Tears Cake Circumstances




朝、起きるとテーブルの上にケーキの箱が置いてあった。
……なぜか、保冷剤ではなく……
鍋敷きの上に。


「おかしいだろ、コレ!」


ったく、誰の仕業だよ!
嫌がらせにも程が……って、アリスからじゃねェか!


「……なんだ、コレ?」


ケーキのプレートには暗号が書いてあった。


「難しすぎだって……何の暗号だよ……」


すると、そこにアガットがやって来た。


「おはようございます、お坊っちゃま」
「あぁ。てか、アリスは一緒じゃねェのかよ」
「彼女なら、今日は来ませんよ」
「はぁ!? 何でだよ! 今日はオレの──」
「体調不良とのことです」
「え?」


おい、普通……オレの誕生日に風邪引くか?!
……昨日は肌寒い中、珍しい鯉のぼり見に行くのを付き合わせたけど……
一昨日も肌寒い中、GW限定スイーツ祭りに付き合わせたけど……
って、オレのせいじゃんか。


「お坊っちゃま。アリスさん、昨日の夜から熱があったらしいのですが、ケーキだけは作るって……」
「アリスはフラフラの中、作ってくれたのか……」
「えぇ。きっと、心を込めて……」
「お、おう……」


改めてケーキを見ると、いつも完璧なアリスにしては微妙なズレというか……
なんにせよ、アリスはオレの為に……


「なぁ、アガット。アリスは元気なのか?」
「今は寝ているそうですよ」
「い、意識不明の──」
「ケーキ、徹夜だったみたいなので」
「……そっちか。驚かすなよ。まぁ、元気になるまで待っててやるか」


──お礼、言いたかったけど……
今日は無理そうだな。
けど、誕生日に会えねェって……

まぁ……オレも一つ、歳を重ねたことだし。
数日、会えなくったって……



「お坊っちゃま……」
「……会いに行ったところで、看病もろくに出来ねェだろうし……」
「何事も気持ちが大切ですから……しかし、お坊っちゃま……鍋料理じゃないですよ」
「オレじゃねェ!」


けど暫く鍋敷きの上にあったとしたら、そろそろ食べないとヤバいよな……


「アガット。ケーキ食べる」
「はい、ご自由に」
「出てけ、ってことなんだけど」
「えぇっ!? どうしてですか?」
「見てても分けてやんねェから」


その言葉にアガットは何か察したのか、笑顔で出て行った。
悪いな、アガット。


「……アリス、ありがとな」


そう呟いてケーキを見つめる。
なんでか……涙がこぼれた。

プレートの暗号みたいな文字が余計、ボヤけて見える…… 


「……いただ……きます……」


ケーキを食べた瞬間、涙は止まった。


──気付くとオレは走っていた。


「くぉーらぁ! アリス! 何だよ、あのケーキは!」


すんげェ、しょっぱかったぞ!


「あれ? お坊っちゃま。誕生日、おめでとうございます!」
「おめでとうございます、じゃねェ! 砂糖と塩と間違えただろ!」
「…………あ、すみません! 今、寝てました……」
「……あんな塩分高いの食べさせやがって!」


アリスは都合よくも、寝落ちを繰り返しながらオレの話を聞いていた。

──前言撤回。
オレ、まだ我慢出来ねェガキだ……









END.
(2023.05.05)
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