Christmas
❰side Hulk❱
「お坊っちゃま?」
ベッドに入ってすぐにアリスがオレを呼ぶ。
でも、返事しなかった。すると、アリスはオレの頭を撫でた。
返事をしなかったから、寝たと想われたのだろう?
「おやすみなさい…」
それからアリスは眠ってしまった。
昔、よく寝る前に母さんがしてくれた。二度としてくれることはないと思っていた。なのに、同じことをされて、つい涙が出た。
アリスといると、よく母さんと一緒にいた時のことを思い出す。全然似てないのに…。だけど、母さんがやってくれたことをアリスはしてくれる。
でも、たまにアリスといると、母さんにはなかった感情がある。
この狭くて窮屈なベッドの居心地は悪くない。温かくて、アリスの体温をすぐ傍で感じられた。
「んっ…」
その時、いきなり引き寄せられた。
てか、オレ、アリスの胸に顔当たってるし。柔らかいし、意外に……って、そうじゃねェし!
このままでもいっか。オレがやったわけじゃないし、こんなに傍に近づいていられるのはあまりないことだし。
ずっとこうしていられたら…。
そう思いながら、オレも眠りにつく。
夢を見た。
もう少し大人になったオレは、誰かと歩いていた。
「ハルク」
名前を呼ばれて、横を見る。その相手の名前を呼ぼうとした瞬間に目を覚ます。
……………オレは、自分の部屋のベッドにいた。
あれ?オレ、昨日はアリスの部屋に泊まったはずなのに…。あれは夢だったのか?
そう思って、起き上がると、自分のサイズより大きい赤色の袖が見えた。この服はオレのじゃない。アリスの服だ。
「……夢じゃねェ」
「やっと起きたね、朝帰りの坊っちゃん」
「げっ、カルロ」
ベッドの傍でイスに座ったカルロがいた。昨日はいなかったのに…。
てか、何で笑ってんの?
「お前も随分嘘が上手くなったね…」
「……何がだよ」
「23時になったら鍵がかかるから部屋に帰れないって言ったんだって?」
何で知ってんだよ。
オレ。アリスにしか言ってねェのに…。
「アリスに聞いたからだよ。ここの鍵を持ってるくせに…。わざと置いて行っただろ?」
「忘れた」
「お前、部屋に帰れなかったら、泊めてもらえると考えてただろう?アリスは優しいから、それをわかってて、お前は利用した。泊めてもらえば、朝までは一緒にいられるしね。クリスマスだし」
「……」
「今着ている服もそう。アリスの服だから脱がなかった。暑がりのお前が」
「……」
「で、どうだった?」
「何が?」
「使用人の部屋にあるベッドは、シングルサイズだから二人で寝る分には狭かっただろ?大人二人で寝るよりはマシだろうけど、一緒に寝たんだろ。大好きなアリスと」
どうって、そりゃあいい匂いがしたし、その、柔らかかったし…。
昨晩のことを考えて、顔が赤くなった。
「マセガキ」
「うっせェ!てか、何で使用人のベッドのこと、知ってんだよ?行ったことあるみたいな…」
「行ったことあるからね」
「お前。メイドにも手…」
「お前も同罪でしょ?」
「オレ、一緒に寝ただけだし!」
「俺もそうだよ」
嘘つけ。絶対それだけじゃねェだろ。オレがマセガキなら、カルロなんてエロ魔王だ!
知ってんだぞ。メイド達を色香で惑わせてんの!
アリスには効いてねェみたいだけど。アイツのセンサーはリク兄にしか反応しないしな。
「そういうこと考えてる時点でお前も変わらないのにね…」
「違っ!」
「顔が真っ赤。スケベだね、ハルクは」
「アイツが勝手に抱きついてきたから!」
「アリスの胸は柔らかった?」
うっ。
言葉につまり、それを見てカルロが笑う。
「少し前までは全然女の子に興味なかったのにね。好きな人が出来ちゃうと、ここまでになっちゃうわけか」
「うるせェ!」
「でも、ハルク。一つ教えてあげるよ」
「何だよ」
「アリスといられるのは、今だけだよ。好きになっても、一緒にはなれない。身分が違うって、お前もわかってるだろう?」
「……」
「だから、これ以上、アリスに好きにならない方がお前のためだよ」
「……オレは!」
わかってる。
わかってるけど、一緒にいればどんどん好きになっちまう。
傍にいたくて、触れたくなって…。
「好きになっても、必ずアリスと別れの時が来るんだよ。好きになればなるほどに別れが辛くなるだけだよ。ハルク…」
「まだ別れの時じゃねェし」
「“まだ”来ないだけ。必ず来るよ」
そう言って、カルロが部屋を出て行った。
言われなくてもわかってる。
親父はオレ達を身分と家柄のある女達と結婚させることくらい。
好きな相手が出来たとしても、親父の目にかなわなければ、引き離される。ましてや何もない庶民の娘となんて、絶対に一緒にさせねェだろう。
きっとオレが誰かと結婚するよりも先にアリスが誰かと結婚してしまうだろう。アイツの隣に誰かが立つ。
そんなの見たら、オレは絶対に…!
【END】