School Trip (前)
そして、お坊っちゃまの修学旅行当日。
私は珍しく玄関口まで見送りに来た。いつもなら、部屋から見送るけれど、今日だけはここまで見送りに来た。
お坊っちゃまが帰ってくるのは、四日後だし。
「忘れ物はないですか?」
「うん」
「ご飯がおいしいからって、食べ過ぎないでくださいね?」
「オレ、そこまで食いしん坊じゃねェよ!」
「お坊っちゃまは食いしん坊です!私の作ったタルトやケーキを全部食べて、夕飯が入らなくて、私まで怒られたんですから」
「それはお前が作っ……わかった!」
何か言いかけていたけど、お坊っちゃまはちゃんと返事をしてくれた。
「それじゃあ、お気をつけて。行ってらっしゃいませ」
「うん…」
しかし、お坊っちゃまは車に乗らず、その場から動かない。まだ何かあるのかな?
でも、そろそろ出ないと遅刻しちゃうよね。
「お坊っちゃま、どうかしました?」
「なあ、夜に電話してもいい?」
「電話?」
そういえば、私も家に電話かけたこともあったな。ちょっと不思議な感じだった。あれは修学旅行とかじゃないと出来ないし。懐かしい!修学旅行なんて、二年前に行ったはずなのに…。
「いいですよ。あ、でも、私の部屋の番号…」
「屋敷の方にかける」
「わかりました」
お坊っちゃまはようやく車に乗り込むと、窓を開けた。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい、お坊っちゃま」
「おみやげ、楽しみにしてて」
そう言い残して、車は屋敷を後にした。
どうか、この旅行がお坊っちゃまにとって、楽しいものでありますように。
私は密かに願った───。
【END】