Gloss




とあるホテルの一室。
そこで若い男女がベッドの中で抱き合っていた。ベッド近くの床には、二人の衣服や下着が散らばったまま。
女が男の頬に自分の頬をくっつけて、甘える。そんな女に男の方は嫌がることなく、受け入れた。



「随分とご機嫌だね。リアは」

「それはそうよ。あなたとは久々だったけれど、もう最高だったもの。気持ち良くて、何度もイッちゃったわ!」


うっとりしながら、そう話すのはカメリア。そんなカメリアを優しく見つめるのは、ドルチェ家次男のエドヴァルド。



「ふふ、お褒めにあずかり光栄だね。でも、君はライが一番のお気に入りじゃなかったの?」

「あたし、そんなこと言った?ま、ライはライで気に入ってはいるけどね」


二人は恋人同士ではないが、たまにこうして関係を持っていた。カメリアには、婚約者はいるけれど、エドには婚約者はいない。だが、互いにそれぞれ不特定多数のセフレはおり、エドもカメリアもそのうちの一人でもあった。



「そうだ。リア。スーが寂しがっていたから、そろそろ連絡してあげて」

「スミレ?忘れてなければ、そのうちするわ」

「スーはお気に召さないの?」

「うーん…。スミレって、顔は良いんだけど、エッチは普通なのよね。あたしに惚れてるのはわかってるから、可愛がってはいるけど、それだけなのよ」

「君の婚約者より?」

「アレックスに比べたら、スミレの方がいいわね。アレックスもあたしに惚れているから、あたしの火遊びについては黙ってるの」


カメリアはクスクスと笑いながら、エドの腕に頭を乗せる。



「イケナイ娘だね」

「うふふ。そうね。イケナイ娘なの!あたしね、もう一人の男で満足出来ない身体になっちゃった。だ・か・ら…」

「だから?」

「あたしを食べて?エド」


カメリアがエドの上に乗り、その首に腕を回し、軽く口づける。



「君は魅力的だね、リア」

「あなたも魅力的よ。エド」


今度は、カメリアの上にエドが覆い被さり、唇を重ねる。先程のキスとは比べられないほど、濃厚になっていく。

それを合図に彼らは、再び絡み合い始めて、しばらくベッドの中から出なかった───。





夕方。
出かける準備を済ませ、部屋を出たブラッド。すると、向かい側のドアからもライが出てきて、声をかける。



「ライじゃないか。ずっと部屋にいたのか?」

「いたぜ。何で?」

「じゃあ、カメリアも?」


ライが目を丸くしてから、首を傾げた。



「カメリア?今日は約束してねーよ、おれ」

「何だ。違うのか。昼前にカメリアが来てたの見たから、てっきりまたライの部屋でヤッてるのかと思っていた。珍しく静かだったしな」

「おれとカメリアで静かに出来るわけあるかよ。それに今日は、おれじゃねーよ。カメリアはエドとだって」


それを聞いたブラッドが、不思議な顔をしたが、すぐに納得した顔を浮かべる。



「あー、なるほどな。エドか。またスミレは拗ねるんじゃないか。カメリアに会いたいって連絡しても返事がないって話してたからな」

「だから、スミレのやつ。朝から出かけたのかー。拗ねちまったんだな!」

「そうだろう。あいつは、カメリアのことが好きだし。それはそうとさ、ライ。今日はずっと家にいるのか?」

「いんや、ちょっとしたら出るぜ。女が車で迎えに来てくれっから、その連絡待ち。遊びに行って、そのまま女の家に泊まってくる」

「ふーん」


ブラッドがニヤニヤと笑う。ライがそれを受け流しながら、言った。



「ブラッドこそ、約束してんじゃねーの?」

「シガレット家の令嬢と会う約束をしてる」

「シガレット家?あれ、そいつって、ミラコスタ家の息子と婚約してなかったか?」

「そうだ。そいつとヤッても物足りないんだとさ」

「それをブラッドが満たしてヤッてんだ」

「言っとくけど、誘って来たのは向こうだ。僕との方が気持ちいいんだとさ」

「それなら、おれ、ミラコスタの方にアプローチしてみっかな。久々に真面目なやつとヤりたいと思ってたからさ」


二人がケタケタと笑い合う。
それからブラッドは玄関の方、ライは別の場所に向かい、別れた。



そんな二人のやり取りを聞いていたのは───グレンとカルロ。

ブラッドの部屋の隣がカルロの部屋になっていて、二人が話す前から、グレンはカルロの部屋を訪れており、読みたい本を借りに部屋に来て、カルロと話をしていた。

そしたら、部屋の外から先程のブラッドとライの声が聞こえてきたのである。普段ならば聞こえないのだが、ブラッドとライが大声で話していたから、聞きたくなくても入ってくるせいだ。



「うちの弟達は盛ってばかりいるね~。猿みたい。そう思わない?カルちゃん」

「そういうお年頃なんじゃない?俺らの時もあんなクラスメイトいたし」

「まあねー。てか、カルちゃんにもあったよね。今もあるみたいだけど」

「そんな興味あるなら、行ってくれば?グレンが駅のところに立ってるだけで、すぐ声がかかるよ」

「俺、そんな不純な出会いを求めてないしー。んー。それにしても、カメリアか」


グレンが持っていた本を本棚に戻しながら、言った。



「何?グレンのタイプだったっけ?」

「違う、違う。あの娘の何がいいのか、俺にはわからなくてさー」

「やっぱりあの外見じゃない?シトリン叔母さんに似て、美人だし、スタイルは良いし。うちの学部にもカメリアとしたやつがいてさ、「あの身体を抱けて、最高だった。またヤりてー。相手してくんねーかな」って話してたよ」

「身体目的か。確かに外見は良いけど、中身がひどいからな…。カメリアを恋人にしたら、常に浮気に悩まれそうだよね」

「それはあるね。カメリア、気に入った男なら、恋人がいても平気で手を出すから」

「寝盗る女だったのか。アレックスはかわいそうに…。あんなロクでもない女と婚約させられて」

「アレックスはカメリアのことが好きだから、浮気のことは黙認してるよ」

「マジ?理解出来ないわー」

「俺もそう思う」


カルロは一度イスから立ち上がり、本棚の前に立つと本を取り出して、再びイスに腰をかける。グレンの方は、本を取り出してはページをめくっては戻しを何回か繰り返していた。



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