School infiltration Edition(後)




さて。お坊っちゃまの授業が終わるまでの一時間、おとなしく本でも読んでよう。読み途中の本がまだあるし。

早速、図書室に来れば、人は少ないけど、私の姿を誰かに見られたくない。だから、奥に向かうことにした。

さっきまでいた奥の本棚で読み途中の本を探そうとしたら、いきなり後ろから手を引かれた。え、誰!?振り返ると、息を切らすお坊っちゃまがいた。ここまで走ってきたのかな。でも、何で?今、授業中のはずよね?


「お坊っちゃま。授業は?」

「自習になった。プリントだけやって提出すれば、いいだけだから」

「プリント?」

お坊っちゃまのもう片方の手には、クリアファイルとペンケースがあった。


「でも、私といたら…」

「堂々としてれば、いいんだよ。バレた時のことだけ考えるな」

「……………そ、うですね。わかりました」

お坊っちゃまと勉強スペースのところに来た。
勉強してる人は数人しかおらず、私とお坊っちゃまは一番奥にある誰もいない席に座る。お坊っちゃまの持ってきたプリントを見る。


「数学ですか。懐かしいですね!」

「懐かしい?」

「それはそうですよ!私も中学生の頃があったんですから。この問題は、先にここを解いてから…」

「え?アリス、わかんの!?」

「失礼ですね!数学なら得意でしたよ」

そう答えたら、お坊っちゃまが「マジ?」みたいな顔で私を見た。心外だわ。私、お坊っちゃまにアホと思われていたのね。


「わからないところがあれば、教えますから」

「答えだけ教えろよ」

「だめです。自分でやらないと身になりませんから、自分で解いてください」

「……ケチ」

もう!やれば、ちゃんと出来る子なのに…。楽をしようとして。

お坊っちゃまがプリントに励んでいるその隣で小説を読んでいた。すると、隣から軽く服を引っ張られた。


「ここ、わかんねェ…」

「ああ、ここの問題は…」

プリントを覗き込み、説明をしようとしたら、何故かお坊っちゃまの顔が赤い。


「どうしました?」

「近くねェ!?」

「問題がわからないんですから、近づきますよ。遠いと教えられないじゃないですか?」

なのに、お坊っちゃまは「もう少し離れろ」と言ってきた。教わる気あるかしら?


「私に教わりたくないなら、別にいいですよ。困るのはお坊っちゃまなんですから」

「………うっ」

結局、お坊っちゃまが折れた。
そうして私はお坊っちゃまに教えることになった。


「ここは……で、………によって……になります。とすると…」

「……ああ。なるほど!だから、ここは…」

「そうです。正解です!お坊っちゃまもやれば、出来るじゃないですか!」

「何かカチンと来る言い方だなー。お前のその言い方。教えるのは上手いけど、褒めるのが下手」

「お坊っちゃまの場合、褒めると調子に乗るじゃないですか」

それからプリントを終わらせ、時計を見れば、20分ほどで終わった。あと30分はあるわけか。私は小説の続きを読もうとしたら、お坊っちゃまに奪われた。


「時間まで読むので、返してください」

「ダメ」

「今、いいところなんです」

「オレを放置して読むな」

「お坊っちゃまもこの際に本を読んだら、どうですか?面白いですよ」

そう提案すれば、即「ヤダ」と返答された。お坊っちゃま、漫画しか読まないからね。お坊っちゃまと話をしていると、ふと思った。これはチャンスじゃない?ここならば、見られる!


「そういえば、ここに昔の卒業アルバムとかありますよね?」

「あるだろうな。うちの兄弟全員、ここを卒業してるし」

「リク様の卒業アルバム、見たいです!」

「本当にリク兄が好きだな、お前。てか、本人に言えばいいじゃねェか」

「言えてたら、苦労しませんよ!アルバムのある場所だけ教えてくれたら、私一人で見て来ます」

「暇だし、オレも行く。この際だし、他のヤツらのも見てみようぜ」

私とお坊っちゃまは、卒業アルバムの置いてある棚に向かった。その前に読んでた小説を棚に戻して。
アルバムのある棚は、人が滅多に来ないのか、そこだけが薄暗かった。電球が切れそうでチカチカしてるし、ちょっと埃っぽい。図書室の掃除当番が掃除をサボっているのかもしれない。そうこうしているうちに、お坊っちゃまがアルバムを取り出して、持ってきた。


「まずは、グレン・エド・カルロのだな」

「リク様を一番に見たかったのですが、楽しみは後の方がでいいですしね!さ、見ましょう!」

アルバムを開いてみれば、私の持つアルバムと大差はない。クラス順に集合写真と担任、生徒一人一人の写真が映っている。


「あ、エド様です。この時は髪が短かったんですね。短い方が似合ってます!」

「高校から、伸ばしてたな。長くて腰辺りまであったけど、いつの間にか今くらいになってたな」

「そうなんですね。今度は、グレン様。反対にグレン様は、肩くらいまであったんですね。今は短いからか、何か変な感じです。……あれ?」

「どうした?」

「カルロ様、何か雰囲気が違いません?」

今の雰囲気とはまったく異なり、表情がかなり暗い。顔が良いのは変わってはいないけど。それは、他の二人にも言える。それにしても、今とは全然違い過ぎる。


「これくらいの時だった気がする。カルロ、好きな女と別れさせられたの」

「カルロ様、彼女いたんですか!?」

「屋敷にも何度か来てたぞ。明るくて、真面目そうな女だったな」

そうなんだ。あのカルロ様にも真面目に付き合っていた時があったのね…。今は女の人と遊んでるみたいだけど。


「親父が反対したらしい。相手の家がうちと釣り合いが取れないって」

「ドルチェ家と釣り合い取れる方が少なくないですか?」

「まあな。無理矢理別れさせてから、部屋から全然、出て来なくなってさ、リク兄達が心配してたけど。しばらくしたら、今みたいに遊ぶようになっちまったな」

庶民よりも、結婚は大変そうだ。私、庶民で良かった!でも、私もそろそろ誰か見つけないと、20歳に縁談が来ちゃうな。私も将来のことを少しは考えないと。リク様を諦めることも。……まだそんなことは、考えたくない!

その後は、部活ごとの集合写真があり、イベントごとのスナップ写真が沢山あった。一年時からのもあったから、三人が一緒に笑ってる写真もあった。カルロ様も一年、二年時は暗い顔で映ってはないし。というか、三人の写真が多くない!?


「このアルバムを担当したヤツら、余程うちの三人を載せたかったんだな。スナップ写真、必ず1ページに誰かしらがいるぞ」

「本当ですね」

屋敷内だけでなく、学園内でも人気ありそうね。他にもかっこいい子はいるんだけど、あの三人は別格というか…。ドルチェ家血筋、すごいな。
アルバムを閉じると、お坊っちゃまがもう一冊を手に取る。


「次はお前の大好きなリク兄だな」

「リク様!!待ってました!」

私は待ってました!とばかりに思いっきり拍手する。早速アルバムを開いて、すぐにリク様の姿を探す。まずA組から………いない。次、次。リク様を見つけようと、ページをどんどんめくってく。


「アリス。お前、ブラッドをすっ飛ばしてるぞ」

「あの人は見たくないです。どうせ今と変わらず、生意気そうな顔をしてそうなので」

「……………」

何か言いたそうなお坊っちゃまを無視して、私はリク様を探す。すると───


「いた!!リク様です!」

E組でようやくリク様を発見。
あー、今よりも少し幼いけど、やっぱり素敵!この頃はかっこいいよりも可愛い感じね。私もこの時にここにいたかったな!いいなー。同じクラスの人達。
この頃のリク様の写真も欲しい。前にカルロ様に小学生の頃の写真を少しもらったけど、全然足りないのよ!後でクロッカスさんに聞いてみよう。


「リク様、可愛いです…」

「お前の今の顔、他人に見せられねェくらいにやべーぞ」

「え!?それは、仕方ないじゃないですか!リク様の写真を見てるんですから、にやけないわけありません( ・`д・´)」

「堂々と言うことじゃねェ」

それからアルバムに映るリク様を舐めるように見ていたら、チャイムが鳴った。どうやら5限目が終わったらしい。お坊っちゃまにアルバムを奪われ、元の場所に戻された。だって、まだ途中だったんだよ!まだ見ていたかったのに、お坊っちゃまに手を引かれて、その場を離れた。

私達は、先程座っていた席へと戻る。荷物を手にしたお坊っちゃまが言った。


「オレ、一旦、教室に戻るから」

「じゃあ、私はアガットさんのところに行き…」

「すぐ迎えに来るから、それまでここで待機!」

「えー。アガットさん、もう迎えに来てるんですから、車に避難したいです」

「ダメ!絶っ対にここにいろ!いなかったら、リク兄にお前の仕事でやらかした話を色々と話すからな。いいのか?」

「………うっ…」

ひどい。脅迫だわ!
私は渋々、お坊っちゃまに従うしかなかった…。

お坊っちゃまを見送り、私は戻って来るまでの間、この席に座ることにした。お坊っちゃま、早く来てくれたらいいけど。



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