Exclusive Chocolate
ホワイトデーを間近に控えたある休日。
私が本館の玄関口にいた時、声をかけられた。
「宅急便でーす」
「ありがとうございます。随分、大きいですね」
「そうですね。そんなに重くはないんですけど、中身はチョコレートです」
「チョコレート!?」
取り合えずサインをして、荷物を受け取る。溶けないようになのか、少し冷たい。箱には要冷蔵のシールが貼られ、宛名を見ればライ様の名前があった。一体、どんなチョコレートを買ったのか。こんな大きいものって、あまりないし。特注かな?
………知らない方がいいわね。早くライ様のところに持って行こう。
ライ様の部屋に着く前、お坊っちゃまと出くわした。
「アリス。お前、何持ってんの?それ、オレ宛?」
「違いますよ。ライ様です。荷物を届けたら、すぐそちらに行きますので。少し待っててください」
お坊っちゃまにそれだけ告げ、通り過ぎると──
「オレも行く」
「荷物を届けるだけですよ」
「お前、またライに襲われたいわけ?」
「………」
そう言われると、ちょっとね…。
ライ様のところに行く度に何度か身の危険があったわね。ここは、お坊っちゃまについて来てもらった方がいいかもしれない。
「お願いします。お坊っちゃま」
「よし。さっさと済ませるか!」
お坊っちゃまと一緒にライ様の部屋に向かう。
辿り着いて、ライ様の部屋のドアをノックするも、返事がない。
「いないんですかね?」
「朝食の時はいたぞ。出かけるとも言ってなかったし」
「そうなんですか。オーキッドもいないんですかね」
「あのライに一目惚れして、追いかけて来たあの変わったヤツか…」
確かに変わってるわよね。オーキッドのあの顔なら、他にももっと良い人が出来ると思うんだけど。まさか、あのライ様に一目惚れするなんて。ライ様も顔だけは良いからな…。中身がすごい詐欺だけど。
ライ様が部屋にいなくても、専属執事のオーキッドがいれば、荷物を渡せるんだけどな。それが一番早い。
「もうドアの前に置いとけば良くねェ?」
「だめです。ちゃんとライ様に渡さないと!」
しかし、どうしよう。一度、荷物を持ち帰る?けど、また来るの面倒だしな。
ドアの前で立ち尽くしていた、その時───
「アリス、何してんの?」
「ライ様!」
そこへライ様本人が現れた。これで荷物を渡せるわね。
「お荷物です!」
「荷物?ああ、頼んでたやつがやっと届いたのか!部屋の中に運んで」
「え…」
ライ様がドアを開けて、私に入れと促す。
「ほら。早く!」
「………」
私が入るのを躊躇っていたら、お坊っちゃまがライ様に言った。
「ここまででいいだろ!あとはお前が持てよ」
「いやいや、ここはアリスが最後まで運ぶのが当たり前じゃん。雇われてんだし」
「わかりました。中まで運びます」
「アリス!」
私は雇われの身だ。そう言われると、最後までやらないとね。
こういう時はまともなのよね、ライ様って。私は部屋の中に入る。だが、心配だったのか、お坊っちゃまも私の後に続く。
「心配しなくても、今日は何もしねーよ」
「信用出来るか!」
「アリスには忠犬が沢山いんだなー!」
「忠犬??」
ライ様の言った意味によくわからず、首を傾げながらも私は持って来た荷物をテーブルの上に置く。
「チョコレートと聞きましたけど、よくこのサイズのものがありましたね」
「は?これがチョコ!?」
私の横でお坊っちゃまが驚いていた。気持ちはわからなくもない。
「まあな。特注だし。運んでくれたから、特別に見せてやるよ!」
そう言って、ライ様が包装紙を破り、中身を私とお坊っちゃまに見せてくれた。だが、中身を見た瞬間に私とお坊っちゃまは言葉を失った。
何故ならば───
「え……ライ様、これって…」
「驚いたか?おれの型を取ったチョコレート!本当は等身大にしたかったんだけどさ、ちょっと予算がオーバーして、上半身だけになっちまった」
上半身だけでもインパクトありすぎる!型を取ったって言ってたけど、学校の美術室にあるような銅像みたいだわ。反対に食べづらいわよ、これ。
「これ、誰かにあげるんですか?」
「あげるから、作ったんだろ」
誰が欲しがったのよ、ライ様等身チョコなんて。私なら絶対に食べたくない。仮にリク様からお返しに渡されても……いや、リク様なら食べないで飾っておきたいわ。だって、リク様の型を取ったわけだし。
「アリス。お前、これがリク兄なら…とか考えただろ…」
「そ、そんなことナイデスヨ!」
「片言になってるし。お前の考えなんて、バレバレなんだよ!」
お坊っちゃま、やっと口を開いたと思えば、私の様子までも見てたのね!
「オーキッドなら、喜びそうですよね」
「何でそこにあいつが出てくんの?違うし。これ、女に渡すんだぜ」
「ええっ!?」
「おれに惚れてるみてーでさ。チョコをもらったから、お返しは何がいいか聞いたら、「ライが良い」とか言ってたから、これにした!」
絶対にチョコだけじゃないわよね。身体も捧げたわよね、相手の人。ライ様がチョコだけで終わるわけないもの!私がそう考えていたら、横から服を引っ張られた。
「荷物は届けたんだから、部屋に帰るぞ」
「そうですね!ライ様、見せていただきまして、ありがとうございます。それでは失礼します!」
ライ様にそう声をかけると、手だけ振られた。というか、いつの間にか電話してた。聞こえた内容的にあのチョコを渡す相手のようだ。
部屋に戻って来ると、アガットさんが私達を出迎えてくれた。
「お坊っちゃま。遅いと思っていたら、アリスさんと一緒だったんですね」
「コイツがライに荷物を届けるっていうから、心配でついて行った」
「それはわかります。アリスさんに何かあっても困りますし…」
アガットさんにまでもそう言われてしまった。ライ様、本当に危険人物扱いされてるのね。ま、それは仕方ないか。
「そういえば、アガットさんはオーキッドと仲は良いんですか?」
「仲が良いかはわかりませんが、最初の頃に比べたら、話してくれるようになりましたね。仕事も少しずつですが、覚えるようにもなってきましたし」
「確かに最初は、ライ様しか見えてませんでしたね。オーキッドは…」
「そうですね。仲の良さなら、俺よりメイズが親しいですよ。同い年ですから」
「それなら私も同い年ですね…」
メイズと私は同い年だ。しかも、誕生日が同じ。ここに来て、まさか私と同じ誕生日の人がいるとは思わなかったけど。今まで一日違いの人は何人かいたのよね。
「メイズなら、さっきタスク兄と一緒にホワイトデーのお返しを買いに行くって、出て行ったぞ」
「メイズもやっと免許が取れましたからね。休みの度に出かけてますよ」
「今までノワールさんが運転してましたよね。たまにノワールさんいない時は、アガットさんがタスク様を一緒に乗せたりしてたり」
「タスク兄いると、騒がしかった…。マジでメイズが免許取れて助かった!」
「オーキッドって、免許持ってるんですか?」
「持ってませんね。ボルドーさんの話では、もう少ししてから、教習所には通わせるみたいですよ」
私も免許は持ってないけど、もう少し余裕が出来たら教習所に通ってみようかなとは考えてる。
ふとオーキッドが来た当初の頃を思い出して、苦笑いした。すると、お坊っちゃまが不思議そうな顔で言い出した。
「ライの何に惹かれたんだ?ソイツ…」
「さあ?私達にわからなくても、何かあったんじゃないですかね」
「そうですね。俺もそこはわからないです…」
私達、三人にはライ様の魅力はわからなかったけれど、オーキッドには惹かれる何かがあったのだろう。
ちなみにライ様の等身チョコについてだが、例の女の子に渡す前に破局したため、渡せないまま、持ち帰って来たらしい。仕方なく破棄しようとしたら、オーキッドが欲しがったので、あげたそうだ。
そのチョコがその後、どうなったのかは、オーキッドしか知らない───。
「ふふ。ぼくだけのライ様…」
チョコのライの唇を舐めて、ニヤニヤと笑っていた…。
【END】