Special Weather




──その夜。


「タスク兄!」
「あれ? ハルク、まだ戻ってなかったんだ?」
「戻り方、分かんねェし!」
「くしゃみには鼻水だろ?」
「風邪かっ!」
「ったく、仕方ねェな」


そう言うと、タスク兄はどこからか猫じゃらしを取り出した。


「ほーらよ。こちょこちょ~」
「へ、へーくちっ!」


アレルギー反応なのか、くしゃみと一緒に少し鼻が出た。
慌ててティッシュで拭いて、タスク兄を見る。


「酷い目にあったんだからな!」
「って、その服は?」
「え? あ、これは……」
「センス良いとは言えないけど、好みは自由だしな。はい、新しい制服」
「あのさ、これで許されるなんて──」
「急がないと、誕生日が終わる時間じゃないのか?」


文句を呑み込んで渡された制服に着替えて、タスク兄の部屋を出ていく。


「あ! いたいた。お坊っちゃま」
「アリス……」


別れ際に言った言葉を思い出して、心臓が騒がしくなる……


「タスク様に聞きました。ドラ様の実験に付き合っていたと。それで、先ほど戻られたとか」


……あれ、やっぱり!?
リコリスの魔法……ないと思ってたけど……はぁ。


「お坊っちゃま、誕生日のお祝いしましょう」
「みんな待たせてんだろ?」
「……いえ」
「これからバカ騒ぎ…………え?」
「…………アガットさんにも協力してもらって……その……」


ちょ、治まれ……心臓!
間違っても爆発すんなよ!

そう何度も言い聞かせる。


「…………二人、で……か?」
「……い、嫌ですよね? やっぱり皆さんを──」
「い、いい!! オレ、それがいい!」


“出来たら、二人で祝ってやってくれ”


「だと思いました。お坊っちゃまは食い意地、張ってますからね」
「……はぁ!?」
「プレゼントは+何キロ分かの体重ですよーだ」


アリスの小言なんか気にならないくらい、すげェ嬉しい……
二人だけの誕生日、か……

幸せに浸っていると一瞬、頬に柔らかいものが触れた。


「……へ?」
「な、何でもないですから!」


アリス……お前、まさか……


“それから、ホッペにキスとか? ま、ハードル高いだろうけどな”

無理無理無理無理! って、言いまくってたじゃねェか……
くそ……すげェ、不意打ち。
もう死んでもいい。
てか、天国だろココ……


「ほら、早く食べて下さい! お坊っちゃま、もう誕生日が終わってしまいます!」


その言葉もまともに耳に入らねェ……
もう、どうでもいい。
オレ今、すげェ幸せ──


「誕生日おめでとうでしたね、ハルク」
「あれ? ケーキ、そのまんま残ってんじゃん」
「え? ちょ、何で……」
「何でって、アガットからは誕生日が終わるまでお祝いは待ってるように言われたんだけど」


カルロ兄の言葉に時計を見ると、時計は0時を過ぎていた。


「え? あ、おい! それ、オレのケーキ!!」


幸せと引き換えに、ケーキは4分の1くらいしか食べられなかった。
……くそ……
けど、今年はもっとアリスと──

そう思いながらアリスを見ると、アリスはあっかんべーをした。





〈Special Weather-特別日和-〉



END.
(2024.05.05)
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