Innocent
「え、ドラ様と会ったんですか!?大丈夫でした?」
「大丈夫??どういう意味ですか?」
「ドラ様はよく使用人を無視したり、暴言を吐くので、中にはドラ様をよく思っていない者もいるんですよ」
「あれくらい何ともありません。私の妹に比べたら、優しい方ですよ!」
「え…」
うちの妹の方がもっとキツイもの。あの子も小さい頃は可愛かったのに。「おねえちゃん。まって…」って、私の後を追いかけて来てくれたのに、いつからあんな生意気になったのかしらね。
「……本当にアリスは変わっていますね」
「え?普通ですよ!任務も終わりましたので、掃除に戻ります」
「ええ。ありがとうございました」
一礼してから、私はジョーヌさんの部屋から出た。
さてと、お掃除、お掃除~!
それから数日後。
私が朝から玄関の掃除を始めようとしていたら、ドラ様がいた。今日は日曜日だから、制服ではなく、私服だった。お休みだから、どこかに出かけるのだろう。でも、随分と早い。まだ10時前だよ。
「………あ」
「ドラ様、おはようございます!」
やっぱり可愛いな!思わずにやけてしまうわ。着てる洋服だって、ドラ様に似合うようなものだし。
「今日は良いお天気ですね!絶好のお出かけ日和です」
「……………」
返事がない。まだ人見知りしちゃうのかな?こないだ初めて会ったばかりだし、仕方ないか。
そこへ一台の車がやって来て、ドラ様の前で停まった。運転席から、ピアニーさんが降りて来た。
「ドラ様、お待たせしました。……………あれ?アリス」
「ピアニーさん、おはようございます!」
「おはよう。今日は玄関の掃除なんだね。散らかしてない?」
「今日は散らかしてないです!もうあのことは、忘れてください!」
「ふふ、それは難しいな。あれはなかなか衝撃的だったから」
一週間前、私は別の掃除場所で大量のゴミをひっくり返し、せっかくキレイになった場所を汚くさせたのである。だって、あそこで手が滑るとは思わなかったし。それをたまたま通りかかったピアニーさんに笑われて、知り合ったという。ピアニーさんも笑いながらも手伝ってくれたから良かった。一人だったら、途方にくれてたし。
ドラ様がいつの間にか車に乗り込んでいて、ピアニーさんがドアを閉めていた。
「ピアニーさん。ドラ様の運転手だったんですか?」
「運転手?そうだね。ドラ様が出かけるなら、毎回運転はするよ。僕はドラ様の専属執事だから」
「専属執事?」
「そうだよ。ここの兄弟には、大体が専属執事がついてるんだよ。ついてない方もいるけどね」
「そうなんですね。お気をつけて。行ってらっしゃいませ」
「ありがとう」
ピアニーさんも運転席へと乗り込む。私は車中にいるドラ様にも「行ってらっしゃいませ」と声をかけたが、返事はなかった。仲良くなる道はまだ遠いようだ。でも、頑張る!そうして、私は車を見送った。
それにしても、専属執事か。まるでドラマみたいだな。
.