Grandfather in Full Bloom
今日は休み。
珍しく予定もなく、屋敷から出ず、部屋にいた。
朝、部屋にいたアンバーも俺が出かけないとわかると、飲み物と軽食を用意すると、どこかに行ってしまった。屋敷内にはいる。きっとアガット達のところだろう。出かけるなら、連絡すればいい話だ。
それよりも本が増えてきたから、書斎に片しに行くか。随分とたまっちゃったな。読み終えた数冊の本を抱え、部屋を出て、廊下を歩く。
すると、俺にとって、一番会いたくない人物が向こうから歩いて来るのが見えた。……げっ。何でいるんだよ、あの人。
向こうも俺に気づいたようで、ニコニコしながら俺に手を振ってきた。あー、これは逃げられない。
「やあ、カルロ。元気だったかい?」
「はい。お陰さまで…」
親父の父親であるコルチカム・ドルチェ。
かなり若く見えるせいか、見た目30代に見えるが、この人は既に60過ぎている。というか、親父も若いからな。ドルチェ家自体がそういう血筋なのかもしれない。この人や親父よりも別次元なのは、ジルだけど。あの人は存在自体が不思議だしな。
「どうした?」
「最近、よく屋敷に来てますね。何かあるんですか?」
「ああ。ちょっと興味のある人物がいてね」
興味のある人物なんて、絶対女性だろ。それより、この人が興味を惹く女性がこの屋敷にいるのか?昔から色んな女性に手を出してばかりいるわりに、妻のジルとは別れることはない。喧嘩してるところも見たことないし、それが不思議だった。
祖父と話していると、少し離れたところで使用人の女の子達がこっちを見てた。どうやら俺とこの人が並んでいると、親子に見えるらしい。いや、この人と俺、祖父と孫だよ。それに俺、この人に似てるのだけは嫌なんだよ。それをリクやハルク達に言っても、「似てないところはない」って言われるし。俺だって、好きで似たわけじゃない。
「ここの使用人の女の子は、容姿のレベルが高いね。一部、中身まで高くない子もいるみたいだが」
「それは、何人かに手を出したことのある言い方ですね」
「それは勿論あるよ。ここしばらくは、相手をしていないけれどね」
やっぱりあるんじゃないか。ま、この人の場合、何かあっても、金で解決するだろうけど。
「そうだ。カルロはあの娘を知ってるかな?」
「あの娘?」
「んー。名前は何て言ったかな。以前、街で会ったんだよ。ジルもこないだその娘と会ったみたいで、うちでも話題に上がるんだよ。確か、金髪で髪の長く使用人の可愛いらしい女の子だったな…」
金髪で髪が長い。使用人。可愛い。女性。それに当てはまるのは、何人かいるけど。この人が印象に残るほどの子なんて使用人に……一人いたな。外見に似合わずにやらかす子が。いや、でも、まさかね。
そういえば、少し前にアリスとジルが会っていたよな。祖父が探しているのは、アリスのことじゃ…。てか、この人もいつの間にアリスと会ったんだ?
「もしかして、アリスのことですか?」
「そう。その名前だ!」
微かに頭が痛くなった。
アリスは、相変わらずドルチェ家の人間の中で印象が強いらしい。ボルドーが頭を抱える気持ちが少しわかる。
「どうして、アリスを?」
「ちょっと気になってね。アメジストと話をした時に、口ではどうでもいいと言っていたが、その娘をかなり気にしているところがあってね」
「親父がアリスを?」
「ああ。カルロは知らないね。昔、アメジストの婚約者、いや、元だな。その娘とアリスという娘の外見が瓜二つなんだ」
え。アリスとそっくりの婚約者。
いや、待てよ。確か、親父の部屋にも写真があったけど、その中にアリスに似た女性のもあったよな?あれが婚約者だったのか。
「おや、カルロも気づいていたか。アメジストはその娘が好きだったからな。アイツにしては、珍しく本気だったよ」
「親父が…」
あの親父も一途な時もあったのか。今ではそんな欠片、まったくと言っていいほどないけど。じゃあ、ハルクやタスクの真っ直ぐさも親父からってこと?うわー、信じられない…。
「カルロも色んな娘達と遊んでるようだな」
「俺はそれほどでは…」
「あるだろ?俺の知り合いの娘がお前と遊んだことあるらしく、また会いたいが、連絡先を知らないからと親を通じて、お前に会えるように頼んで来たぞ」
そう言われてもな…。
基本的に連絡先を聞かないまま、別れることの方が多いんだよな。遊ぶけど、長々と関係は持ちたくないし。前に気まぐれで連絡先を交換したら、やたらしつこい娘がいたからな。それもあって、女性とは連絡先を交換しない。俺のスマホに入ってる女性といったら、ジルとアリスくらいか?ま、アリスは交換したというよりは、一度ハルクが自分のスマホの充電が切れて、やむなく俺のを貸したからなんだけど。帰ってから、ハルクに消せと言われてたのに、消すのが癪でそのままにしていたな。
「コルチカム様」
そこへ親父の側近であるノワールが現れた。俺に軽く会釈だけすると、祖父の方に向き直る。
「アメジスト様がお呼びです」
「ああ、もうそんな時間か。迎えに来てくれて助かったよ。それじゃあ、カルロ。またね」
俺に手を振って、祖父はノワールと共に行ってしまった。やっと解放された。残された俺は、手に抱えた本を持ち、書斎へと歩き出した。
【END】