Apricot
「ライ様」
「ん?……オーキッドか。 今日はもう終わったはずだろ?」
「ぼく……今日がその……誕生日で」
「おめでとー」
「ありがとうございま……そ、それだけ!?」
「用事済んだら、出てけよ」
そう言って、ライはオーキッドに背を向ける。
「……ライ様!」
「まだ、いたのかよ。お疲れ。おれ今、忙しいんだよ」
「何をなさって──」
「若者サーチ」
「何ですか、それ」
「若者が集まる場所探してんの……獲物、探すためにな」
「獲物、ぼくじゃダメですか?」
「…………はぁ!? 執事に手を出す馬鹿いるかよ」
「……出されました」
オーキッドは笑顔で答えた。
「アレはな、手を出した事になんねーの」
「それにぼく、今はプライベートですし」
「あのなぁ……」
ライは調べものをやめ、顔を上げる。
「誕生日ですし!」
「だから、おめでと──」
「プレゼント下さい!」
「執事が主にねだるな」
「プレゼントにライ様下さい!」
「誰がプレゼントだって?」
「プレゼントとしてライ様を下さい!」
「嫌だ」
ライは即答する。
──が、オーキッドは引き下がらない。
「プレゼントになって下さい!」
「嫌だって、言って──」
「ぼくがプレゼントになるので貰って下さい!」
「……おかしいだろ、それ……」
「ぼくというプレゼントを受け取って下さい!」
「……ったく、分かったよ。今夜だけ、付き合ってやるよ」
ついにライが折れた。
「あ、ありがとうございます……! ダメ元で言って良かった……」
「いいか? 勘違いだけはすんなよ」
「はい、分かってます」
そう言って、オーキッドはベッドに腰掛けライを誘う。
「そういう意味の付き合うじゃねーっての」
二人は身支度を整え、部屋を出る。
「ライ様、そんな格好でムラムラ出来るんですか?」
「しねーよ……何に期待してんだよ、オーキッド」
「ライ様のことだから、露出するかと……」
「獲物探しだったらな」
はしゃぎながら、オーキッドは言う。
「ぼく、今日はライ様の獲物になるって言ったじゃないですか。ライ様になら、何されても大丈夫な仕様ですし」
「しねーよ」
「ではでは、バースディサービスとしてお願いしたいのですが……」
「そんなサービスねーから」
「……がーん……」
二人は商店街へ出る。
「どっか行きたいとこねーの?」
「ありますよ! あそこ……とか」
「ホテル? 行かねーし」
「では、あそこ!」
「カラオケ? 気分じゃねーし」
「公園の草むら? 意味分かん──」
ライが言い書けたその時、イチャイチャ声が聞こえてきた。
「……却下」
「……がーん……」
「もうゲーセン」
「……分かりました……ライ様とならどこでも! それに、よくよく考えたらプライベートなので」
オーキッドの目がキラキラと輝く。
「……疚しい考えはノーな」
「ええっ! ライ様らしくないですよ!」
「オーキッドだからな」
「何故です!? ぼく、脱ぎますよ? ライ様の為なら例え火の中、水の中って」
「おれとおまえって、そういう関係に見れねーんだって」
「…………そう、ですよね……」
「好きとか嫌いとか、そういうんじゃねーけど……なんつーか……」
ライは暫く考えて、口を開く。
「すげー信頼してんだよ、オーキッド」
「……ライ様……それって友達以上の関け──」
「だから、違うんだって」
「ふふ、いいですよ。言わなくても…………あ。もうこんな時間ですよ!」
オーキッドが腕時計を見ると、間もなく10時半になろうとしていた。
「門限、過ぎちゃいましたね……」
「そんなん守ったことねーよ」
「えぇ! それはいけません! ささっ、帰りますよ」
「オーキッド」
ライはオーキッドの腕を掴んで引き留める。
「これ、やるよ」
「え?」
「プレゼント……知ってたよ、おまえの誕生日。本当は日付替わるギリギリに、黙ってドアに掛けるつもりだったんだよ」
米神を搔きながら、照れくさそうにライは言った。
「あ……ありがとうございます! えと、これ……」
「ラッコリアン。おれもよく知らねーけど、似てるって言われんの」
オーキッドは、渡された小さな人形をまじまじと見る。
ラッコをモチーフにした男の子の人形だ。
「……あ、似てるかも……ライ様! ぼく、肌身離さず持ち歩きます! ライ様だと思って添い寝します! 連れションも、共風呂もしま──」
「すんな!……ったく。ま、これからもおれの世話頼むからな」
「……はいっ!」
オーキッドは人形を抱き締め、満面の笑みで答えた。
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