Alice swap Ⅳ
【side H】
さっきからずっと感じてはいたけど、今日のアリスはいつもと違い過ぎだよな。
でも、朝来た時は、いつものアリスだったぞ。部屋の中をテキパキと動いてたし、オレが服を散らかしたままにしといたら、「お坊っちゃま、ちゃんと片付けてください!」って注意してきたし。
昼前に「休憩に行って来ますね」って行ったまま、しばらく帰って来なかったんだよな。前にも何度かあったし。どうせ休憩終わりに仕事を頼まれて、しばらく部屋に戻らないこともあったから、今日もそこまで気にしてなかったんだけど。
でも、15時過ぎても全然戻らねェから、探しに行こうかと考えたら、やっと部屋に戻って来たんだよな。
てか、それからだよ!アリスの行動が変なのは…。
「それ、宿題?」
「え、ああ。これは……っ!?」
アガットかと思ってたら、アリス!?
いつの間にか戻って来て、オレの隣に座ってるから、マジでビックリした!
さっき、アガットに結んでもらったリボンは外してねェけど、また服のボタンは外してるし。
どうしたんだよ!お前、いつもちゃんと着てるだろ!!胸の谷間が見えてるから!見ないようにしても、アリスが見えるように接近してくるから、つい見ちまうし。結構、胸があるよな……って、いやいや!そうじゃねェ!!
「ふふっ、可愛い!」
「へ?」
アリスに抱き寄せられた。
てか、顔に胸が当たってるし!柔らかい上にいい匂いがす……やべェ!!
「アリス。離せって」
「暴れちゃだーめ」
「……っ!!」
まずい。早く抜け出さねェと、本当におかしくなる!
無我夢中で抜け出そうとした時、オレの右手が柔らかい何かを掴む。一瞬、何が起こったのか、わからかったから、つい指を動かしたら、更に柔らか……っ。
「……えっち」
「は?…………っ!?」
アリスの呟いた声にようやくオレは、何を触っていたかに気づいた。そりゃ柔らかいわけだよ!何やってんだよ、オレ。すげー恥ずかしい!
「顔が真っ赤だよ?」
「それはお前の胸を触っちまった、からで…っ!」
「ねぇ、もっと触りたい?」
「……はあああああっ?!」
「今度は直に触らせてあげるよ?」
直に触らせるって!?想像したらヤバイ!刺激が強すぎる。
そんなオレをよそにアリスは、派手な下着をつけた胸を見せてくる。そして、オレの手を掴み、胸の中心のところを触らせる。
「このブラは、真ん中のところから外せるよ?ここを指で動かせば…」
「っ!!?」
「ね?外れたでしょ?」
言った通り、簡単に外れた。
外れたけど!そういうことじゃねェから!!
「バカ!胸!早く隠せよ!!てか、オレにやらせんな!」
「え?胸を触りたいと思ったから、外させたんだよ?ほら、あとはブラを取るだけ。ね?」
だー!!やめろ!取ろうとすんな!
オレは、近くにあったクッションをアリスの胸元に押しつけた。
確かに興味あるけど、こういうのはお前がオレのこと好きになってから。……今は全然オレに興味持ってないけどさ。
「可愛い。本当に可愛いわ!」
「何度も可愛いって言うな!嬉しくねェよ」
可愛いなんて言われて喜ぶヤツ、いねェし。まして、好きな女から言われたら、余計に…。
「可愛いから特別ね?」
「特別??」
気づいた時にアリスに手を掴まれ、触っていた。さっきは服の上から。だけど、今は───
「(どう?触り心地は)」
「……っ………ぅ…」
耳元で囁いて来る。やめろ。本気でおかしくなる!
やっぱアリス、おかしくねェ!?普段、絶対にそんなこと言わねェし、こんなことしねェよ!
完全に何も考えらんねェ。
そこへ部屋のドアが開いて、アガットが入って来た。
「お坊っちゃま。な、何やってるんですか!?」
「アガット。いや、これは…!」
アガットがそう叫ぶのは無理がない。
だって、どう見ても、オレがアリスの胸を触ってるようにしか見えないし。
「ハルクが触りたそうにしていたから、触らせてるの」
「お坊っちゃま!?いつから、そんなになってしまったんですか!?不潔です!」
「違ェって!誤解だから!」
「アリスさんの胸を触ったまま言われても、説得力ありませんから!」
ごもっとも過ぎる。
オレは慌てて手を離す。ちょっと惜しい気が……何言ってんだ!オレ。しっかりしろ!!
ふとアリスを見れば、目線が合うとオレを見て、クスクスと笑っていた。
これ、本当にあのアリスか!?いつもと全然、違ェし。アイツ、こんな色気ないのに!むしろ、色気より食い気だぞ!?
って、気づくと、アリスはオレの傍から離れて、アガットに迫っていた。
「アリスさん、何言ってるんですか!」
「そうだ。三人でシよ?もっと楽しいと思うわ」
「いや、まだお坊っちゃまは中学生ですし。お、俺もあまりそういうことは…」
「顔が真っ赤だよ?可愛いー」
「アリスさん、服をちゃんと着てください!」
アガットの方もアリスに迫られるなんて思ってもいなかったのか、顔が赤いし。かなり動揺してるのがわかる。
てか、普段のアリスならともかく、今日のアリスは何ていうか、色っぽいというか…。アイツ、いつも言動が落ちつきないしな。黙ってれば、本当にキレイなのに───
「あなたの顔、結構タイプなんだけどな。ねぇ、パパ似?ママ似?」
「俺は父親似です。よく言われましたから…」
「へぇ、あなたのパパも同じ顔しているんだ。目も左右で色が違うのね。珍しい」
「これは父方の遺伝で……あの、アリスさん」
「何?」
アリスがアガットに首を傾げながら答える。
「今日のアリスさん、いつもと違います!何かあったんですか?」
「そんなにいつもと違う?」
「全然違います!アリスさん、いつも真面目で優しいけど、意外に短気なところもあって。でも、たまにおかしな行動もしたり、リク様の前では借りてきた猫みたくなりますし…。他人のことに敏感に気づく時もあれば、肝心な時に全然気づかないところも多々ありましたけど!」
アガット、思ったままを言い過ぎじゃね?ほとんど当たってはいるけどな…。
「ふーん。あの子、普段からあのままなのね」
「だけど、今日みたいにそんな格好でお坊っちゃまのことを試したり、俺のことまで誘惑したりなんてしません!」
「えー。今のあたしじゃだめ?」
アリスがアガットの首に腕を回し、上目遣いしながら言っていた。
二人の距離、近くねェ?
「っ!……アリスさんには慕われてる方がいますよね?」
「ちゃんと許可は取ってるわよ?彼ね、あたしのことが一番好きだって言ってくれるの。ちゃんと自分のところに戻ってきてくれるなら、いいよって」
は?彼??
アイツ、男なんかいねェよな?前に“私、誰かを好きになったこと一度もなくて、リク様が初恋なんですよね”って言ってたぞ。
それにアリスの口から、さっき、あの子…って、どういう意味だ?
「アリスさん、彼って誰のことですか?恋人はいないですよね?」
「親が決めた婚約者ならいるわよ?ねぇ、それよりも…」
「ごめんなさい!」
アガットがアリスの腕を剥がした後、オレの方に来て、いきなり腕を掴む。
「お坊っちゃま、一緒に来てください!」
「えっ…アガット!?」
「行ってらっしゃい」
アリスは手を振って、オレ達を見送り、それを見たまま部屋を出た。
「アガット!あのアリス、やっぱりおかしくねェ!?」
「おかしいですよ!」
「婚約者がいるなんて、聞いたことねェし」
まさか、妄想で婚約者がいるとか言ったわけじゃねェよな?流石にそれはねェか。嘘ついてるようにも見えなかったし。
「アリスさんに婚約者はいません。さっきのあの人は、アリスさんじゃないと俺は考えています」
「アリスじゃない?」
「どう見ても、普段と違い過ぎます。いつものアリスさんはあんな色っぽくないです」
「それは当たってるな…」
しかし。今日のアイツ、いつかの夢みたいに誘って来たアリスと似てたな。夢以上に迫力があったし。つい目がそらせなかった。
「下着はあんな際どいようなのは、つけてなかったよな…?」
「え、お坊っちゃま?今なんて…」
「アガットが来る前にアリスがいきなりベッドに押し倒して来て、服を脱いだんだよ。そん時も下着の上下が同じだって言ってさ、スカートを捲り上げながら見せてきて…」
「あの人、お坊っちゃまに悪影響しか与えないです!何とかしてもらいましょう!」
アガットがオレの手を引いたまま、更にスピードを上げて走り出す。どこ行くんだよ!?
そして、アガットが入った部屋は───
【to be continued】