Kiss Day
アガットに学園まで送ってもらい、校舎に入る。靴箱で履き替えて、自分の教室に向かう。
到着し、いつものように自分の席に座る。珍しくコウとシンジュはいない。鞄はあるから来てはいるんだろうけど。
仕方なくスマホを取り出して、いじっていると、クラスのチェスナットが何故かオレのところに寄ってきた。
「ドルチェ。今日は何の日か知ってるか?」
「今日?」
「そう!今日」
顔を上げて考えてみるも、浮かばない。こないだはアイスの日っつーのは、アリスから聞いたな。今日もアリスなら知ってるかもしんねェけど。
「何かあったか?」
「ドルチェ、知りたい?」
ニヤニヤしながら、ソイツが言った。これは聞かなくても困りもしねェな。
「知りたいなら、教え…」
「別にいい」
そう言って、またスマホに視線を戻そうとすれば、チェスナットが慌てる。
「ドルチェ。聞けって!」
「興味ねェ」
「聞けば、興味持つって!」
「だから、何の日だよ…」
「キスの日だよ!」
「キスの日…?」
本当に色んな日があるな。少し前にもメイドの日とか言って、ライが女の使用人にやたら絡んでたっけな。アイツの専属執事になりたがってる執事見習いのヤツが後を追いかけて止めようとしてたけど、ライの体力は無駄にあるから、すぐ見失ってたな。
流石にライがアリスにまで露出高いメイド服を着させようとした時は、アガットと一緒にライを撃退したけど。それなのに、ライのヤツ、何故か喜んでたんだよな。「アガット。いい!今のもう一回!」とかニヤニヤしてたら、アガットが珍しくライのことを、気持ち悪い何かを見るかのように蔑んでたな…。
「ドルチェ、誰かとキスしたことあるか?」
「……」
そういえば、去年に寝てるアリスにしたことあったな。頬だけど。でも、わざわざ誰かに言いふらしたいわけでもねェからな。
オレの無言をしたことがないと思ったチェスナットが、自信満々に言った。
「俺はあるぜ!」
「……………」
その勝ち誇った顔を見て、わかった。
コイツはキスしたことを自慢したいだけだと。ったく、アホらし。オレは、思いっきり大きなため息をついた。
「……だから?」
「え」
「てか、お前、キスの日だからって、他のヤツより早くキスしたのを自慢したいだけじゃん。くっだらねェ」
「何だよ!ドルチェなんてしたことないくせに」
「あるぜ。去年に年上の女と」
「え…」
「これで満足か?じゃあ、二度とくだらねェことを自慢すんなよ」
そう答えると、チェスナットは顔を真っ赤にさせて、オレから離れた。そして、仲の良いヤツらのところに戻って行った。
そこへサンストーンがやって来た。
「よく言ったな!ドルチェ。見ててスカッとしたわ」
「サンストーン。いつからいたんだよ」
「最初からいた。廊下のところで他のクラスのヤツと話してたからさ」
「わかってるなら、チェスナットを止めてくれよ」
「いやー。あいつ、朝から登校してきたクラスの男子全員にああやって聞いて回ってたんだよ」
「お前も聞かれたの?」
「おう。ないって答えたら、自慢された。適当に話を合わせたら、目に見えるくらいに図に乗ったから、笑いそうになったわ」
だから、あんな上から目線で来たわけか。てか、したくらいで他のヤツを見下すとかアホかよ。
「チェスナット、別の学園に婚約者がいるみたいだしな。リリー女学院って知ってるか?」
「知ってる。友達が通ってるとこ」
確か、リコリスがそこに通っていたはずだ。幼等部からいるとか言ってたし。タスク兄に連れられて、何度か行ったこともある。女子校だから、女ばっかで、すげー居心地が悪かったしな。
「彼女じゃねーんだ」
「違ェよ。それにタスク兄の婚約者だぞ」
「タスク先輩か。それなら納得!」
「何で?」
「タスク先輩、普段は優しいけど、彼女の話になると話が止まらないって有名だぜ。惚気がすごいから、あまりその話をさせないようにしてるって、うちの先輩が言ってた」
タスク兄、外でも話し足りねェのかよ…。リコリスの話になると、すげーしつこいからな。兄弟の間でも暗黙のルールになってるしな。
リコリスの方は、惚気話はしねェから助かるけど。
でも、少し前に珍しくオレに電話してきたから、何かと思ったら、アリスの話をしてきたな。何かアイツに会ってから、興味持ってるみたいなんだよな。リコリス、あまり他人に興味持たねェのに…。
「そんで、あまりにタスク先輩がうるさいから、気になって、リリー女学院に姉妹がいるやつに調べてもらったら、マジでキレイな子だったわ。あれは自慢したくなんのもわかる」
「リコリス、キレイな顔してるからな」
「中身も優しくてしっかりしてるんだろ。ドルチェ、もったいなかったんじゃねーの?」
「そんなこと思ったことねェよ」
確かに最初の頃、オレとリコリスで婚約させようって話はあったけど。その話をするためにリコリスと両親がうちに来た時にタスク兄がリコリスに一目惚れして、親父に直談判して、オレとの婚約はなしになったわけだし。
第一、オレは───
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