Excellent Butler




授業を終えたグレンは、街に来ていた。連れもなく、一人でスマホを見ていると、誰かが近づいてきた。顔を上げると、どこにでもいるような背広を着た男。その男はグレンに笑いかける。



「失礼。グレン・ドルチェ様ですか?」

「ええ。そうですよ」

「……」


すると、男は胸元からナイフを取り出す。



「あなたには恨みはありませんが、依頼がありましたので」

「……へぇ」


しかし、グレンには怖がる様子はない。むしろ、笑っていた。



「依頼ね。俺を恨んで、ケガをさせるようにでも言われたのかな?頼むとしたら、サーペンティン家。はたまたウバロバイト家辺りかな」

「そんなことはどうでもいいでしょう。ということで、少し痛い目を見てもらいますよ」


男がグレンに襲いかかろうとしていた。だが、男がグレンに近づくより先に誰かがすばやく男に近寄り、ナイフを地面に叩き落とし、男も捩じ伏せる。突然のことに男も何が起こっているのかわからないようだ。地面に倒れる男にグレンは、くすくす笑い出す。



「何が起こったかわかってないようだね、君」

「……くっ!離せ!」


男は必死に抵抗するが、身体を押さえつけられているため、動けない。



「どうしますか?グレン様」

「んー。どうしようか?依頼主に送り返そうか。俺に怪我させようとしたところに。……俺を敵に回したらどうなるのかって意味を込めて、さ」

「……っ!?」


グレンの表情を見て、押さえつけられた男は恐怖を感じた。どうして、この青年を襲ってしまったのかと後悔をし始めた。今更、思ってもかなり遅いが。



「わかりました。グレン様がそうおっしゃるのでしたら」


男を押さえつけている彼───ルチルは、グレンの専属執事だ。ルチルは男を押さえつけながらも、スマホを取り出して、どこかにかけて話していた。
通話を切ってすぐに数人の男達がやってきて、押さえつけられた男を連れ去って行く。



「グレン様、あのようなことは止めてください」

「あのようなこと?」

「囮になることです。今は何もなくても、そのうちあなたに何かあったら…」


ルチルは悲しそうな表情になる。彼は守るべき主を失いたくないのだろう。だから、危険なことはして欲しくない。



「ルチルが守ってくれるんでしょ?」

「勿論です!あなたの敵は全部排除します」

「いやー。俺、愛されてるねー」

「……」

「ちょっとー。そこ、無視しないでよ。でも、そういうところが君だからね。ちゃんと俺を守ってね」

「はい。グレン様!」


ドルチェ家は羨まれる反面、恨まれることも同じくらいある。だから、父親のアメジストは、息子達にも専属執事をつけていた。だが、普通の執事では息子達を守れない。中には息子を放置して、逃げてしまうのもいるかもしれない。そのため色々と訓練で優秀な執事をそれぞれにつけようとしていた。しかし、自分の専属執事を決めるのは、アメジストではない。息子自身で選ばしている。



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