Conveyor Belt Sushi 前




「さ、ご飯を食べに行くわよ!皆」

「はーい!」

「やった~!」

「待ってました!」

「私もお腹が空いたわ。早く食べたい…」

「スマルト。沢山食べそうだね。私も負けずに食べるぞ!」


皆が次々に車に乗り込んでく。
私が最後に車に乗り込もうとした時、背後から「アリス!!」と私を呼ぶ大きな声。この声は…!
振り返ると、お坊っちゃまが本邸の二階の窓から顔を出していたのである。その後ろには、アガットさんもいて、私に向けて手を合わせていた。どうやら、バレたようだ…。



「お坊っちゃま…」

「やっぱり!出かけようとしてやがったー!どこに行くんだよ!」


さっきまで落ち込んでいたはずなのに!
しかし、言ってしまったら、来てしまう。……よし。ここは逃げよう。逃げるが勝ちだ!



「オレもすぐそっちに行くから、待っ…!」

「す、すみません!もう出ますのでー!」


私は急いでドアを閉めて、アンバーさんに出発するように頼むと、すぐに車を発進させてくれた。
屋敷を出て、道路に出る。いないとは思うが、一応、私は後ろを見た。

…良かった。来ていない。アガットさんが引き止めてくれたのだろう。ようやく安心出来た。だが、今は良くても───



「帰ってからが怖い…」

「あれは使用人用の屋敷前で、アリスを待ち構えてるわね」

「ベゴニア、怖いこと言わないで…」


絶対待ってるよ!屋敷の前にいなかったら、私の部屋の窓の前にいるかもしれない。部屋は知ってるし。帰りたくない!

すると、後ろの席に座っているライラが話しかけてきた。



「ハルク様って、本当にアリス先輩しか見えてませんね!」

「ライラ。そんなことないから」

「いえ、ライラの言う通り、ありますよ。ドラ様もそう言ってましたから」

「ドラ様も!?」


ドラ様の世話係のスカーレットがそう言うのなら、そうなのだろう。ドラ様は嘘をつく人でもないから。



「どの兄弟も知ってるわよ。あんたの好きなリク様もね」

「そうね。屋敷内で知らない人は、まずいないわね…」


そんな…。お坊っちゃまの世話係、辞めたい。言ったところで辞めさせてもくれないのよね…。



「でも、アリスが世話係になってから、ハルク様もだいぶ明るくなったけどな」

「兄さんって、ハルク様の反抗期を見ていたのよね?」

「反抗期前も知ってるぞ。執事見習いの時からだから、もう8年か。母親のモモ様が生きていた時は、普通の……いや、少し甘えん坊だったかな。最初はモモ様やタスク様の後に隠れてたし。それもすぐにアガットに変わったけど」


お坊っちゃまが甘えん坊。そういえば、その頃の写真をアガットさんからこっそり見せてもらったことあったっけ。可愛かったな…。あれくらいの頃に私も会いたかった!



「え、想像が出来ないんですけど。あのハルク様が」

「誰にもそんな時もありますよ~」

「ハルク様、今はアリス先輩に甘えてるんですね!」

「それは違う気がする…」


私にはワガママを言ってるだけだ。顔を見ると、お菓子を作れってうるさかったし。今もだけど。



「ハルク様、最初すごいおとなしかったわね。人見知りするみたいで、アガットから離れなかったし。私が入って半年くらいにモモ様が亡くなったのよね…。ショックでしばらく部屋から出なくなって、ようやく出てきた頃にはすごい反抗するようになって、大変だったわよ…」

「ああ。ベゴニアは大変な時に入ったな」

「私よりアガットの方が大変だったんじゃないかしら?」

「アガットにも弟達は沢山いるが、ハルク様のように反抗するのはいなかったからな。ちょっと落ち込んでた時期もあったっけ」


そうだったんだ。あのアガットさんでさえも、お坊っちゃまには苦労させられたんだ。

話しているうちに某有名チェーン店の回転すし屋に到着した。空いてるところに車を停めて、私達は店内に入る。土曜日の夜だったせいか、混んでいたが、ベゴニアが予約を取ってくれたので、すぐ席に行くことになった。人数が多いので、ボックス席二つで分かれて座ることになり、後輩三人組と同い年組+アンバーさんで座ることになった。



「さて、何を頼もうかな」

「食べたいものって、なかなか流れて来ないから、パネルで注文してみるわ。その方が早いし」


スマルトが横にあったパネルを取って、メニューを見ては、どんどんと注文をする。



「スマルト、早いよ!しかも、すごい量だよ!」

「あんた、手慣れてるわね…」

「よく来ているから。皆も頼みたいものがあるなら、頼むわよ」

「じゃあ、大トロ!」

「私も!あとサーモンも食べたい」

「兄さんは?」

「俺のは、もう注文してくれただろ?」

「ええ、兄さん、最初はいつもと同じだから。他には?」

「取り合えず、今はそれだけでいい」


スマルトがパネルで操作しているから、私はお茶を注ぐことにした。粉をお湯に溶かすだけだし。四つの湯呑みにいれて、邪魔にならないところに置く。私の隣に座っているベゴニアは、今旬のものやオススメのフード、デザートが載っているメニューを見ていたから、私も覗き込む。



「デザート、おいしそう!」

「アリス。あんたね、まだ何も食べてないのに、もうデザートなの?」

「えー。ベゴニアだって、ずっと見てるじゃない!モンブランパフェのところ」

「見てるくらいいいでしょ!」


素直じゃないなー。食べたいから見てたのに…。

そうこうしているうちにスマルトが頼んでくれたお寿司が次々に運ばれてくるから、私とスマルトでテーブルに置いていく。



「そういえば、ここも食べたお皿を入れると、何か貰えたな?前は人気アニメのやつだったけど。今は何だ?」

「今もらえるのは、うさレンね」

「あー。あれか。今流行ってたな。確か、セージも…」

「うさレン!?」

「え、アリス。あんた、好きなの?」


うさレンとは、うさぎ丸レンジャーの略。7体のうさぎが地球征服を企む悪の猫族から地球を守るために戦っている物語だ。赤、黄、青、緑、桃、紫、橙のカラーのうさぎがいて、それぞれ性格も違う。



「大好き。特にこのパープルうさが。すっごいクールなんだけど、仲間想いなの」

「見た感じ、このふにゃふにゃした絵なのに、意外に話はしっかりしてるのよね。アリスに勧められて観たら、結構面白くて」

「スマルトも好きなキャラ、いるのか?」

「私はこれね。悪の猫族の副部長のめーめー。渋くて、中間管理職なんだけど、色々と苦労しているのよ」

「……これ、執事長みたいなキャラね」

「それもあるわ」

「やっぱり好きになったのは、そこなのね…」

「ライラも好きだよ。あの子はイエローだったような…」

「五皿食べたから挑戦よ!」


いつの間にか食べ終わってるし。早い!私も頼んだの食べなくちゃ。その前に…スマルトが当ててくれるかを見たい!



「パープルうさ、来るかな!?」

「まずはめーめーよ!」


早速、スマルトが食べ終わった5枚のお皿を入れた。すると、液晶に回転すし限定のルーレット映像が流れた。ドキドキしながら、結果を見る。

当たりと出た。私とスマルトは喜ぶ。回転すしのレーンの上にある大量に入ったカプセルのところから、一つ転がり出てきた。

中に入っていたのは──



「……めーめーじゃないわ」

「……パープルうさじゃない」


二人して、ガックリと項垂れた。入っていたのは、レッドうさだった。どうやら入っているのは、各キャラのキーホルダーが15種。マスキングテープが10種。シークレットが7種。超シークレットが3種。結構、豊富だな。



「スマルト。まだ時間はあるんだから、もっと食べよう!」

「そうね!アリスの言う通りだわ!」


私達は、お寿司を食べることにした。パネル操作で頼むのは勿論、たまに流れてくるものから取ったりもした。

そんな私達を見て、呆れるベゴニアと黙々とお寿司を食べるアンバーさん。



「アンバー。何とかしなさいよ。この二人、こうなるとなかなか止まらないんだから」

「いいんじゃないか?」

「え」

「俺はスマルトがしたいようにさせたいんだ…」

「アンバーって、シスコンよね。それでよくフラれるでしょ?」

「ベゴニア。痛いところを突くな。わかっているけど、妹は大事なんだよ!」

「……ダメだわ、こりゃ。これはフラれるわよ…」


その後、二人にも協力してもらい、はずれを出しながらも、何とか私とスマルトの欲しかったキャラのキーホルダーは手に入れることが出来たのだった。





【to be continued…】
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