School infiltration Edition(後)
「お前、来るの早いじゃん?誰かにでも教えてもらったの?」
「タスク様。誰と話して………っ!!?」
タスク兄の前に座っていた女がこちらに振り向く。その声は、間違いなくアリス。というか、髪型がいつもと違うから、一瞬、見間違えたかと思った。
「アリス、何してんの?」
「……………」
オレを見たアリスは、すぐハンカチで顔を隠し、オレを見ないように言った。
「ひ、人違イデス」
「違わねェ!」
ハンカチを取ると、苦笑したアリスの顔があった。てか、うちの制服着てても、違和感ねェな。むしろ、似合って──
「ハルク。ここまで邪魔しに来ないでくんない?」
「オレが来たっていいじゃん!」
「てか、何でここがわかったんだ?……ああ。お前の周りに新聞部がいたな…」
タスク兄が何か言っていたが、オレは気にせず、隣の席にあったイスを引き寄せて、アリスの横に座る。
「で、何でいんだよ!」
「何でって、言われましても…」
「オレが呼んだ。ハルクの学園生活を見せるって」
「はあ!?」
「お坊っちゃま、声が大きいです。さっきから、他の人がこっちを見てますから」
アリスに言われて、周りを見れば、他の席に座る女達もこちらを見ていた。謝ってから、少し声を抑える。
「悪い。そんで、どうだった?」
「流石に教室内は無理でしたが、体育の授業だけ見ましたよ。活躍してましたね。シュートも何本か決めてましたよね。素敵でしたよ!」
「……っ、んなの当たり前じゃん」
「お前、アリスの前だと、変にかっこつけるところがあるよな…」
「べ、別にいいだろ…」
アリスが褒めてくれること、あんまねェし。てか、授業、見てくれてたんだ。ちょっと嬉しい。にやけそうになるのを何とか堪える。タスク兄は、ニヤニヤとオレを見ていたけど、気づかねェフリした。絶対からかわれるから。
「そういえば、お前、何か小さくなった?いつもより小せェ気が…」
「ハルク。お前、本当にアリスのことに関してだけは敏感だよな」
「タスク兄!」
「今の私、お坊っちゃまと同じくらいですからね」
「え…」
同じくらい?確かにいつもよりは目線が同じくらいか。少し小さいよな。幼い感じもするし。
しばらく会話していたら、そこへチャイムが鳴った。どうやら昼休みが終わりを告げるチャイムだ。残っていた生徒達が立ち上がり、続々と食堂から出ていく。
テラス席もいつの間にか、オレ達三人しかいなかった。
「タスク様。私、帰りたいんですけど、いつまで学園にいたらいいんですか…?」
「オレさ、今日は6限まであんだよね。それに放課後もクラスのヤツと約束してるし。……そうだ。ハルク」
「ん?」
「お前さ、今日は5限までだよな?授業が終わってから、アリスと一緒に帰れば?」
「え」
アリスと帰る?アガットが車で迎えに来てくれるけど、アガットが待つ駐車場のところまでは、アリスと二人で歩ける。しかも、今のアリスは…。
タスク兄がオレに近づいて、肩に腕を回しながら、オレにだけ聞こえるように言ってきた。
「(家に帰るまでは、アリスはお前と同い年だぜ。お前より背は低いしな。いつもなら反対なのに)」
「(うるせェよ、タスク兄!)」
「ははは。照れてやんの!」
「うっせェ!」
食堂から出ると、タスク兄とは別れた。
アリスと残されたオレは、取り合えず一年の教室がある方に歩き出す。
「お坊っちゃま。これから授業ですよね?私、終わるまでは図書室で待っていますね…」
「……ああ」
いくら制服を着ていても、アリスはここの生徒ではない。ねェけど、たまにすれ違う生徒(特に男子)がやたらアリスを見ていた。オレがいるから、声をかけて来ないのが幸い。ま、声をかけてこようとするヤツにはガン飛ばしてるけど。
コイツ、本当に黙ってると、どこかの令嬢だよな。話すと全然違うけど。
「ハルク?」
「あ?」
名前を呼ばれ、振り向くと、同じクラスのセツナがいた。そうだった。コイツは空気を読めねェんだった。……一人か。ラセンはもう自分の教室に戻ったのかもな。
「そっちは教室のある方じゃないぞ」
「え?」
セツナに言われてみれば、曲がるはずのところを既に通り過ぎていた。でも、アリスが…。そう思い、アリスを見れば、ニコッと笑って言った。
「それでは、お……ドルチェくん。また後で」
「……ああ」
アリスが頭を下げて、オレから離れた。
てか、アイツ、お坊っちゃまって言いそうになってたな。きっと図書室に戻ったんだろうけど。
アリスの背中を見ていたら、再度セツナに呼ばれたので、渋々セツナの後をついてく。
「さっきの女は知り合いか?」
「まあな…」
珍しくセツナがそんなことを聞いてきた。あんま他人に興味を持たねェのに…。
「そういや、ラセンは?一緒じゃなかったのか?」
「午後は体育だから、早めに別れた」
ラセンはE組だっけ。オレとセツナはD組だから、体育でも一緒にならないわけか。
この後の授業は、何だっけ?せっかくアリスが幼くなってるんだし、このチャンスを逃したくねェな。サボるかなと考えていたら、教室に着いた。
ふと黒板を見れば、誰かが書いたのか、自習と書いてあった。
「自習?」
「そう。午後は自習だって。プリントだけやって、提出すればいいって」
席に戻ると、シンジュがそう答えた。既に配られたのか、机にプリントが置いてあった。自習なら、教室にいなくてもいいよな?
「別にここでやらなくてもいいよな?」
「うん。5限目終わってから、提出すればいいんだよ」
「オレ、図書室に行ってくる!」
プリントをクリアファイルに入れ、ペンケースとそれらを持って、教室を出た。
そんなオレを見て、シンジュとコウは顔を見合わせて笑っていたことをオレは知らない。
「コウ。わかった?」
「もちろん。ハルクはわかりやすいし」
「だよね。向かった先は、間違いなく───」
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