、スッポーンまぁ虫──」
「ワタシ、セクシーには渡すアルけど。ヘンタイに渡す気はナイね!!」
と、結局……スッポーンまぁ虫ドリンクは手に入らなかった。
あたしの何がいけなかったっていうの?
「おまえ、スッケスケだなー」
「ライこそ。全裸と変わらないじゃない」
「おれのお気に入りの服」
「あたしも勝負服」
そう言って、指を絡ませて街中へと戻る。
それだけで気持ちが高ぶっていく。
今のあたしとライは、スッポーンまぁ虫ドリンク以上に気持ちいい──
何故か、数分後に警察に呼び止められたけど。
色仕掛けで切り抜けたのは言うまでもないわね。
END.
(2024.04.23)