Pair(対/つい)




お屋敷に住むようになって、一ヶ月が経った。
最初はあまりに広すぎて、どこに何があるかさっぱりわからなかったけど、使用人の子達に教えてもらいながら、覚えられた。使用人の一部からは、好かれてはいないのを感じるけどね。他は仲良くなれそうな子達が多かったから、ここで住むのも悪くはないかなと思い始めた。

兄弟達も優しくしてくれる人もいれば、認めないとばかりに無視してくる人もいたけど。パパが決めたんだから、諦めてもらおう。ここはパパが一番なのだから!

ジルからも連絡はよくきていたから、ちゃんとやっているから、心配しないでと返しておいた。祖母だけど、母みたいな存在で、私の家族と言える人。
私の産みの母親は、子供を育てられない人だと知ってる。生まれてから、一度も会ったこともないし。ジルや乳母のサリーがいてくれたから、寂しくもなかった。腹違いの妹のティーもいたし。

学園も今まで通っていたところからだと遠すぎるからと、編入することになった。あと一年なんだし、転校なんかしたくなかった。仲の良かった友達と離れるのは寂しかったけど、パパの意見に従うことにした。友達とはいつでも連絡は取れるしね。

双子の片割れであるライ、腹違いの弟のスミレと同じ学園と聞いて、最初は嫌だった。
幸い、ライとはクラスも違うし、スミレとも学年が違うから、顔を合わせることはなかった。噂はよく入って来るけどね。

編入して、クラスの人達とも話してみたが、良い人達ばかりに恵まれた。新しい友人も出来て、楽しく過ごしている。

だが、ライの双子と知られたせいか、たまに迫ってくる男が複数いた。ライは男女関係なく、遊んでいたらしく、私もそうだと思われていたらしい。最初は無視していたが、あまりにしつこいようなら、相手にするしかないと思っていた。私も護身術は習っているから、そこら辺にいる柔な男を倒せるにはくらいは出来る。きっと力で押さえつければ、いけると思って、絶対に舐めてたわね、あの男達。

しかし、私が相手をする前に私の専属侍女のエクルが同い年もあって、学園でもついてくれてたから、私の出番はなかった。エクル、キレイな顔してるのに、すごい強いのよ。10人いた男達を1分もしないうちに倒しちゃったんだから。本人も「これくらい朝飯前にも入らないです」とか言うし。


そんなある日。
私がエクルと廊下を歩いていると、向こうから複数の男子を引き連れた女がこちらにやって来る。緩やかに巻かれた長い黒髪で、整った顔はバッチリと化粧がされていた。制服を着ていてもスタイルの良さがわかる。この人の顔、どこかで見たことがあるような…。どこで?

そう思っていたら、その人が何故か、私の前で立ち止まる。


「あなたがライの片割れ?」

「そうだけど。あなた、誰?」

「アタシは、カメリア。カメリア・セミフレッドよ」

「カメリア・セミフレッド?」

すると、隣にいたエクルが教えてくれた。


「アメジスト様の妹であるシトリン様の娘のカメリア様です」

「シトリン叔母様の!」

どおりで見たことがあるわけか。パパと双子と聞いていたけど、私、あの人は苦手なのよね。顔の良い男やガタイの良い男しか見てないし。あの母親に似て、娘も男を侍らしているのね。流石は親子。母親の方も若い男と一緒にいたし。

そういえば、昨日、この女、うちにいる執事の口元にホクロがある……名前は忘れたけど、その執事に話しかけていたわね。ハルクの専属執事。イケメンだからと、口説きに言ったのかしら?執事の方は慣れているのか、受け流してはいたけどね。


「顔は、少しライに似てるわね。でも、体型はお子様」

「……………は?」

「成長は残念ながら、止まってしまったみたいね。かわいそう」

カメリアが笑うと、引き連れた男達も私のことを嘲笑った。この女、私をバカにしてる!
それならば、私も負けない。すぐに笑みを浮かべながら、カメリアに言った。


「そりゃあ、あなたに比べれば、私は子供に見えるでしょうね。でも、今からそんな濃い化粧を毎日していたから、肌がボロボロになって、将来大変じゃない?更に分厚い化粧をしないといけないわよね!」

「………何ですって」

私とカメリアが睨み合う。
が、すぐに私達は顔をそらして、その場を去った。


「あー、腹立つわ!あの女!!」

「メア様がああ言ってくれて、スッキリしました」

「え?」

「カメリア様は屋敷に来ると、男の使用人には挨拶しますが、私達女の使用人は一切、無視しますから」

「最悪な女ね!」

何様なのよ。男にチヤホヤされてるってだけなのに!


「というか、あの女、よく来るの?昨日、姿を見かけたけど」

「いらしてますね。エド様、ライ様、ブラッド様、スミレ様と身体の関係を持っていますから」

「えー。あの女の何が良いわけ!?やっぱり身体なの?性格は間違いなく良くないわよ!」

「同感です。私も理解は出来ません」

「エクルもハッキリ言うのね!」

「うちにいる者達もほとんどがカメリア様を嫌っていますから」

確かに女に好かれるタイプではないわよね。むしろ、嫌われる。あの女は気にしなさそうだけど。


「でも、他の兄弟達はあの女のこと、どうなの?」

「さっきの4人以外は、あまり好意的ではないですね。グレン様、カルロ様やリク様、フェリ様は挨拶程度の話はしますが、あとの方達は無視です」

「無視?」

「ええ。マシロ様は、無視というより寝てばかりなので、少し違いますが。タスク様、ハルク様、ドラ様は嫌っているのか、カメリア様を無視しています」

「ふーん。兄弟達でも嫌いな人もいるわけね」

「タスク様には婚約者のリコリス様がいますし、ハルク様は…」

「いっつもアリスにくっついてるわよ」

来た日から、メイドにくっついてる男の子がいるなとは思ってたのよね。ここに来てからも毎日毎日…アリスから離れやしないし。そのアリスとも仲良くなって、ここに慣れるまで、しばらくアリスを借りたいとハルクに言ったら、即「ヤダ」って断ったのよね。どれだけ独占したがるのよ!

エクルもわかっていたのか、苦笑していた。


「アリスといえば、カメリア様はやたらアリスをライバル視しているんですよね」

「え、そうなの?」

「ええ。アリスは気づいてませんけど」

アリスは、色恋には鈍いからね。それ以外のこと、体調が悪かったりなどの他人の些細な変化を見つける時は、鋭いんだけど。



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