Agatto's Birthday




しばらくして、スポンジが冷めたのを確認し、お坊っちゃまにはクリームをかき混ぜてもらっている。さて、私は唐揚げとポテトをお皿に乗せ終わったから、サンドイッチでも作ろう。



「アリス、まだ?」

「もう少しです。頑張ってください」

「わかった!」


それからようやくケーキと軽食が完成した。

お坊っちゃまがつまみ食いしなければ、もっと早く出来たのよね。慣れないケーキ作りを頑張ってくれてたし、いっか。



「お坊っちゃま。ところでアガットさんは今どこに…?」

「今なら外にいるんじゃねェ?洗車してるかもな。アガット、ジッとするよりは動いてる方が好きだし」


既にポテトを口に運んで食べているお坊っちゃま。分けて置いたお皿に乗ってるところから取ってるからいいんだけど、唐揚げもパクパク食べてるし。



「そうなんですか?アガットさん、見た感じはおとなしそうだから、あまり動かないかと」

「アガットは、ああ見えて運動神経めちゃくちゃ良いぞ?専属執事の中でなら、一番だし」


え。そうなの?意外だわ…!仲間と勝手に思っていたわ。
でも、そうよね。動けないと専属執事にはなれないか。



「お坊っちゃま。アガットさんを呼んで来てください」

「わかった!」


お坊っちゃまにアガットさんを呼んでもらうことにした。その間に回りをキレイにしておこう。余計な物を片付け、テーブルを拭いて、作った物を並べる。



「これでよし!」

「アリス!アガットを連れて来た!!」

「お坊っちゃま、一体どこへ……アリスさん?」


お坊っちゃまの後にアガットさんも入って来た。私はお坊っちゃまと目を合わせて、一緒に口を開く。



「アガット」

「アガットさん」

「「お誕生日おめでとう(ございます)!!」」

「……え」

「私とお坊っちゃまでケーキを作りました。あと
簡単につまめる軽食もご用意しました」

「オレもケーキ作りを手伝ったんだぜ!アガットの誕生日だから」

「……」


アガットさんが何も言わない。というか、俯いてしまった。あれ?誕生日じゃなかった?いやいや、お坊っちゃまは今日だと言っていたから間違いはないはずだ。



「アガットさん?」

「す、すみません…。嬉しくて」

「え?」


顔を上げたアガットさんの目には、涙が浮かんでいた。私はポケットにあったハンカチを渡すと、アガットさんが礼を言って受け取る。



「お二人にお祝いされるなんて思ってなくて。お坊っちゃま、毎年誕生日におめでとうって言ってくれてたのに、今回は言ってくれなかったから、忘れてるのかと思って、寂しかったんです」

「忘れてねェよ!覚えてるから!親父の誕生日は忘れても、アガットの誕生日を忘れるわけねェじゃん!それと……これ」


お坊っちゃまがアガットさんに何かを渡す。見た感じ、紙みたいだけど。



「これ、プレゼント。毎年恒例の…」

「お坊っちゃま。ありがとうございます」

「毎年恒例?一体、何を…」


アガットさんが私に見せてくれた。
それは私も昔に作ったことがあるカード。小さい頃はお金持ってないから、自分で出来ることを考えて作ったもの。

お坊っちゃまの字で“なんでもやる券”と書かれていた。それが10枚つづりになっていた。切り取り線はあるが、ハサミとかで切らないと切れない。



「懐かしい!私も父や母にあげてました!誕生日じゃなくて、父の日と母の日だけですけど、肩たたき券とかお手伝い券って書いてました」

「あまりお金を使って欲しくなくて…。お坊っちゃまには、祝ってもらえるだけで嬉しいですから」

「アガットはその券、全然使わないんだよ」

「え?使わないとだめですよ!アガットさん。せっかくお坊っちゃまをこき使えるんですから」


私なら全部使うわね!
それなのに、アガットさんは優しいから、使わないみたい。この感じだと大事にしまってるんだろうな。



「アリス!なんだよ!こき使うって…」

「普段何もしないじゃないですか。私なら片付けをさせるために1枚、いえ、2枚は使いますね!」

「げっ…」

「冗談ですよ。片付け、そんなに残っていませんから。合間にやってしまいましたから。さあ、席についていただきましょう!」


その後は三人で食べた。軽食もケーキも全部なくなった。ケーキは誕生日であるはずのアガットさんよりもお坊っちゃまが食べていたのよね。私が何度注意しても、食べちゃうし。アガットさんもお坊っちゃまが食べたいのならって、譲ろうとするんだもの。流石に言ってしまったわ…。



「だめです!」

「アリスさん?」

「今日はアガットさんの誕生日なんですよ!今日くらいワガママ言ったっていいんです。お坊っちゃまに遠慮することはありません!」

「ですが、俺、本当にお坊っちゃまが嬉しそうなら構いませんから…」

「アガットもそう言ってるんだし」

「お坊っちゃまは少し遠慮することを覚えてください!」


アガットさん、遠慮し過ぎる。結局、ケーキだって、半分以上はお坊っちゃまが食べちゃったし。あれだけじゃ、寂しいわよね。

あ!いいことを思いついた!
またケーキを作ればいいんだわ。アガットさん、甘い物は好きみたいだし。


お坊っちゃまとアガットさんが部屋を出てから、私は後片付けをしていた。お坊っちゃまではなく、アガットさんが手伝おうとしてくれたけど、断った。お誕生日の人にやらせるわけにはいかないもの。
それなのに、お坊っちゃまはその隙に逃げたのよ。あのお子様めー!しばらくの間は、煮干しにしようかしらね。

よし、これで最後。使った食器をすべて洗い終わり、お湯を止める。

材料はまだ少し残っており、その材料であるものを作ろうとしていた。甘い物が好きなアガットさんも食べてくれるはずだ。お坊っちゃまがいると、譲っちゃうしな。せっかくの自分の誕生日なのに…。


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