Agatto's Birthday





夜。
仕事を終えて、私は部屋に向かい、昼間に作ったものを渡しに専属執事の方達の部屋がある方に向かっていた。

ちょっと緊張する。アガットさん、食べてくれるかな。そう思いながら、インターフォンを押す。すぐに誰かが返事した。



『あれ?アリス、珍しいね。どうかしたの?』

「ピアニーさん。こんな夜にすみません。アガットさんはいますか?」

『アガット?うん。ちょっと待ってね』


おそらく向こうから、私の姿はカメラで映っていたのだろう。

少し待っていると、ドアが開いた。出てきたのは、アガットさんだ。制服から着替えたのか、私服になっていた。いつも制服しか見たことないから、私服は見たことなかったけど、意外にラフなの着てるんだな。



「こんばんは。アガットさん」

「こんばんは。どうしたんですか?お坊っちゃまに何かありました?」

「いえ、私個人で来ただけです。あの、これ、良かったら食べてください!お誕生日ケーキです」


私は昼間に作ったケーキを箱に入れて、アガットさんに渡す。



「え?ケーキなら、昼間に…」

「昼間はお坊っちゃまが沢山食べちゃったので、また作りました。ちょっと小さいんですけど」

「開けてみてもいいですか?」

「はい」


そう言って、アガットさんが箱から中身を取り出す。私が作ったのはチョコレートケーキだ。それを見て、アガットさんは微笑む。



「さっきと同じ、お誕生日おめでとうのプレートがありますね」

「お誕生日にはかかせませんし、ちょっと歪になっちゃいましたけど、ホワイトチョコレートなので食べられます!アガットさんが食べられなければ、皆さんで食べてもかまわないですから」

「いいえ。このケーキは、誰にもあげません。俺だけのケーキなんですから」


そう言ったアガットさんは、いつもと少し雰囲気が違っていた。お酒でも飲んでるのかな?匂いが微かにするから。



「アリスさん、本当にありがとうごさまいます!」

「いえ、私はアガットさんにお世話になってばかりですから!気にしないでください」

「あの、誕生日なので、一つだけわがままを言ってもいいですか?」

「はい。私で出来ることでしたら…」


私が昼間に言ってたこと、覚えてくれてたのかな?アガットさん、普段からあまり自分のしたいこととか言わないのよね。お坊っちゃま優先にしちゃうから。



「迷惑じゃなければ、来年の俺の誕生日にまたケーキを作ってください」

「……」

「アリスさん?やっぱりダメでしたかね…」

「ち、違います!ワガママがそれだけでいいのかと思いまして…。ケーキだって、私が作るよりプロが作ったケーキの方が断然おいしいですし!」

「俺、アリスさんの作るケーキ、好きです。お菓子も全部…。食べると優しい味がして、安心するんです」


そんなこと、初めて言われた…。
恥ずかしいけど、嬉しい。そう言われると、作ってきて良かったって思える。たまに自己満足なんじゃないかと考えちゃうこともあったから。



「だから、また来年もアリスさんの作るケーキが食べたいです」

「わかりました。来年と言わず、私がここにいる間は、お誕生日ケーキは作りますね!」

「ありがとうございます。また来年も俺とアリスさんとお坊っちゃまで一緒にいられたら、それだけで嬉しいです」


アガットさんは、そう言って、笑った。つられて、私も笑う。

また来年もお祝いしなくちゃ。約束したのだから。滅多にワガママを言わないアガットさんのお願いだから───。





【END】
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