Special Weather




「おい、ハルク!」


タスク兄に呼ばれ振り向くと──


「今すぐ! 3秒以内に準備しろ!」
「……はぁ!?」
「はい、終了! 行くぞ」
「ちょ、まだ何も準備してな──」
「3秒あげただろ?」


全く無意味な3秒だったけどな!

タスク兄は問答無用でオレを車に乗せると、あっという間にリコリス宅へと連れて行った。


「リコリス、お待たせ」
「もう! 10分も待ったのよ!」
「本当にゴメン! こいつ探すのに手間取って……」


な、何なんだ……


「けど、リコリスのお願いを叶えられる準備は万端にしてきたから!」
「え! 本当に? それは嬉しい!」


大喜びのリコリス。
わ、ワケ分かんねェ……


「でも、どうしてはぁくんなの?」
「こいつ、今日が誕生日なんだよ」


あぁ、そうだよ。
これからアリス誘って出掛けようと思ってたのに……


「それは幸せ者よ、はぁくん!」
「…………え?」
「そうそ。リコリスに魔法をかけてもらえるんだからな!」
「……魔法?」


ほんっとにワケ分かんねェ!!


「ねえ、はぁくん? 大人になりたい? 子供になりたい?」
「……そんなの大人に決まって──」
「ミラクル・リコリン・パワー・マジーック!」


スティック片手にクルクル回る、リコリス。
その後ろで何やら呟きながら瓶を見比べる、タスク兄……
次の瞬間──


「これか!」


タスク兄の声と共に頭から何かをかぶった。
……さっき見てた瓶の中身か?

暫くして──


「へっぷし!」
「ははっ、ハルク! オッサンくせー! いや、まんまか!」
「きゃあ! タスク! 大成功だわ! 私、魔法が使えたわ!」


ワケ分からない事を言いながら、リコリスはタスク兄の手を取り部屋の中で踊り始める。
な、何なんだ……
ってか、魔法って……

ふと、手を見る。

んん?!
大きくなってないか?!

顔を触る……
……ひ、髭!?


「とーってもダンディーよ、はぁくん」
「イケオジってやつだな。良かったな、ハルク」


そう言って、二人は鏡の前にオレを連れていった。


「……うわぁぁあああ!! オッサンじゃねェか!!!」
「見た目はオッサン、中身はガキだな」
「そこもいいのよ!」
「これ、どうやって戻るんだよ!……って、いねェし!」


たった今まで、目の前にいたというのに……
二人は車でどこかへ向かっていった。


「ど、どうすんだよ……これ……」


服もピッチピチ──
あ、破けやがった。

オレは下半身の崩壊に細心の注意を払いながら、自宅へ向かう。
リコリスの家を出るまでに軽く2時間はかかった……
くそ……早くしねェと俺の誕生日が──


「きゃあ!」


その時、聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。


「だから、デートじゃないって。おれの下着、一緒に選んで欲しいってだけじゃん」
「む、無理です! 私はまだ仕事中ですし、好みの傾向も間違いなく違いますので!」
「好みは慣れで補えっから!」
「推し以外は断固拒否です!」
「ったく、仕方ねーな」


現場に向かうと、ライがアリスを車に連れ込もうとしているところだった。


「おい! やめろ!!」


咄嗟に飛び出す、オレ。
──豪快に破けるズボン。

顔を覆う、アリス。


「きゃあ!」


何故か黄色い悲鳴をあげる、ライ…… 


「しまっ──」
「やっと来たんですね!」


取り返しのつかないことになった、そう思ったのに……
アリスはオレの腕に抱きついてきた。

……誰かと間違えてんのか?
それともアリス……お前もしかして……オジ専……なのか?


「くそー! アリスに横取りされた! 悔しいから、イケオジをナンパしまくってやるー!」


ふざけた負け犬の遠吠えと共にライは走り去った。


「お、おい……」
「あ、すみません……困っていて、利用しました……」
「べ、別にいいけど……」
「お詫びといってはなんですが……」


そう言って、アリスは持っていた大きな袋から派手めな布を取り出した。


「少し……失礼しますね」


そういうと、オレの身体のあちこちに触れた。
オレの心臓は、爆発を待つ爆弾みてェに騒がしい。
目を瞑って、耐えていると気付かないうちにアリスがいなくなっていた。


「…………アリス?」


辺りを見回すと、大慌てで何かを片手に走ってくるアリスがいた。


「お待たせしました!」


そう言って、アリスはオレに派手な袋(ズボン付き)を渡した。


「……取りあえず、なので所々にボロが出ちゃってるんですけど……」
「これ……アリスが作ったのか?」
「そうですけど……って、あれ? 私、名前言いましたっけ?」


げっ! やっちまった……!


「あー……その、さっきの男が……そう呼んでたから……」
「……さっきはその……本当に助かりました……」


深々と頭を下げる、アリス。


「こんなもので済むようなレベルじゃなくて……あのまま車に乗せられていたら……」


──ほら、見てみろよ!
露出度80%!

──いやぁ! 見たくないー!

──次は90%と見せ掛け、90センチだぜー! ほらほら! 小さくて履けねーから、見せるだけー!

──いやぁぁあああ!!


……マジで変態からアリスを守れて良かった。


「てか、顔上げろって……らしくねェし」
「え?」
「あ、いや……」


……調子狂うんだけど。


「あの……迷惑ついでに1つ、付き合ってもらえませんか?」
「……? 別にいいけど」


そそくさと先を歩く、アリス。
なんかぎこちないし、危なっかしいな。
もしかして、年上に緊張とかしてんのか?
誘ったのはアリスの癖に……
……やっぱり、オジ専なのか……
地味に凹む……相手が自分ってのも何だかな……


「きゃ──」
「危ねェ!」


躓くアリスの身体を咄嗟に支える。


「あ、ありがとう……ございます……」
「ったく、ほら」


真っ赤な顔しやがって……くそっ。

オレはヤキモキしながらも、アリスに手を差し出す。


「危なっかしいんだよ」


そう言うと、アリスは戸惑いながらもオレの手を握った。


「で? どこに行くんだよ」
「それは──」


卸売市場!?
何の為に!
……なんて、思ってたけど着いてみりゃ納得がいった。


「……何か作るのか?」


買い出しを終え、外に出てオレは聞いた。


「はい。良かったら一緒に──」
「断るね。てか、アリスはどこのどいつかもしんねェ奴と手を繋いだりデートまがいなことすんだな」
「……え?」
「もし、さ」


オレは路地裏にアリスを連れ込み、壁に追い詰める。


「オレがライよりヤバイ奴だったら、どうすんの?」
「え──」


顎を持ち上げ、顔を近付ける。

ほら、ビビって──


「助けて下さった時」
「……は?」
「この人は、危ない人じゃないって……思ったんです」
「何を根拠に……」
「……えっと、言いづらいんですけど……」
「いい! 言えって!」
「………………下着……」
「……下着?」
「私のよく知る人と同じだったんです」


へ?
……アリス……オレの下着、知ってる……のか?


「あ、っと……わざとじゃないんです! さっき偶然……それから、私のよく知る彼が身に付けていたのを知ったのも偶然で……」
「お前、まさか勝手に──」
「ち、違います! ライ様がカメリア様に貢ぎ物と見せびらかしてきたんです!」


…………あの野郎……!
許さねェ!!


「と、とにかくその話は関係ないだろ!」
「関係ないですけど、関係あるんです」
「…………馬鹿馬鹿し──」
「何となく、似てるなって思って。ちょっと……嬉しかったんです」
「え?」
「……いえ、本当に少しですよ? 彼はワガママだし、すぐ拗ねるし……意地悪だし──」
「気になってんの? そいつの事」
「え──」


ただ、からかったつもりだった。
なのに……
何で……だよ。
夕陽のせい、だよな?


「べ、別に気になってなんか……」
「オレは…………オレは…………スキ、だけどな……」
「え? 何か言いました?」
「へ? あ、ち! 違う!! その粉だよ、粉!」


うわ、何言ってんだよ! オレ!!
粉が好きって、すげェ危ないヤツじゃん!


「また同じです。その彼もこれで作るケーキが大好きなんです」


……あ。
思い出した。
こいつも鈍いんだった。


「…………あのさ、1つ頼みたいんだけど」
「何ですか?」


オレはアリスに耳打ちをする。



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