Imitation Work




“こと”の終わりでオレは、あることを思い出した。


「今、ボンボン狙った事件が起きてるらしい」
「え?」
「犯人の噂は様々なんだと」


アリスを抱き締めると、肌と肌が触れ合う。
アリスの心臓はまだ乱れていた。

我ながら思う、超がつく程の鈍感女をよく振り向かせられたなって。


「は、犯人の噂?! ど、どんな人なんですか?」
「貧乏人の逆恨みだとか、無差別だとか。金持ちによる上位潰しとか、色んな話があるってさ」


自分で話しておきながら、どこか他人事……
オレは自分の身は自分で守れるし、いざとなればアガットだっている──


「……怖いですね。お坊っちゃまの──」
「“ハルク”……二人ん時はそう呼べって、何度も──」
「無理ですってば!」
「なら、質問拒否だ」


アリスは押し黙る。
そして、暫くの沈黙の後──


「おぼ…………ハ……ルク……」
「ん? 何だ」
「……ハルクの……周りでも起きてるんですか?」


未だに名前を口にする時、照れんの……やめろって。
興奮するつぅか……
くそ──……ッ


「いや、まだ遠い……けど、近くで被害出んのも時間の問題かもな」


必死に冷静を装う。


「あの……そもそも、事件って何ですか?」


……さっきから質問ばっかじゃねェかよ。

──つまんねェな。


「もう一発ヤらしてくれんなら教えてやるよ」
「え!? ちょ、無理ですってば!」
「さっきから、他人の心配ばっかしやがって」
「違います! 私は、お坊っちゃまの心配を──」
「じゃあ、オレの為にもう一回な?」


拒否しても身体は悦ぶし、反応も絶妙……
オレ、コイツなら何度でも抱ける……
いや、コイツだけなんだけどな。

欲を言えば、“普通”が欲しい。
普通に手を繋いで出掛けてェ。
カフェだとかレストランで普通に肩を並べて、周りの奴らに見せつけてェ。
普通に二人で旅行や遊園地だとか色々と出掛けてェ。
一目を気にせずイチャ……いや、これじゃアイツらと一緒か。

ふと浮かんだ兄達の姿を振り払う。

……“普通”がこんなに羨ましいとは、知らなかったし……思わなかった。



.
4/8ページ
スキ