School Trip (前)




「……はあ、面倒くせェ」


お坊っちゃまの服をたたんでしまっていた時、お坊っちゃまがイスに座りながら、そう呟いた。机の上にある何かを見ながら。
少し気になった私は、お坊っちゃまに近づき、声をかけてみることにした。



「何かあったんですか?」

「これからあんだよ。あー、行きたくねェ…」


え?どういうこと??
わけがわからずにいると、机の上に冊子があった。そこには四泊五日の修学旅行と書かれていた。それを見つけて、私は手に取る。



「修学旅行!わー、懐かしいです!」

「お前も行ったの?」

「もちろん行きましたよ!私は庶民なので、ここに書かれてるような高いホテルとかじゃなくて、旅館でした。でも、仲の良い友達と同じ部屋だったので夜中までおしゃべり出来て、楽しかったですよ」

「……」

「あと家族に買うおみやげとかも色々とあって、悩みましたけど、それを選ぶのも楽しかったですし。小学生の時も中学生の時も楽しい思い出しかありません」

「ふーん…」


私の小学生の時は二泊三日で、一日目はバスで移動しながらの団体行動で、二日目は自由行動だったから、電車や路線バスを使って、仲良い友達と回ったな。

冊子をパラパラと読んでみると、やっぱり私が行っていた修学旅行とは違う。お金持ちの御子息や御令嬢が通う学園だしね。泊まるところなんて、桁が違う高級ホテルだし。庶民の私には、一生縁がないようなね…。写真だけでも高いってわかるもの!これはスイートルームなんて、一泊したらいくらなんだろう?金額が恐ろしい!

冊子に再び目を通すと、お坊っちゃまの学校もグループじゃなくて、団体行動だ。クラスごとで回るところは私と同じ。五日間のうち最初の二日間は、ほぼ丸一日見学しながら、たまに観光も出来るみたい。ところどころ自由時間あるし。
それらを個人でまとめてレポートで書く感じだな。レポートを提出するのは旅行の後みたいだけど、そこはちょっと大変そう。

三日目と四日目は自由行動みたいだけど、お坊ちゃんは誰かと回るのかな?流石に一人じゃないわよね。



「お坊っちゃま、この自由行動は誰かと一緒に回るんですか?」

「いねェよ」

「え…」

「オレ、修学旅行は行かねェから」

「え!?」


それを聞いた私は、声を上げる。しかし、お坊っちゃまは特に気にもせずに話を続ける。



「だって、つまんねェし」

「友達いないからですか?」

「勘違いすんなよ。話すくらいのヤツはいるけど、一緒に行動するようなヤツはいないだけ」


いや、それは単に友達がいないというのでは?
わかってはいたけど、やっぱり友達がいないのか、お坊っちゃま。口が悪いから、損してるのよね。本当は優しいのに。そのことをわかってくれる子がいたら、違うんだけどな…。



「修学旅行といえば、自由時間の時に好きな人と回る子もいたりしましたね!私の…」

「は?お前も誰かと回ってたりしたのかよ!?」

「え?」


何故こんなに食いつくように聞いてくるの?

もしかして、修学旅行に行く気になったのかな?お坊っちゃまは好きな相手がいるみたいだし。恋は人を変えるのね!
あれ、でも、お坊っちゃまの好きな子って同級生だった?確か、年上とか聞いていたけど、いつの間にか変わったのかしら。



「どうなんだよ!アリス」

「いや、私じゃなくて、幼馴染みの話ですよ。結構女の子達から人気があったから、一緒に回ろうって誘われていたので。ま、幼馴染みは結局、誰も選ばずに友達と回ってましたが。私は女友達と回りましたね。その時、友達の一人が帰る時間を勘違いしまして、皆と旅館まで必死に走りましたよ…」

「……なら、いいけど。てか、別に修学旅行なんて、行かなくてもいいじゃん」

「行った方がいいですよ!小学生で修学旅行に行けるのは今年が最後なんですから」

「行く理由がねェし」


せっかくの修学旅行なのに、行かないなんてもったいない。こういうのは、今しか行けないんだから。思い出を作らないと。お坊っちゃまを何とか行かせるには……うーん。
私は考えた。



「私におみやげを買って来てください」

「は?」

「そしたら、行く理由になりますよね?」

「おみやげ!?そんなの買ってきたことねェし。何買ったらいいかもわかんねェよ!」

「初めてなら是非買って来てください。わからなくても、お坊っちゃまが好きなものを選んで買えばいいんですよ!買ってきてくれることが嬉しいですから」


きっとおみやげを選ぶ時間も楽しい。誰かのことを考えながら買うんだから。もらう人だって、嬉しいはずだ。私も嬉しいし。



「私、お坊っちゃまがどんなおみやげを買ってきてくれるか、楽しみにしてますから!」

「……本当にオレにもらって、嬉しい?」

「はい!もちろんです。あ、私だけじゃなくて、アガットさんにもおみやげをお願いします。アガットさんもきっと喜んでくれますから」

「……わかった。修学旅行に行く。アリスとアガットの分のおみやげを買ってくる」


よし。お坊っちゃまが修学旅行に行く気になった!良かったー。




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