Secret Treasure




「着いたわ」

「……ここかよ」

私は、はあくんと共に蔵の方にやって来た。屋敷のはじっこにあるからか、あまり人気はない。

「リコリス、本当にここにあるのかよ?」

「ちゃんとお父さんに聞いたから、間違いないわよ!ほら、はあくん。鍵は預かって来たから、中に入りましょ!」

「……わかった。さっさと見つけて出るぞ」

私は預かった鍵で開ける。
一応、懐中電灯は二つ持ってきたけど、中は明かりがないと聞いたから、出入口は開けたままにして、はあくんと入って行く。

私とはあくんが蔵の中を探してから、二時間が経過していた。

「ねェぞ。リコリス!」

「えー。どこかにあるはずよ。はあくん、もう少しだけ頑張って」

「ステーキ、一ヶ月分くらいは食わしてもらわねェと、わりに合わねェ」

「わかったわ。デザートもつけるから、お願い」

「よし。やる気出てきた!」

はあくん、本当に食い意地が張ってるわよね。出会った時はそうでもなかったのに…。
あー、アリスがよくはあくんに食べさせていたせいね。私はふと昔を思い出す。

8年前───

「ハルク。あーんしてー」

「は?またオレに食わせる気かよ。ちゃんと食え」

「もうはいらないもーん。はい、あーん…」

「仕方ねェな…」

休日は、アリスははあくんと食べるようになっていた。私も用がなければ、一緒に食べていたし。たまにお母さんやリンネが加わることもあった。その食事の度にアリスがはあくんに食べさせていたから、何でもよく食べるようになったのね。今ではアリスのまだ食べてるものを勝手に食べて、毎回怒られてるもの。

しまった。手が止まってるわ。ちゃんと探さないと、また怒られちゃう。
私とはあくんがしばらく作業に集中していると、いきなりバタンと閉まる音がした。
今の音、まさか…!奥から出入口の方を見る。すると、開いていたはずの出入口の扉が閉まっていた。

「ええ!?」

「どうした?」

「ドアが閉められてるのよ!」

「はあ!?」

はあくんが作業を一旦止めて、慌てて扉の方に走って行く。私も後に続く。
はあくんが扉を何度か引っ張るが、開かない。

「……くそっ!開かねェ。なあ、お前が持ってきた鍵は?」

「ちょっと待って。……ない。もしかしたら、差しっぱなしだったのかも」

「マジかよ…」

この倉庫が開いていて、鍵が刺さったままで、誰かが閉め忘れたと思って、閉めてしまったのかもしれない。でも、普通は中に誰かいないか、声はかけるわよね?奥にいたから、聞こえなかったのかもしれない。

鍵を失った私達は、倉庫に閉じ込められてしまった。

「クロッカスがいたら、すぐに気づいてくれたけど、昼間は用事があって、外出してるのよ。夜にならないと帰って来ないし。倉庫に行くことは伝えているから、流石に夕食の時まで私が姿を見せなかったら、探しに来てくれるでしょうけど。それまでは…」

「夜にならないと、誰も探しに来ないわけか。連絡取ろうにも、ここ、繋がりにくいな。ドラやカルロ辺りにかけてみても、全然繋がらねェ」

「アリスが気づいてくれないかしら?確か、今日は出かけないって聞いていたんだけど」

「あー、絶対気づかねェよ。リクのところで勉強を教えてもらうとか言ってたから」

今頃はリクさんといるのね。それじゃあ、私のところになんて来ないわ。うっ。アリスー(´ノω;`)お姉ちゃんは倉庫にいるの。気づいてー!

持ってきた懐中電灯が消えてしまった。スイッチを押してもつかなかった。

「電池切れたな…」

「真っ暗だわ!はあくん、スマホ」

「スマホも電池切れ」

「えー(; ゚ ロ゚)何でちゃんと充電しておかないの!」

「仕方ねェだろ。後でするつもりだったんだよ!」

「きゃ! はあくんの、えっち!」

「おい、オレ何も触ってな──うわ! どこ触ってんだよ、リコリス!」
 
「え? 私、何も触ってない……」

明かりが消えてから、何かが変だわ……
もしかして、ストーカー? 泥棒? お化け?
使われていない部屋、あるあるだわね……
どうしようかしら……本当は今すぐ“怖いわ”って、アリスに抱き付きたい……
けど、生憎……はあくんしかいない。
アリスと思って抱き付く?
いや、早まってはダメよ!
アリスがゴツいイメージに変わってしまうわ!

「……ねえ、はあくん……」

「……リコリス、怖いんだろ?」

「え?」

「……こういう時は寝たらいい。そうすれば時間は勝手に進むし、その頃には助けも来るだろうしな」

「……わ、分かったわ」

はあくんの言う通りね。
眠ってしまえば何も考えなくていいもの。
けれど、こういう時に限って眠れないのよね……
はあくんは……もう寝てる!?
寝息が心地よく響いてるわ……

私も寝ましょう……
寝るのよ、リコリス!
羊を数えるのよ!
……“リコリスお姉ちゃん”
ああ……羊の格好したアリスが1匹…………10匹……
アリスに囲まれてるわ!
幸せすぎるわ!
そうだわ、他のアリスも呼びましょう。


「……おい、リコリス」

「きゃ! はあくん!? 邪魔しないでちょうだい!あと少しで1000人達成するところなんだから!」

「1000人達成?……何の話だよ」

「あれ? 電気……」

「どうやら、7時回ったみてェだな」

「そうね」

夜7時を過ぎると、自動電源が入る。
と、いうことはそろそろ私の事も探しに来るわね。
そう思っていたのに……

「全然、来ないじゃない!」

「リコリス……クロッカスに嫌われるようなことしたんじゃねェのか?」

「するわけないじゃない!」

その時、足元で何かがモゾモゾと動いた。

「きゃあ! はあくん!!」

私は咄嗟にはあくんに抱き付き、はあくんもまた私を強く抱き締めてくれた。

「んー……朝? ……って、リコリスお姉ちゃん? と、ハルク……?…………ええ!」

そこにいたのは、私の天使のアリスだった。

「アリス、お前……何でこんなところにいんだよ! リクんとこじゃ……」

「リク先生、風邪引いちゃったらしくて……会えなくなっちゃって……」

「それがショックで彷徨って、疲れはてて眠ってしまったのね」

私はアリスをぎゅっと抱き締めて、よしよしと頭を撫でた。
……あら? ってことは、はあくんに触られたと思ってたのは……実はアリスだったってこと!?
眠ってるアリスに……きゃあ!
どうして拒絶しちゃったのよ、リコリス!

「お姉ちゃん……い、痛い……」

「アリス、ごめんね……私ったら……」

その時、重たい音を立ててドアが開いた。

「二人とも、こちらにいらしたんですね。あ、ハルクも一緒でしたか」

クロッカスはアリスを必死に探していたらしい。
アリスがいないと、私が大騒ぎするからですって。
失礼しちゃうわね。
そんなことで私が大騒ぎするはずないじゃない。
“きっと、お友達と楽しんでいるのよ。落ち着いて待ちましょう、クロッカス”
そう言うに決まってるでしょ。
 
埃だらけの私達にクロッカスは食事の前にお風呂をと言った。
折角のアリスとのお風呂だもの、たっぷり遊んで、たっぷり癒された。
食堂に向かう途中、クロッカスに呼び止められた。

「探し物、これですよね?」

「クロッカスが持っていたのね。どうりで見付からないはずね」

「なあ、リコリス。箱の中身は何なんだ?」

同じくお風呂上がりのはあくんが足を止めた。

「それはね──」


“アリスが初めて作ってくれたクッキー”
そう告げて、箱を開ける。

「あら?……中身がないわ! わ、私の宝物なのにー! いやぁぁあああ!!」

後から聞いた話なんだけど、何年か前に倉庫に虫が大量発生した事件。
それの原因がこの箱だったとか……
どんなに頑丈に保管しても、食べ物は傷んでしまう。
小さな虫は鍵をも潜り抜ける……
アリスが作ったものはその日のうちか、次の日には必ず食べる
そう学んだわ……





〈Secret Treasure-秘密の宝物-〉



END.
(2024.01.21)
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