Alice swap I




「はあっ、はあっ…!」


もう走りたくない。私の体力が持たない!
カメリア様、私より運動能力が高いから、すぐに身体は動けるんだけど、私自身の体力がないから長くは走れない。靴もヒールが高いもので走りにくいから、脱いで手に持っていた。館内はずっと裸足で走り回ってた。

そしたら、玄関口まで来ちゃった。そこで見慣れない車が一台停まっていた。これ、ドルチェ家の車じゃないよね?
そう思いながら、見ていると、運転席にいた人が慌てて降りてきた。



「カメリア様、帰宅されますか?すぐに準備しますので、乗ってください」

「え…」

「どうぞ」


そう言って、車のドアを開けてくれた。これって、セミフレッド家の車だったんだ。それなら乗ろう。このまま屋敷にいたら、ライ様に見つかっちゃうし。見つかるくらいなら、ひとまず逃げよう。

早速、私はその車に乗り込んだ。


それから数十分ほどで、カメリア様の住む屋敷に着いた。ここも豪邸だよ…。送ってくれた運転手さんに「ありがとうございます」と告げたら、驚かれた。カメリア様、当たり前のようにしてるんだろうな。私は庶民だから、つい頭を下げちゃうけど。でも、ちゃんとお礼は言わないとよね。

中に入ると、ここに勤めている使用人の人達とすれ違うが、皆、挨拶だけして行ってしまう。話しかけようにも、皆が私を避けているようにも感じた。私というか、カメリア様だけど。

私は話しかけるのをやめて、手当たり次第にドアを開けて、屋敷内を回った。ドルチェ家に慣れているせいか、あまり驚くようなことはない。

一階を全て回り、二階に上がる。
うーん、二階に部屋がありそうだけど、一階みたいに勝手には開けられないよね。

それにしても、カメリア様の部屋はどこ?キョロキョロしていたら、目の前の部屋から女の子が出てきたから、聞いてみることにした。



「ねぇ」

「カ、カメリア姉…」


何か怖がられてる!?しかも、泣きそう。私は何もしないから!泣かないで。



「私の部屋、どこ?」

「カメリア姉の部屋は、3つ先です」


言われて見てみると、部屋の前に花のプレートが見えた。あれはカメリアか。



「あ、ありが…」


礼を言おうとしたら、その子は既にいなくなっていた。え。いない。そんな慌てて逃げなくても…!
その子の部屋の前にあるプレートは、向日葵だった。ヒマワリちゃんか。可愛い子だったから、もっと話したかったな。

カメリア様の部屋に入る。
中は赤を基調とした感じで、ベッドまでも赤。触ってみると、シルクを使っているのか、スベスベしてた。ベッドに腰かけると、柔らかい。これ、お坊っちゃまと同じベッドなんじゃ…。お坊っちゃまは黒だったけど。というか、兄弟でカラーがあるみたいなのよね。お坊っちゃまは黒なのか、全体的に部屋の中の色が暗すぎて…。せめて、小物だけでもカラフルにしたいけど、嫌がられるしな。

ベッドから立ち上がり、クローゼットの中を覗いてみる。露出高い服ばかり!こんなの私、着れない。いくら今はカメリア様の姿でも…。てか、この服、アンメじゃん。ゼロの桁が一つ違う高級ブランド。ベゴニアもここの鞄、持ってたな。

もしかして!下着が入っているところも見てみる。私の予想は、当たった。下着すらも私が絶対に履かないものばかり。Tバックや布の面積が小さいショーツしかない!無理だよ。ブラは、私とサイズが同じ。同じだけど、派手なのばっか!キャミソールやタンクトップなどはない。何で!?クローゼットを閉じて、私はイスに座る。

………。

この部屋にいても、落ちつかない!本は一切、ないし。アクセサリーは沢山あるけど、それについてる宝石がキラキラ輝いていて、反対に眩しい。普通のシンプルなアクセサリーは好きだけど、カメリア様が持ってるわけない。高いものばっかなんだもの。バッグも服もブランド物ばかりだし。

落ちつかない私は、部屋を出ることにした。すると、見知った後ろ姿を発見した。



「ツツジくん!」

「………は?姉貴…?」


ツツジくんが変な顔を私に向けて来た。確かに姿はカメリア様だものね。私は、ツツジくんの元に駆け寄る。



「覚えていませんか?私です!アリスです!前に一緒に喫茶店に入って、食べたじゃないですか!ドルチェ家で働いてる使用人の!」

「はあ?」

「私にもわからないんですが、今はカメリア様の身体になっていて…」


ツツジくんが不審に思ったのか、行こうとする。待って。私はツツジくんの腕を掴む。



「待ってください!信じてください!嘘じゃないんです!本当に私、誰に言ったらいいか、わからなくて…。お願いです!私の話を聞いてください!!」

「……」


必死に何度も頭を下げた。もう一人では、耐えられない。誰かに話を聞いて欲しい。



「…………わかった。オレの部屋で話そう」

「ありがとうございます!」


私は、ツツジくんの部屋に入った。
彼の部屋は、必要なの物しか置かれていないけど、寂しいわけでもない。どちらかといえば、落ちついた感じ。シックといえば、いいのかな。お坊っちゃまの部屋とは全然違うわね。



「姉貴じゃないことは、わかった。うちの姉貴は、絶対頭なんて下げないからな。姉弟でもな」

「そうなんですか…?」

「あとその話し方だな。姉貴はそんな話し方はしないし」

「そうですよね…」


だから、わかってくれたのかな。そのお陰で私がアリスだとわかってくれたから、良かった。流石にカメリア様の演技は出来ない。弟のツツジくんとどう接しているかもわからかいしな。



「それで姉貴は、お前の姿で何をすると言ってたんだ?」

「兄弟の皆さんを侍らせたいと仰っていましたね…」

「姉貴の考えそうなことだな」


ツツジくんが苦笑いした。話していて思ったけど、ツツジくんもカメリア様のことは、あまり良く思ってないみたいだな。ドルチェ家の兄弟は、何だかんだ仲は良いからな…。一部、微妙な仲もあるけど。



「ツツジ様。今、よろしいでしょうか?」

「いいぞ。入れ」


失礼しますと入って来たのは、ここの執事の人。何故か私を見て、「カメリア様、ここにいらしていたんですね」と言った。
もしかして、私を探していたのかな?



「どうした?」

「ドルチェ家の方々が今、お越しになっておりまして、カメリア様を出して欲しいと」

「え?」


私!?何で?まさか、ライ様。ここまで来たんじゃあ…。私は怖くなって、青ざめる。
……ん、方々??ライ様なら、一人で来るわよね?あとは、一体、誰が来るんだろう。



「ドルチェ家の誰が来てるんだ?」

「カルロ様、リク様、ハルク様がいらしてます」


え、何でその三人が来たの?
カメリア様がリク様とカルロ様は話しかけても、二人はすぐいなくなるって、聞いたことあるし。お坊っちゃまに至っては、話すらしてくれないって…。



「上の二人は何度か来たことはあるが、ハルクなんて、今までうちに来たことすらないぞ」

「そうなんですか?」

「アイツが誰かの家に遊びに行くタイプに見えるか?」

「ないですね。でも、去年の夏辺りから、コウくんやシンジュくんの家に遊びに行くようにはなりましたよ」

「え。あのハルクが…?」


ツツジくんが信じられないといった表情をした。その気持ちはわからなくもない。
でも、やっと年相応の子達と仲良くなって、私は嬉しい。姉みたいな心境よね。嫌がられるけど。



「三人が来てるなら、私…」

「オレが出て、様子を見てくる。お前は、この部屋にいろ」

「え、でも…」

「オレが戻るまで、絶対に部屋から出るなよ?」

「……わかりました」


そう言われ、私は頷く。
ツツジくんは、執事の人と共に部屋を出て行った。





【to be continued…】
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