Tangerine




──今日は大切なアリスの誕生日。
それなのに……

事前に用意したプレゼントは、先週見付かり……“ごほうび”と渡してしまった。
可愛い愛娘を前にお預けが出来るわけがない。
プレゼントを渡した結果、俺も娘の笑顔という“ごほうび”を貰ったわけだし。

今朝、張り切って作ったケーキは、タイミングの悪さが重なり失敗。
手が離せない時に限って、宅配ものって続くんだよな……

部屋の飾りつけは……
アリスの誕生日だからと、張り切って保育園を休ませたから……出来ていない……
何で俺は昨日も休ませたんだ……
昨日、保育園に行かせてる間に飾りつけをしておけば……

そもそも、だ。
昨日今日を親子水入らずで過ごす為にと、屋敷で働く者達を全員……休暇にしたのがまずかった。
用意が整って、当日だけ休暇にしておけば……


「はぁ……今さら何を言っても仕方ないな。出来ることをやろう……」


ケーキは購入。
プレゼントはアリスに選ばせる。
……と、なると飾りつけをすればいい。
そう、それだけ。


「パパぁ?」
「…………お、おはよう……アリス」


しまった……アリスが起きてしまった。
睡眠薬でも飲ませるか?
いや、何を考えているんだ俺は!
落ち着け……落ち着くんだ。


「だいじょうぶ? パパ、おちついて。しんこきゅー」


アリスに促され、深呼吸で落ち着きを取り戻す。


「アリス、もう起きる?」
「うん。とけいさん、3じのおやつのはんたいにいるもん」


アリスに言われて時計を見ると、9時を回っていた。

──飾り付けも不可能となった。


「アリス、朝ご飯何がいい?」
「パンケーキ!」
「よし、分かった。食べに行こう!」


いつもなら、誰かしら直ぐに作ってくれる。
……俺も作れなくはないけど、ケーキを失敗した後だからか……作る気にはなれなかった。


「わーい! れすとらん!」


折角だ。
先日、たまたまテレビで見たパンケーキ屋に連れて行こう!


「……え? 4時間待ち?」


……ランチタイムも過ぎるじゃないか!
土曜日を侮っていた……
今日はこの子の誕生日なんです! と、大人気ないことを口走りそうになった。
──が、ギリギリで耐えた。


「アリス、違うお店に行こうか」
「うん……どこでもいいよ」
「……ありがとう」


なんでかな……
俺のが子供のように感じる……


「おいしー!」


結局、いつもは入らないファミレスに入った。
メニューを見て、値段に驚いた。
桁が違う。
0の数がいくつか足りていなかったから。
店員を呼び……何度、確認したことか。

安くて美味しい店があるなんて知らなかった。
これは屋敷の者達にも教えようと心にメモをした。


「……アリス、散歩しよっか」


向かった遊園地は入場制限。
やはり土曜日を……侮っていた。

ショッピングは行くまでもなく、子供には退屈。
結果、散歩しかなかった。

けど、アリスは大喜びだった。


「パパ! こっち、こっち!」


アリスが指差した先には小さな公園があった。
そういえば、こういう場所は初めてだ……

暫くはアリスだけの貸し切りだった。
ブランコ、1つでどれだけ遊んだ?
滑り台、1つでどれだけアリスの笑顔を見れた?
砂場で子供らしく遊ぶ、アリス。
おいかけっこすら初めてだった。


「……そういや、お昼ご飯を忘れてたね」


返事はない。
きっと、アリスは背中で寝てる。

ケーキと夜ご飯を買って、屋敷に戻る。
いつもは賑やかだけど、今日はとても静かだ。

テーブルに買ったものを並べると、アリスが目を覚ました。


「……パパ?」
「改めて、誕生日おめでとう」
「わぁ、ありがとうパパ! それに、みんな!……あれ? みんなは?」
「今日は、パパと二人だよ」
「……へんなかんじ……でも、さいこー!」


突然、踊り出すアリスに思わず吹き出す。


「ゴメンな、アリス。パパ、色々と失敗しちゃって……ケーキとか全部、買ったものなんだ」
「しっぱい?」
「だから、朝から食べに行ったり……」
「しっぱい、さいこー!」
「え?」
「パパとたくさんおでかけしたり、あそべたもん!」


その一言で、今日が俺達親子にとってどれだけ特別な日だったのか……気付くことができた。


「……そうだね! あ、そうだ。プレゼントは何が欲しい? 新しいお人形さんかな? それとも──」
「ルビーのゆびわがほしい」
「……え?」
「しりとりで、せんせいがよくいうの。るびーのゆびわ」
「なるほど。パパの時から変わらないな」


確か、積み木のオモチャにも書いてあったな。
五十音。
表に絵、裏にひらがな一文字。
それの“る”は“ルビーの指輪”


「ねぇ、ちょうだい!」
「うーん、今はあげられない」
「えー!」
「けど、アリスが大きくなったら。その時は、ルビーの指輪を必ずプレゼントする」
「うん、わかった」
「だから、今はこれで」


そう言って、アリスの頬に軽くキスをする。


「……パパ?」
「お姫様だけが貰える、特別なプレゼントだよ」


とは言ったものの、アリスはまだ子供だから翌日にちゃんとプレゼントを渡した。
お姫様っぽいドレス。

それなのに──


「おなじのもってる! ……それにこのふく、なんだかちいさいよ?」


……また、やらかした。
こんなことなら、見栄を張らずに誰かに聞いておくべきだったな……







END.
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