Silent Voice





「あ、アリスさん。おはようございます」

「おはようございます。リク様…」

今日も私の天使が輝いている。今日も可愛すぎる!最高だ!!今日もいい一日になるわ!

「あの、大丈夫ですか?」

心配そうな顔で私を見上げてくる。上目遣いも可愛い!だけど、あまり見ないで欲しい。お姉さん、これ以上、君に見られたら溶けてしまうから!

「また朝からリク見て悶えてたのかよ。ショタコンメイド」

この声は天敵!
せっかくの私の至福の時間を邪魔しおってー!


「おはようございます。ハルク様。随分とゆっくりなんですね(訳・さっさと行け!)」

「リク。あまりそのメイドに近づくな。襲われるぞ。ソイツ、変態だから」

「ヘンタイ?」

「ちょっと!リク様になんてこと言うんですか!?」

「間違ってねェだろ」

「間違ってます!訂正してください!!」

「誰が訂正するかよ!事実だろうが」

「どこがですか!!」

許さぬ。リク様の前で私に恥をかかせるなんて!

──そんな二人のやり取りを少し離れて見ているカルロとタスクがいた。

「まーたやってる…」

「飽きないのかね…」

「あれは構って欲しいだけじゃん。アリス、リクしか見てないから」

「自分を見て欲しいから、あんなこと言ってるんだ。子供みたい…」

「子供に子供って言われてるし」

「子供ってオレのことかな?……カルロくん?」

「あ。聞こえてた?……他に誰がいんのさ」

カルロに言われて、ハルクは何も言えなくなる。

「……馬鹿馬鹿し……餓鬼相手にやってられっ──」

「あぁっ! ハルク様! お時間ですよ」

「はぁ? 予定なんか──」

「ほら、まだ支度も出来てないじゃないですか!」

アリスはハルクの背中を押して慌ただしく、その場を立ち去る。

「で? 何の予定があるんだよ」

アリスは電話を取りだし、誰かにかける。

「あの、私です。あの本日……はい、そうですか……」

そんなやり取りが何回かあった。

「はぁ……よりによって今日はみんな用事があるなんて……」

「へぇ、余計な事を言われる前に俺をあいつらから遠ざけたかった。それで無理矢理、予定を作ろうと思ったのにアガット達に断られたってとこか」

「うっ……」

「ほら、支度しろよ」

「はい?!」

「予定の時間、なんだろ? 誰かさんが勝手に入れた俺の」

「……1人で出掛けたらいいじゃないですか」

「ふざけんな。今日は本でも読んでゆっくり過ごそうかと思ってたのに……誰かさんのせいで──」

「分かりました! 支度してきます……本なんて普段読まないくせに……」

「何か言ったか?」

「いえ、何も」

「普段着で来いよ。外出用のメイド服で来たら許さねェ……って、いねェし」


──数分後。

「って、外出用のメイド服じゃねェか!」

「ハルク様の付き添いですから」

「……家がらみの用じゃねェだろ……まあ、いい行くぞ」

そう言ったものの、ハルクは全く動こうとしない。

「ハルク様、どうしたんですか? 出掛けるんじゃなかったんですか?(訳・車は出ませんよ? 私、運転出来ませんから。バリバリ歩いてもらいますから)」

「……何処に行くか考えてたんだよ。ほら、行くぞ」

「ちょ、ハルク様──」

ハルクがアリスの手を引いて歩き出す。


「本当に兄さん、予定あったんだ……」

「俺のケイケンからすると、行き当たりばったりな行動に見えるよ」

「ちょっと、カルロ……小学生がどんな経験したんだよ……色々、気になんだろ」

思わずツッコむタスクであった。


「ハルク様、また立ち止まってどうかしたんですか?」

「確かこっちだったかと……さっきの道、左だったか?……あー、くそ」

「左方向からクリスト屋さんのホットサンドの良い匂いかしますね」

「はぁ? 昼にはまだ早……行くぞ」

ハルクはアリスの手を引いて、左の道に入っていく。

「よし、着いた! 意外と遠いな……」

家を出て約20分(立ち止まった時間、長め)、漸く高級デパートに着いた。

「ふふ……」

「何笑ってんだよ」

「何でもないですよ」

「ま、いいや……さてと」

ハルクはデパートの地図とにらめっこ。

「此処だな」

「ハルク様、そっちの趣味あったんですね……」

「違うっての。お前の服。そんな格好でくんなっての」

「わ、私!?」

店に入るとハルクが何やら店員と何か話しはじめる。
暫くして──

「アリスさま、こちらへ」

服を見る前に試着室に案内される、アリス。

「こんなの無理ー!!」

アリスの声が響く。

「ちょ、ハルク様──」

「お。良いじゃん」

控えめとはいえ、露出のある服を来たアリス。

「そんじゃ行くか」

「行くか、じゃないわよ!」

「もっと派手なのが好みだったか?」

「……馬鹿」

「ま、馬子にも衣装ってやつか」

「ありがとうございます(色んな意味を込めて)」

店を出ると、ハルクはまたしても立ち止まる。
そして溜め息一つ。

「…………お前、何かないの?」

「何かって……」

「だから気になってる場所だとか」

「あるにはあるけど……」

「どこ?」

「え! 行くんですか!?」

「連れてってやる、特別にな」

「いえ、いいです! 私一人で行きますから」

「何だよそれ、オレとは行きたくないってか?」

「はい……じゃなくて、ハルク様にはちょっと……」

「あ? オレがなんだって?」

ハルクが一気に不機嫌になる。

「……いえ…………でも、文句は言わないで下さいよ」

そう言って、アリスは裏路地を通り抜けて──

「だ……駄菓子屋?」

「はい。先日、偶然みつけて……ずっと、来たかったんです」

「駄菓子って何だ?」

「でーすーよーねぇ……まあ、とりあえず入ってみましょう」

中に入って、ハルクが呟く。

「狭っ…………コレ何だ? ……10円? 見た事ねェ値段だぞ!?」

「ちょっと、静かに──」

「こんな所より──」

「文句言わない約束です」

「…………来なきゃ良かっ……じゃねェ……お前のオススメは?」

「私は昔、この小さなチョコレートやヨーグルトみたいなものが好きでした」

「今は嫌いなわけ?」

「……いつも一緒に食べていた子の事が好きだったんですけど」

「はぁ?! そんな理由でここに来たかったのかよ」

「違います! 話はちゃんと最後まで聞いてください」

「ま、いいや。その二つ、適当に貰うぞ」

そう言って、ハルクは札束を出した。
店員のおじいちゃんはそれを見て腰を抜かしたのは言うまでもない──

「ハルク様、ちょっと!」

「ん? カード使えねェんだろ?」

「だからって……もう……私、出しますから」

「今日はオレが──」

「小銭、持っているんですか?」

「そんなもの……持ったことねェし……」

アリスは会計を済ませて、外に出る。

「お待たせしました。ハルク様はどこか行き──」

「ねェよ」

「それじゃあ、帰りますか。ある程度、時間は潰せたと思いますし」

「帰らねェ」

「それじゃあ、えーっと……」

「さっきの……いつの話だよ」

「え?」

「その……いつも一緒に食べてたって……」

「ずっと昔ですよ」

「いつだよ」

「……幼稚園の時です」

「そいつとは……どこまで…………あ、いや……」

「あ! あそこ、ベンチ空いてますよ! 行きましょう!」

「……誤魔化しやがったな……」

ベンチに座って、先程購入した駄菓子を食べる。
だが、二人に会話はない。

「……ハルク様、美味しいですか?」

「まずくはない」

「……楽しいですか?」

「…………さあな」

「……行きましょう、ハルク様」

「あ、おい! まだ帰らな──」

「一応、言っておきますけど。あの男の子……それっきりなんです」

「どうでもいいって──」

「亡くなったんです、病気で」

「え──……それは……悪りィ──」

「もう10年以上前の話で……顔も思い出せなくなっちゃって」

アリスは寂しそうに笑う。

「そんな顔で笑うなよ……ちゃんと思い出として残ってる。顔だって生まれ変わったんだろ。そりゃ忘れるよ」

「ハルク様……」

「親以外に覚えてられたら、生まれ変わるの躊躇うだろ……」

「そう、だよね……」

「で、どこに行くって?」

「カラオケ! ハルク様、何か溜め込んでるみたいなので発散しないと!」

「カラオケ!? いや、ちょ……待て──」

「ハルク様、まさか初めて……ですか?」

「それ、嫌みか? 送迎付きでいつ行くんだよ」

「小学生で出会った時からそうでしたね……」

「そんな顔すんなって。ただし、下手でも笑うなよ?」

「笑いませんって」

二人は受付けを済ませて、部屋へ。
先ずはアリスが。
次に……アリス、またアリスが──

「あれ? ハルク様、歌わないんですか?」

「……ああ、オレはいい」

「もしかして歌えるものがないんですか?! メイド賛歌とかド・マイナーな曲とか入ってるのに……執事達ノ夜だとかもあったのに……」

「お前、歌えよ。聞いててやっから」

「う、上から目線……」

ムッとしたアリスは適当に数字を打ち込み、送信。

「はい。ハルク様(訳・歌えるもんなら歌ってみなさいよ)」

マイクをハルクに渡す。

「…………お前な……」

しかし、ハルクは歌い上げた。

「嘘……」

その後、何度か繰り返すアリスだったがハルクは全て歌い上げたのだった。

「か、完敗だわ……しかも上手い……」

そんなアリスにハルクは不適な笑みを浮かべる。

「そろそろ帰りますか」

「……だな」

屋敷を前にハルクの足が止まった。

「ハルク様?」

「あー……そういや、お礼は?」

「今日は色々とありがとうございま──」

「そうじゃねェだろ! こういう時は」

ハルクがアリスの腕を引く。
一気に二人の顔が近づく──

「気付けよ、馬鹿」

「何ですか! いきなり」

「オレはお前が──」

「邪魔ですよ」

二人の間にはカルロがいた。

「うわっ! お前なんで──」

「塾帰り。同じくリク兄もそこに」

「え! リク様も!? きゃあ、もう! ハルク様、離れて!」

アリスはハルクを突飛ばし、リクの所へ。

「リク様、おかえりなさい」

アリスがしゃがむと、リクとカルロの顔が真っ赤になった。

「ど、どうしまし──」

「いい眺め……だったら良かったのにな」

笑いながら、ハルクが言った。

「餓鬼共には刺激が強すぎたな」

「俺は……み、見なれてる!」

「今から慣れてたら、ろくな大人になれねェぞ」

リクは顔を真っ赤にして倒れてしまう。

「リ、リク様!」

「ほっとけよ。コイツらの執事が何とかすんだろ。ほら、行く──」

「もう、いい加減にしてよ!」

「今朝の仕返しだっての」

「大人げないです……」

「大人げなくて悪かったな」

そう言って、ハルクはアリスを抱き抱える。

「なっ、何するんですか!」

ハルクは何も答えない。

「え……ハルク様の部屋……?」

部屋に連れて帰ったはいいが……
二人きりで自室ということを意識しすぎて、逆に何も出来なかったハルクであった。

その代わり──

「まったく、ハルク様は弟様方に対する接し方がなってません! いいですか──」

たっぷりアリスに説教をくらいました、とさ。









END.
(2022.05.04)
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