I can't leave without a ○○○ I
オレとアリスは、いきなり何もない空間に閉じ込められてしまった。
唯一の出入口であるドアを何度も蹴飛ばしてみた。が、全然びくともしねェ。すると、ドアの上にあった額縁みたいなものが突然、動き出した。
そこに何か文字が書いてあったが、読めない。しばらくして、それは止まった。
書いてあったのは───
“キスするまで出られない部屋”
「「キス!?」」
お題を見て、オレらはその場に固まる。
「それ以外に出られねェの?」
「出られないと思います。お坊っちゃまが蹴っても開かなかったじゃないですか」
「びくともしなかったな」
「おそらくお題の通りにキスしないと、ここから出られないんですよ」
「キス…」
まさか、こんな形でキスすることになるとは思わなかった。もちろん、アリスとだよな。この場所にオレとアリスしかいねェし。
「お坊っちゃま、キスしたことは?」
「ねェよ!お前は?」
「残念ながら、私もありません」
え、マジ?その年齢でキス経験がねェのか。喜びそうになった。お互いが初めての相手。
うちの兄ども、さっさと済ませてたし。リク兄だけはわからねェけど。
キスより先も早くに済ませてたはずだし…。アイツら、親父に似て、手が早いからな(※あなたも受け継いでます(笑))
「うーん、いつまでもこんなところにいたら、心配させちゃいますよね」
「そうだな…」
オレはずっとここにいてもいいけど。
ここなら、邪魔なヤツもいねェし。アリスと二人きりでいられる。不謹慎ながらも、そう思っていた。
しかし、キスか。
映画やテレビとかで観たことはあるけど、いざ自分が体験することになると、緊張してきた。
しかも、相手は想いを寄せてるアリスだ。
「お坊っちゃま?」
「な、な、な、な、何っ!」
「顔が真っ赤ですよ?熱でもあるんですか?」
違ェし!何でそうなるんだよ!
てか、アリスのヤツ、まったく緊張してねェじゃん。そりゃオレはガキだし。意識しねェのはわかってたけどさ…。
「うーん、熱はないですね…」
「……っ。ねェよ!バカ!」
目の前にアリスの顔があった。てか、いきなり額を合わせてくるか!?
ビックリして、思わず後ろに下がる。
「バカって…。私はただ熱があるか、おでこを重ねただけですよ?」
「手でやれよ!」
「うち、熱があった時はおでこをあててたので、つい癖でやっちゃうんですよね…。妹も昔はよく熱出しやすかったので」
確か、アリスの妹がオレと同い年なんだよな。てか、やっぱりガキ扱いじゃねェか!
キスって、今みたいな感じに顔が近くに来るんだよな?あれで唇をくっつけるのか?……考えただけでちょっとヤバイ!
「お坊っちゃま、ちょっと横を向いてください」
「横?」
アリスが屈み、オレは言われたように顔を横に向けた瞬間、頬に柔らかいものが当たった。
同時にガチャンと大きな音がして、アリスが立ち上がり、ドアの方に向かう。
「ドアが開きましたよ!お坊っちゃま」
「……」
今、アリスにキスされたよな!?
顔が熱い。絶対に赤いよな、オレ…。
「お坊っちゃま、何してるんです?出ないんですか?」
「い、い、い、い、お、お、お、き、き…!」
(※訳すと、今オレにキスしたよな…となる)
そんな挙動不審なオレと違い、アリスはケロッとした顔で答える。
「頬にしただけですよ?流石に唇にはしませんって。ファーストキスは好きな人がいいでしょ?」
好きな人はお前だと言いたかったが、きっと伝わらない。アリスは鈍いから、違う風に取られる。
「……そ、うだけど、さ…」
「それにお題にはキスと書いてありましたが、場所の指定はなかったので、頬か額にしても大丈夫かと思ってしちゃいました」
「……ドロボー」
「え、泥棒!?」
「ドロボー!アリスのドロボー!!」
「だから、なんで!?何も奪ってませんよ!」
既に奪ってるだろ!
その日の夜、オレが眠れなかったのは言うまでもない。
【END】