Peaceful School Life
中学生になって、二ヶ月が経った。
新しい生活にも慣れ始め、少し周りが見える余裕も出てきた。制服も夏服に変わったしな。クラス内をふと見渡せば、知ってるヤツもいれば、まったく知らねェヤツもいる。
その中に入学前にアリスと仲良く話してるヤツの姿もあった。
リゼル・アッフォガート。
誰とも群れず、窓際の一番後ろの席で、つまらなさそうに窓の外を見ていた。
てか、アイツ、たまに授業をサボってるんだよな。いない時の方が多いし。オレもサボりてェけど、アリスにバレると、お菓子を作ってもらえなくなるから、ちゃんと真面目に受けてる。
前に一度だけサボったら、シンジュ経由でシンジュの義姉であるクルミからアリスに伝わり、即バレた。そしたら、アリスが作ったタルトをオレから取り上げて、たまたま部屋に来たタスク兄にあげちまったんだよ!
タスク兄から奪えねェのわかってて…!タスク兄もリコリスが来てるから、一緒に食べるって喜んで持っていったし。オレのタルトが!!
更に翌日。
リコリスから突然、LIMEが来た。お礼を言われたから、何のことかと聞いてみれば、タスク兄とアリスの作ったタルトを一緒に食べたらしく、アリスの作ったタルトが気に入ったから、また食べさせて欲しいということ内容で…。
リコリス、こないだアリスと対面してから、やたらと聞いてくるんだよな。他人に興味を持つことなんて、あんまなかったのに。
……って、話が逸れた。
すると、斜め前の席のシンジュがオレを見て、笑っていた。
「ハルク。相変わらず表情が豊かだよね」
「は?」
「百面相してたよ」
百面相?それをするのは、アリスの方だろ。アイツは、オレの部屋でよくボーっとしてる時は何を考えてるのか、赤くなったり青くなったりしてるからな…。
どうせリク兄のことだろうけど。
リク兄に対応する時は、頬を染めながらも、いつも以上にやる気出すし。たまに空回りすることもあって、ドジをやらかす。だけど、そのアリスのドジを見て、リク兄が声を上げて、笑ったこともある。最初は我慢するんだけど、堪えきれずって感じに。リク兄は微笑むことはあっても、声を上げて笑うことはほとんどねェから、他の兄弟達も「リク兄もあんな風に笑うんだ」って驚いてたしな。
ま、アリスで一番笑うのは、カルロだ。アイツ、ツボに入るとなかなか止まらねェからな。
アリスのリク兄以外の兄弟の対応に、チベスナみてェな表情する時もあるし。それが面白いって、上二人は気に入ってるんだよな。
「アリスさんのことでも考えてた?」
「考えてねェよ!」
「えー、無自覚?アリスさんのこと以外だと、普通でつまらないけど、今はなかなかの百面相だったんだけどな。ね、コウ」
「そうだね。ハルクは顔に出やすいから」
「お前ら…」
すぐにオレをからかいやがって。
これ以上、からかわれたくないオレは、話題を変えたくて、リゼル・アッフォガートについて訊ねた。
「……。なあ。アイツって、外部生か?よくここに合格が出来たよな」
「ハルク。それ、マジで言ってる?」
「マジに決まってんだろ…」
冗談なんか言うかよ。むっとなりながらも、オレは言った。すると、コウが教えてくれた。
「アッフォガートくんは外部生じゃないよ。僕達と同じ内部生だよ」
「え。アイツ、いたか?一度も見たことねェけど!?」
「いたよ。僕、一、二年の時、同じクラスになったことあるから。むしろ、知らないことに驚いたよ」
「コウ、仕方ないよ。ハルクはクラスメイトのことですら、ろくに覚えてないんだからさ」
「そうだね。アリスさんのことしかないもんね!」
「んなことねェし!」
「いや、実際にそうでしょ。ハルクの口からクラスメイトの名前や話なんて、まったーく聞いたことないし」
そう言われると、何も言えねェ。
去年の夏休みにもアリスに同じようなことを言われたんだよな…。
「今でも授業が終われば、真っ先に帰るし」
「それは…」
「屋敷に帰れば、愛しのアリスさんがいるからね」
「お前らこそ、オレのこと言えねェだろ!」
それぞれ片想いの相手が家にいるんだから。オレばっかいじられるのは納得いかねェ!
「それでハルクは、部活に入ったりしないのかな?」
「入んねェ。早く帰りてェから」
「ほらね」
「……」
前から思ってたけど、シンジュのこの感じはグレンにすげー似てる。話すようになってから、誰かに似てるような気はしてたんだよ。
カルロがグレンに絡まれるのが嫌なワケがわかったわ。
てか、部活になんて入ったら、ますます一緒にいられる時間が減っちまう。平日はただでさえ、時間が少ねェんだから!
「ツツジはテニス部に入るって聞いたよ」
「アイツはそうだろうな…」
昔から成績優秀、運動神経抜群で、性格も誰に対して、優しく接してるからな。てか、誰にでも優しいとかオレには無理だわ。
ま、ツツジの場合、猫かぶってるけどな。
「シンジュ、いつの間にセミフレッドくんと話したの?」
「委員会が同じだからね。ツツジはA組の委員長をやってるし」
ツツジも委員長なんて、やってるのか。オレは絶対に無理だわ。
「ただいま」
「おかえりなさい、お坊っちゃま」
学園から帰ると、部屋にアリスがいた。
やっぱり出迎えられるのは、いいよな。思わずにやけそうになる顔を何とか堪えた。
「……ふふっ」
「何?」
「お坊っちゃま、少し前から学校が楽しそうですね」
「そうか?普通だろ…」
「いえ、私が世話係になった頃はかったるそうでしたよ」
あの頃は、まだシンジュやコウとも友達になってなかったからな。学校自体も好きじゃなかったし。
「お友達が出来て良かったですね」
「……まあな」
今では楽しく思えるようになったし。アイツらもオレと同じ悩みも抱えてるからな。
「アリス」
「はい?」
「……何でもねェ」
アリスが不思議そうに首を傾げていたが、オレはまだ言わないことにした。
今、好きだなんて伝えても、アリスには伝わらないよな。絶対にオレと同じ“好き”じゃねェし。
もう少し意識してもらうように頑張らねェとな。
【END】