Calm Afternoon

部屋に戻ると、アリスが眠っていた。
世話係なのに、オレの部屋で呑気に寝ていた。何で寝てんだよ。ここ、オレの部屋だぞ。



「起きろ」


起こそうと肩を揺らす。しかし、アリスが起きる様子はない。



「アリス、起き…」


もう一度、肩を揺らそうとしたら、腕を引っ張られて、腕の中に引き寄せられた。アリスに抱きしめられるようにおさまり、すげー複雑だった。5コも歳が違うから、オレが負けるのはわかってるんだけどさ。それでも自分が子供なのだと認識させられて、何だか悔しい。

てか、いい匂いがする。香水とかじゃねェよな?カルロに近づく女はほとんどが変な匂いがして、嫌だから近づきたくはねェけど。すぐ近くからアリスの寝息が聞こえて、更に顔に柔らかいものが当たっていて、それが何かなんてすぐわかって、顔が赤くなった。

すぐに離れなきゃとわかってるのに、体はなかなか動こうとしない。一方でこのまま離れたくねェと思う自分がいた。だって、こんなにすぐ近くにいる機会はなかなかねェし。でも、オレ、寝てるアリスに抱きつかれたことあるな。これで二回目だし。
アリスが起きたら、絶対に離れちまう。せっかくだから、この際甘えてしまえばいい。アリスの方を見上げる。頬を触ってみるが、熟睡しているせいか、まったく起きねェ。

無防備に眠っていた。そんなアリスに少し呆れた。
こんな姿をカルロやライ辺りに見つかったら間違いなく狙われる。リク兄はそんなことしないけど。タスク兄は遊ぶに違いないし。ドラは嫌がることはしないだろうが、何をするかはわからねェ。



「…見つけたのがオレで良かったな」


オレの部屋だから、他のヤツが見つけることはねェけど。それにきっと子供だと思われてるから、無防備でこんなところで寝ているんだろう。

ムカつく。まったく意識されてなくて。リク兄にばっかり意識してないで、こっちも見て欲しい。

いつだったか、誰かに言われた。オレの傍にアリスがいられるのは、あとニ~三年くらいだって。
いずれアリスに縁談が入ってしまったら、この仕事を辞めてしまう。そしたら、もう会うことはない。だから、もう少し離れた方がいい。それがオレの為だと。

そんなの余計なお世話だ。
まだアリスに縁談も決まってすらいないのに、何で今から離れなきゃいけねェの?

身分が違うから、なんなんだよ。
好きになったら、身分なんか関係ねェじゃん。

一緒にいたいから、傍にいんのに…。嫌いなヤツといるわけねェし。世話係にしたのだって、誰かに取られたくないから指名したんだ。
兄弟全員に気に入られてるメイドは、アリスだけだから…。


オレがそう言ったところで伝わらないだろう。

特に親父は身分にこだわっているから、使用人と一緒になることは絶対許さねェのはわかってるし。


年齢は変えられない。どうしたって、五才差は埋められないし、どうにもならない。身分もオレは雇い主の息子で、アイツは雇われのメイドだし。










「ここ、オレのベッドだぞ」

「すみません。何かちょっと横になったら、そのまま寝ちゃったみたいで…」

「そんなに気持ち良かったのか?」

「そうですね。自分の使っているベッドよりは柔らかくて…」


だよな。あのベッド、固いもんなー。一度だけ寝たことあるけど。

てか、オレは上手く隠せた?顔は赤くねェ?



「お坊っちゃま?何か顔赤いですけど、熱でもあるんですか?」

「……っ!ねェよ!それよりお菓子、まだ!?」

「あ、しまった!まだ作ってなくて…」

「えぇ!?」

「すみません。簡単なものだったら、用意は出来ますけど。それでもいいですか?」

「それでいい!早く!」

「作って来ますから、部屋で待っててください」

「待てないから、一緒に行く!」

「使用人の屋敷にお坊っちゃまがいると、私が怒られる…って、押さないでください!」


使用人の屋敷にあるキッチンで急いでお菓子を作るアリスを見ながら、笑う。



「まだー?」

「まだです!」

「早く!腹減ったー!」

「わかりましたから、静かに!」


オレがここにいるのがバレたら、アリスが怒られるんだろう。ボルドー、容赦しねェからな。



「お坊っちゃま、もう少し隠れてくださいよ!」

「それよりお菓子!お菓子!」

「わかりましたから、今作ってますから!」


仕方ない。
今はこんな関係で我慢するか。





【END】
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