Conveyor Belt Sushi 前
うふふ、楽しみだなー。
今日は、仕事を終えてから、スマルトやベゴニアといった仲良いメンバーで、回転すしに行くことになった。数日前に給料も入ったしね。スマルトのお兄さんであるアンバーさんが運転してくれるから、行き帰りは安心だ!
早く夜にならないかしらね。
「……ふふっ」
「……」
楽しみがあるから、頑張れるのよね。よーし。それまではお仕事を頑張らなくちゃ!
今日の私は、お坊っちゃまの方での仕事が主だった。いつもなら途中に抜けないといけないからね。こっちは終わった。さて、次は…。
「アリス」
「何ですか?お坊っちゃま」
今日はやけに口数が少ないお坊っちゃまが、私に話しかけてきた。それまでは私が話しかけても「ああ」とか「うん」しか返事しなかったんだよね。ちょっとおかしいなとは思ってたけど。
「お前さ、朝からずっとニヤニヤしてて、気味が悪いんだけど」
「………え」
何て、失礼な!私がニヤニヤしてるだけで、気味が悪いだなんて。
しかし、ここで私が夜に回転すしに行くなんて、言ってしまったら、お坊っちゃまが絶対についてくるに違いない。ここは隠さなくては!
「ソンナコトハ、ナイデスヨ!」
「嘘つけ。お前、わかりやすいんだよ!何を隠してんだよ!」
「……………気のせいデス」
何故わかるの!こんなに普通ですよ?…アピールをしているのに…。
「もしかして、リク兄と出かける約束でもしてんのか?」
「リク様?違いますよ」
「……」
お坊っちゃまが無言で私を見る。私の顔に何かついているのかしら?それなら言って欲しい。
「お坊っちゃま??」
「……うーん。嘘はついてねェな。リク兄じゃなきゃ、あとは…」
お坊っちゃま、私の表情で嘘かどうかをチェックしてるし!恐ろしい!誰か助けてー!!
そこへ救世主のようにアガットさんが部屋に戻って来た。
「お坊っちゃま。ボルドーさんが呼んでいますよ」
「えー、今それどころじゃねェのに…。後じゃダメ?」
「ダメです。お坊っちゃまの成績に関してのお話なので」
「………うっ、わかった。すぐ行く…」
助かった!
私はそっと胸を撫で下ろす。すると、お坊っちゃまが私を睨む。
「話は終わってねェからな?アリス。戻って来てから、また聞くからな!」
「えー…」
それからお坊っちゃまは、どすどすと足音を立てるように部屋を出て行った。あれで火を吹いたら、まるで怪獣みたいだな…。お坊っちゃまを見送り、息を吐く。
「どうかしたんですか?」
「アガットさん。実は…」
私はアガットさんにさっきまでのことを話した。そしたら、アガットは何か思い当たったのか、話してくれた。
「回転すしに行くのって、今日だったんですね。アンバーもいつになく機嫌が良かったので、スマルトさんと出かけるだなと思っていたんですが。なるほど…」
「アンバーさんは、引率と運転してくれることになったんです。スマルトが頼んだとは思うのですが」
「妹のスマルトさんの頼みは、素直にききますからね。それとアンバーに上手く甘えれば、奢ってくれますよ。アンバーは可愛い女の子には弱いですから」
「いえ、自分の分はちゃんと出しますよ!でも、私が楽しみでソワソワしていたら、お坊っちゃまが怪しんで…」
「あー。それで、お坊っちゃまがあんな感じに…」
「アガットさん。お願いです!お坊っちゃまにバレないようにしてもらえませんか!?」
「今更、もう遅い気がしますよ?おそらく戻って来ても忘れてないでしょうし。あとはボルドーさんの怒り次第ですね」
えー。執事長のお怒りレベルがどれくらいかにかかってるかってことか。10段階なら私は大体4、5、6くらいを行き来してるわね。一度だけ、9までいったこともあったっけな。あれは恐ろしかったわ。
お坊っちゃまが戻るまでに機嫌を良くさせようと、お菓子を作ろうと考えたが、時間と材料が足りなくて、断念した。お菓子以外にお坊っちゃまが喜ぶことって何!?わからない!どうしよう!?
そうこうしているうちにお坊っちゃまが部屋に戻って来た。ギャー!尋問される!しかし、お坊っちゃまはハラハラしていた私の前を素通りした。あれ??
執事長に相当絞られたのか、すぐにベッドに寝転がってしまったのである。アガットさんが声をかけてみると、「このままだと夢にまでボルドーが出て来て、説教されそう…」と力なく答えていた。
私を尋問する力はないようだ。しめしめ…( ̄▽ ̄)
そうして、夕方になり、お坊っちゃまは未だダメージが治らないのか、ふらふらしながらも夕食を食べに、ダイニングへと向かってしまった。アガットさんと一緒に。
よし。私も今日はこれで上がりだから、部屋の鍵を閉めて、着替えよう。
自分の部屋に戻り、私服に着替える。髪もいつもの結びを解いて、違う髪型にした。鏡でおかしいところがないかをチェックしてから、お財布とスマホを小さな鞄にしまい、部屋を出た。
待ち合わせした場所に私以外の子達は揃っていたから、急いで駆け寄る。
「アリス!」
「アリス先輩!こっちですー!」
「遅くなってごめん!」
「大丈夫よ。まだ兄さんは車を取りに行ってるから」
「これで全員が揃ったわね!」
「今日はもう朝から楽しみで、楽しみで。仕事にもなかなか集中出来ませんでしたよ!」
「それはいつものことでしょ?ライラ」
「スカーレットこそ、いつもよりは落ちついてなかったじゃない!」
「わ、私だって、楽しみにしてたのよ!」
「まあまあ~、二人共。ケンカしないの~!」
この三人は、今年入った使用人の子達だ。
明るいライラック、真面目なスカーレット、おっとりしたミント。
ベゴニアはライラック、スマルトはミント、私はスカーレットの教育係として、仕事を教えることになった。教えているうちに私達は仲良くなって、こうして出かけることになったわけだ。後輩三人も私達といるうちに、後輩同士で仲良くなったらしい。
「ところでアリス。あんたは大丈夫なの?」
「何が?」
「何がって、ハルク様のことよ!」
「………。ダイジョウブ!」
私が親指をグッと上げたら、何故だかベゴニアは呆れていた。
「あんた、相変わらず嘘つくのヘタすぎるわよ…」
「え!?」
「そうね。アリスは嘘つくのがヘタよね…」
スマルトまで…!
おかしいな。私、そんなにわかりやすいかしら?
「「わかりやすい」」
「ちょっと二人でハモらないでよ!」
「確かにアリス先輩、顔に出ますよね!」
「はい。特にやましいことになると、挙動不審さが増します」
「アリス先輩。嘘つけないですよね~」
後輩達にまで!?私の先輩としての威厳が…。
そこへアンバーさんの運転する車がやって来て、私達のいる前で停まった。
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