Alice swap Ⅲ(前)




【side Camellia】



あの子の姿を手に入れたあたしは、早速リクを探していた。

さて、リクはどこかなー?


ドルチェ家の屋敷内を歩いて探してみるが、リクが全然見つからない。

部屋に行ってみても、リクはいなかった。だから、リクの専属執事に聞いてみたのに、教えてはくれなかった。「いつものところにいます」って言うだけで。あたし、いつもの場所なんて、知らないわよ。場所くらい言いなさいよ。もう不親切なんだから。


そう思っていた時、中庭のところでリクの姿を見つけた。

いた!
リクは花壇の花に夢中で、あたしに気づいていない。ここは驚かせてみようかしら。



「だーれだ?」

「……え…っ」


リクの後ろから回り、両手でリクの両目を隠す。だが、ちっとも誰なのか答えてくれない。



「……」

「わからない?」

「声はわかってはいるんですけど、ちょっと混乱していて…」

「もうリクったらー!」


仕方ないわね。あたしは、リクの目元から手を離す。すると、リクはゆっくりと振り返る。あたしを見て、リクは驚いた顔をしていた。

ふふっ、驚く顔していても、顔がいいわね。リクだけじゃなく、ここの兄弟全員いいけれど。



「アリス、さん…?」

「ふふ…」


あたしは、“アリス”じゃないけど。この身体はあの子のものだから、リクがそう呼ぶのも仕方ない。

それよりも、あたしは本来の目的を果たそう。



「ねぇ、リク。部屋に行かない?」

「部屋?」


驚いたままのリクの腕に抱きついて、あたしはリクの耳元で囁く。



「(そう。リクの部屋。そこで楽しくて気持ちいいことをシ・よ?)」

「僕と?」

「ええ」


あなたに決まってるじゃない。そこであなたがどんな顔を見せてくれるのか、あたしはすっごく見たいの。

あたしがどんなに誘っても、断っていなくなるのに、この身体だとリクは断ることも、いなくもならない。

それが少し腹が立つけれど、リクとヤれるなら我慢してあげるわ。



「……」


リクが少し考え込んでいた。

これはイケる!
期待したあたしは、更にリクの腕に胸を押し当てた。

この子、身体は結構いいのよね。でも、つけてる下着が地味過ぎ。もっと気を遣いなさいよ。だから、下着だけはあたしがいつも愛用してるものに変えたけど。
あとはリクがどう反応してくれるかよね。

と、いきなりリクに手を振り払われた。

え?あたしは、思わずリクを見た。
さっきまで驚いていた表情から一転して、無表情になっていた。



「あなたは、誰ですか?」

「何言ってるの?アリスだってば!」

「違う。僕の知ってる彼女は、ちょっと変わったところもあったけど、真面目で、ちゃんと立場を弁えていた」

「リク…?」

「それにアリスさんは、僕を呼びすてに呼んだことは一度もない。そうやって、身体を使って、言い寄るような頭の軽い女でもなかった。僕はそういう女が死ぬほど嫌いなんだ」


そう言って、リクがその場から離れようとしたから、あたしは慌ててその手を掴む。



「待って!リク」

「……」


こちらに振り返ったリクの表情は、冷たかった。視線だけでも凍ってしまうような。
リクの知らない一面にあたしは、恐怖を覚えた。



「あんなに言っても、まだわからないようだな」

「あたしは…!」

「その頭は飾りか?僕の言葉がわからないようだし、人間じゃないんだな。動物?いや、動物でも理解力や学習機能があるから、お前はそれ以下か」

「ひどい。そこまで言う!?」

「離せ」

「リ、ク?」

「聞こえないのか?手を離せと言ってるんだ」


手を離さないあたしに、しびれを切らしたリクがあたしの反対の手を掴み上げる。

痛い!リクの力が強過ぎるため、離そうにも離せない。

これは本当にリクなの?普段と全然違うじゃない!まるでおじさまみたいだわ。



「リク、やめて。痛いの。痛いから離して…」

「僕はお前と同じことをしただけだ。先に掴んで離さなかったのは、お前の方だろう?」


そう言って、リクはあたしの手を離す。よほど強い力だったせいか、手首に痣が出来てしまった。

正確には、あの子の身体についたのだけど。



「リク…」

「その姿で僕の名前を軽々しく呼ぶな。本物のアリスさんでもないお前が」


バレてる。いつからあたしがあの子じゃないとわかっていたの?いつ?……あの時?

少し考えた後に、リクの様子は変わったから。

見たことのないリクの姿にあたしは、怖くなって、震えが止まらない。空気までも重くなったような気がする。息がしづらい。



「お前はアリスさんの皮をかぶった偽者だ。今すぐに失せろ。本当は八つ裂きにしてやりたいぐらいだが、僕はそこまで愚かじゃない。しかし、懲りずにまたその姿を見せたら、次は容赦はしない。わかったか?」

「……っ」

「返事」

「……わかっ、た…」

「返事もギリギリ及第点だな。二度と僕を追ってくるなよ?」


あたしの返事を鼻で笑い、冷たい目であたしを睨みながら、リクは去っていく。

リクの姿が見えなくなってから、ようやく身体の震えが治まった。



怖かった…。
ママやライから聞いてた通りだ。リクの怒ったところは、おじさまにそっくりだった。ライはよくあのリクとヤりたいなんて思ったわよね。たまに命知らずなところあるのよ、ライって。


それよりも失敗した。あの子のフリをして、リクに近づけば良かったんだわ。でも、あの子のフリは何故かしたくなかったのよね。

おそらくリクには、あたしの演技では通じないだろう。また行って、あの目で睨まれ、今度は何されるか…。考えたくない想像に鳥肌が立つ。

あたし、もうリクとはシたいなんて思えなくなったわ。



……仕方ない。
リクがだめなら、ハルクにしよう。あとハルクの専属執事は、確かママが密かに狙っている“彼”だった。


ママの部屋には、あの彼に似た男の子の写真が残って置いてある。パパからしたら、捨てたいみたいだけど、ママに嫌がられたから仕方なく許してるみたい。

ママって、基本的に誰に対しても本気になることはない。気に入った人がいても、すぐに飽きて、別の人に行っちゃう。それの繰り返し。あたしもそうだけど。


だけど、この写真に映っている人だけは、特別みたいで、こうして写真を取って置いてる。

名前は、コーラル・スノーホワイト。

写真は普通のものから、隠し撮りしたものなどと様々。更には行為中か、その後のものまであった。よほど気に入っていたのだろう。映像まで残っていたから。

あたしも興味があって、一度だけ映像を観たことがあったが、すごく可愛いかった。泣き顔もその声も反応さえ、何もかもすべて。
こんな子がいたら、あたしも欲しい。


いつだったか、パパに聞いてみたことがある。そしたら、パパは「シトリンの一番のお気に入りだ」と言っていた。



“おそらくずっと閉じ込めて置きたかったんだろうな。よくあいつの子供が欲しいと言っていたから”

“子供?”

“そう。そいつの目を見ただろう?シトリンには、あの瞳が宝石のようにキレイでたまらないんだよ。だから、手放したくなかった”

“どうして?手に入れたんじゃなかったの?”

“他の女に奪われたんだ。その女と出会い、弱かったそいつは強くなっていったから”

“その女を潰せば良かったのに”

“カメリアもシトリンに似たな。……出来ないさ。ドルチェと並ぶダイヤモンド家の令嬢だったから”



五大財閥のうちの一つであるダイヤモンド家。
あそこには、あたしと同い年の娘とツツジと同い年の息子がいたはず。確か、あそこの母親が病死して、何年か前に再婚したってママが話してたし。


こんなことを考えてる場合じゃないわ。早く行かなくちゃ。

あたしは、ハルクの部屋へ向かった。





【to be continued…】
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