Equal




本屋に寄ってから、屋敷に帰って来た。すると、おばあさまの姿を見つけて、声をかけた。



「おばあさま。こんにちは」

「もうリクちゃん!ワタシのことは、ジルと呼んでと言ってるでしょう」

「流石に名前を呼びすてにするのは…」

「ワタシがいいと言ってるの!」


プンプンと効果音がつきそうな感じで、怒るおばあさま。

可愛らしい。年上の人にこんなことを思ってはいけないんだけど、つい…。あることが原因で女性は苦手だが、おばあさまは別だった。



「リクちゃん。久々に会ったのだから、お茶しない?リクちゃんとお話がしたいわ!」

「構いませんけど。おじいさまは大丈夫ですか?」

「ええ。コルちゃんは今日、家に帰って来ないから」


寂しそうに話すおばあさま。
きっとおじいさまは、女性と会っているのだろう。



「わかりました。すぐに準備させます」

「うふふ。ありがとう!リクちゃん」


後ろにいたクロッカスにお茶の準備を頼み、僕はおばあさまと先に客間に向かった。

ソファーに向かい合って座り、用意された紅茶を飲む。紅茶はおばあさまが持って来てくれたもので、とてもおいしい。そのことを伝えると、おばあさまが嬉しそうに笑った。
お茶の他にお菓子類も数種類用意され、おばあさまは色々なお菓子を頬張っていた。その様子が微笑ましくて、僕もつい笑みが溢れた。



「そういえば、リクちゃん。最近どう?好きな人とか出来た??」

「いえ、いません」

「え!?気になる娘くらいはいるでしょ?」

「全然」


僕がそう返すと、おばあさまは言葉を失ってしまった。おばあさまはドルチェ家には珍しく、顔に出る人だった。



「リクちゃん!少しは誰かに興味を持ってー!ワタシは寂しいわ!!」

「そう言われても…」


誰かに興味が向かないのは事実だし。だからと言って、嘘もつけない。

だけど、話していて楽しいと思う相手は一人いる。

アリスさん。
彼女は使用人だけど、お互いに本が好きで、好きな傾向も同じ。彼女と会う度に本の話をしてしまうけど、話題は尽きない。本を薦めると、次会う時には彼女は読み終えていて、感想をくれる。僕と同じことを思っていたり、僕が考えもしなかったことをアリスさんならではの視点で話してくれたりする。それをまた二人で考察したりして、とても楽しかった。

あと話をしていても、くるくると表情が変わるのを見るだけでも楽しい。今まで誰かといても、こんな風に思える人はいなかったから。



「……リクちゃん」

「はい。何ですか?」

「ワタシの目は誤魔化せないわよ?」

「え」

「やっぱり好きな娘、いるんでしょう!」


いきなりおばあさまがそう言ってきた。今日はやけに食い下がるな。



「いませんよ」

「嘘よ!アナタ、自分でも気づいていなかったけれど、とても優しい顔をしてたわ!」


アリスさんのことを考えてはいたけど、別に彼女とは…。僕達は身分も違うから、一緒にはなれない。彼女もそこはわかっているはず。
それにカルロ兄さんの一件もあるから、余計にだ。

僕はハルクのようには考えられない。ハルクはまだ子供だから、あんなに真っ直ぐ好意を向けられるんだ。

だが、僕はもう幼くない。幼くいられる年齢でもない。



「シスくんもそういう顔をしていた頃があるの」

「父さんが?」

「ええ。アナタのように優しい顔をしていたわ。もう大分、昔の頃にね…」


おばあさまが少し遠い顔をしていた。
父さんにもそういう時があった。信じられないけれど。でも、おばあさまはおじいさまと違って、嘘はつかない。



「リクちゃん」

「はい」

「あなたは後悔しないようにね」

「どういう意味ですか?」

「言葉通りよ」


おばあさまは、何故か泣きそうな笑みでそう答えた。この時、何故こんな顔でそう言ったのかわからなくて、僕はそれ以上、聞けなかった。

その意味がようやくわかったのは、あと数年後のことだった───。






【END】
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