School infiltration Edition(後)
「ねぇ」
「………」
「ねぇ、そこのキミ」
「………」
「聞こえないの?そこの金髪のキミ」
「……………え」
声が聞こえて、振り返ると、黒髪のキレイな女の子がいた。しかし、顔を見ても知らない子。私を誰かと間違えてたりするのかな?名前は呼ばれてはないけど。
「あの…?」
「ふーん。本当にパパが言っていた通りだね」
「パパ??」
ますますわからない。首を傾げていると、女の子はそんな私をよそに更に続ける。
「ラピスラズリ・マリーゴールドにそっくり」
「ラピス、ラズリ…」
その名前、こっちに来てから、やたら聞く名前だ。以前、お坊っちゃまの祖父であるコルチカム様からもそう言われたことがある。
だが、私には心当たりはない。
「私、そんな人、知りません」
「そんな人、ね…。キミの母親の名前でしょう?」
「……え?」
私の母親?この子は、何を言っているの?やっぱり誰かと間違えてるんじゃ…!
「私の母親は、ラピスラズリという名前じゃないです」
「そう。じゃあ、父親の名前は?」
「父親?どうして、あなたにそんなことを言わないといけ…」
「ルビー・マチェドニア」
「は?」
誰のこと?そんな人、私は知らない!
よくわからないことばかりを言うこの子から離れたくて、席を立つ。すると、後ろからその子が言った。
「○○年度のアルバムを見てみるといいよ」
「え」
「そこにキミと同じ顔した人が映っているから」
女の子はそれだけ告げると、私の元から去って行く。
少し気になった私は、再度、卒業アルバムのある場所に向かう。言われた年度のアルバムを見つけて、取り出して、ページをめくる。
私と同じ顔した人なんて……そう思っていた時、見つけてしまった。この人だ。書かれていた名前は、ラピスラズリ・マリーゴールド。
同時に同じページにリク様そっくりの顔写真もあった。書かれた名前は、アメジスト・ドルチェ。ドルチェ家現当主。リク様達の父親でもある。更に少しページを先に進めると、スナップ写真の中に当主と一緒に映る女の子がいた。当主は柔らかな笑みで彼女を見ていた。もしかして、二人は恋人だったのかな?
だけど、当主はお坊っちゃまとタスク様の母親と結婚した。それなら、この人はどこに…。さっきの子、ルビー何とかって言ってたっけ。その人を探そうと、再び最初から探してみるが、そのルビーって人だけは見つからなかった。
「アリス!」
「あ、お坊っちゃま…」
「姿が見当たらねェから、アガットのところに行ったかと思ったぞ!」
「……………」
「アリス?」
「すみません。ちょっとボーっとしてたみたいです。帰りましょう!」
私はアルバムを棚に戻して、お坊っちゃまと共に学園を出た。いつもなら私がお坊っちゃまに話しかけるのだが、何だか話す気分になれず、私は黙って歩いていた。
「アリス」
「…………はい」
「何か、あったか?」
そう尋ねられたが、黙って首を振った。これは、私の問題だから。お坊っちゃまには関係ない。
車に着いてからも、簡単な返事しか答えず、屋敷まで窓の外を眺めていた。
屋敷に戻ると、ドラ様から薬を受け取り、元の姿に戻れた。良かった。安心していたら、お坊っちゃまに「今日は大変だったから、部屋で休め」と言われたので、素直に従い、早めに休むことにした。
先にシャワーを済ませ、一人で食事を終えてから、自分の部屋に戻って来た。いつもなら、皆と一緒にいるが、今日は何となく一人でいたくて、断った。
「……………」
昼間のアルバムを見て、私は考えた。
ある仮定がぐるぐると私の中で渦巻いていた。違うならいい。だけど。もしも、そうならば…。
そして、密かにある決意をした───。
【END】