Sports Festival 前




翌日。
私は早く起きて、お坊っちゃまにお弁当を作っていた。昨日のうちに食堂のキッチンを借りる許可はもらっている。

無心で作っていたら、思っていたより早く出来た。味見もしてみたが、これなら大丈夫だわ!

それはそうと、つい作り過ぎちゃったな。お弁当が二つとおにぎり三つに、おかずだけを詰めたものが一つ。

一つはお坊っちゃまで、もう一つはアガットさんに渡そうかな。いつもより朝は早いだろうし。もしもいらないと言われたら、スマルトにあげよう。食べてくれるはずだ。おにぎり二つは、私の朝ごはんとして、残りはお昼に回そう。

お弁当箱、それぞれ蓋をして、大きめのハンカチでくるむ。

台所を片付けたところで、時間を見る。まずい。早く渡しに行かなきゃ、お坊っちゃまが登校してしまう!

二つのお弁当を持ち、本邸の玄関口に向かうと、お坊っちゃまがアガットさんの運転する車に乗り込もうとしたから、慌てて呼び止めた。



「お坊っちゃま!待ってくださーい!!」

「アリス!?」


私が来ると思ってなかったのか、お坊っちゃまはかなり驚いていた。



「どうぞ、お弁当です!」

「え、弁当…?」

「はい。朝から練習すれば、お昼までにお腹が空くじゃないですか?だから、お腹空いたら、これを食べてください!」

「……」


しかし、お坊っちゃまはお弁当を受け取ってくれない。え、もしかしてだめだった!?



「あ、購買部とかありましたよね?もしかして、そっちの方が良かったんですかね。すみません。これは持ち帰りま…」

「違ェって。いる!絶対に食べるからくれ!」

「でも…」

「オレのために作ってくれたんだし、いらないわけねェ。作ってくれるなんて思ってなかったから、ビックリしただけ…」


お坊っちゃまが照れてる!可愛い!!
そんなお坊っちゃまを見たアガットさんも微笑む。



「良かったですね、お坊っちゃま」

「………うん」


嬉しそうに頷くお坊っちゃまを見て、作って良かったと思った。
あ、忘れるところだった。もう一つのお弁当箱をアガットさんに渡す。



「良かったら、アガットさんもどうぞ」

「え、俺もいいんですか?ありがとうございます!」


良かった。アガットさんにも受け取ってもらえて。
そして、私はお坊っちゃまを見送った。





夕方。
いつもより少しだけ早くお坊っちゃまが帰って来た。といっても、もう18時だけど。



「おかえりなさい。お坊っちゃま」

「ただいま。これ、ありがとう」


そう言って、お坊っちゃまが朝に渡したお弁当箱を返してくれた。



「中、ちゃんと洗っといたから」

「え?洗ってくれたんですか!?ありがとうございます!」

「あと、これやる」


お坊っちゃまが紙パックのいちごオレを私にくれた。



「ありがとうございます。ジュースまでもらって、何か逆に悪いです」

「……。あのさ、アリス」

「はい?」

「体育祭までの間、お弁当を作ってくんねェ?」

「え」

「今日、朝練した後、腹空いてさ。これがなかったら、昼まで持たなかったんだ。作ってもらって、すげー助かった。だから、体育祭が終わるまで作って欲しい。…ダメ?」

「いえ。私で良ければ、喜んで作りますよ!」

「本当!?材料費なら、こっちで出すから。ボルドーにはオレから伝えるし。あとさ…」

「お坊っちゃま?」

「体育祭当日の弁当も作って欲しい!てか、体育祭、見に来てくんねェ?」


体育祭か。去年も見に行ったのよね。お坊っちゃま、大活躍していたし。今年も見れるなら、是非とも見たい。



「はい!行きます。お坊っちゃまの活躍を見るの楽しいですから」

「良かった。チケットは後で渡すな」

「チケット、ですか?」

「それがないと入れないぞ」

「え!?そうなんですか」


そういえば、去年もそうだったっけ?やっぱり私立は色々とあるのね。

それからお坊っちゃまが夕食を食べに行った後に、アガットさんが私のところに来た。



「アリスさん。お弁当ありがとうございました。良かったら、これをどうぞ」

「え、お菓子?わざわざ用意してくださったんですか!?」

「お弁当が嬉しかったので、俺からのささやかな気持ちです」

「それじゃあ、いただきます。ありがとうございます!」


アガットさんにもお弁当のお礼を言われて、お菓子までももらってしまった。アガットさんもお弁当箱を洗って返してくれたのよ。



「お口に合いましたか?」

「おいしかったです。弟達には一時期、よく作ってたりしていたんですが。俺自身が誰かに作ってもらったのは、久々だったので」

「え、そうなんですか?」

「はい…」


そうか。アガットさん、ご両親が亡くなってるのよね。長男だから、弟さん達の面倒を見てたから、他に作ってくれる人はいない。



「いえ、私ので良ければ、作った時は是非食べてください」

「ありがとうございます」

「そうだ。アガットさん、お坊っちゃまの体育祭を見に行くんですよね?」

「ええ。今年は休みなので、見に行きますよ。メイズとも約束しましたから」


そっか。タスク様もいるから、メイズも行くのか。



「あの、私もご一緒してもいいですか?お坊っちゃまに見に来て欲しいと許可をもらえたので」

「はい。一緒に見ましょう!」


アガットさんは、笑って答えてくれた。本当に優しい人だ。

それから体育祭の前日まで、お坊っちゃまに毎日お弁当を作った。というか、お坊っちゃま、朝早いからって、学園に行く前も何も食べていなかったから、車で食べれるようにおにぎりも作ってあげた。


そして、あっという間に体育祭当日になった───。





【to be continued】
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