Innocent




「……………」

「どうかしました?」

「べ、別に…」

ドラ様が私を見ていた気がしたけど、気のせいだったらしい。


「カルロ兄さんに渡すのでしたら、代わりに僕が渡しましょうか?」

「いえ!これは私の仕事ですし。ジョーヌさんからも顔を見て、知っておいた方がいいと言われましたので!」

「わかりました。カルロ兄さんなら、今日は珍しく部屋にいるはずですから、案内しますよ」

「ありがとうございます!」

珍しく?普段はあまりいないのかな…など思いながら、私はリク様と共にカルロ様の部屋に向かう。

ちなみドラ様とは、書斎に行くからと別れてしまった。ガッカリしていたら、別れ際に私に小さく手を振ってくれた。可愛い!私は嬉しくて、思わず大きく手を振り返した。ちょっと引いてたけど、嫌がってはいないようだ。


「アリスさん。ドラにひどいこと言われませんでしたか?」

「あれくらいなら、全然大丈夫ですよ。うちには生意気な妹がいますので、慣れてます」

「ドラに優しくしてくださって、ありがとうございます」

「え?」

「ドラの髪って、銀髪なんですが、白く見えるじゃないですか?目の色も赤くて、色々と傷つけられることを言われてきたんです。だから、他人とはほとんど関わらないようにして、たまに話しても相手を傷つけることばかりで…」

え!誰よ。そんなひどいことを言う人は。あんなに可愛らしい男の子を傷つけるなんて、許せない!


「あんなに白うさぎみたいに可愛いのに。ひどいことを言う人がいるんですね!」

「白、うさぎ…?」

「はい!私には白うさぎに見えて、とっても可愛いです!!」

「皆がアリスさんのようにそう思ってくれるなら、いいんですけどね」

リク様と話しているうちに、リク様がとあるドアの前で立ち止まった。


「……ここです。ここがカルロ兄さんの部屋になります」

「ここが…」

「兄さん。いる?」

リク様がドアをノックしながら、声をかける。すると、ドアが開く。


「リク。こないだ借りた本なら、まだ読み終えてないよ。もう少し待って」

「違うよ。今日は本を返してという催促じゃないんだよ。彼女が兄さんに用があるんだって」

「彼女?」

カルロ様と呼ばれた男の人が私を見る。
イケメンだ!リク様と同じ黒髪で、身長も高い。更には色気がすごい!これはモテるわね。私はタイプじゃないが、他の子達が騒ぐわけだよ。私はリク様が一番かっこいいと思ってるけど!


「ジョーヌさんに頼まれて、郵便物を持って参りました」

「ああ!それ、待ってたんだよ。ありがとう」

「いえ。それでは、私はこれで。……リク様。ここまで案内して下さって、ありがとうございました」

「僕、礼を言われる程のことはしてませんよ」

「助かったのは事実ですから。失礼します」

私は二人に頭を下げて、その場を去った。

よし。ジョーヌさんからの任務は完了したわ!後はここを出るだけだ。私は早く出ようと、小走りに走っていたら、何かに躓いて転んだ。

痛たた…。私は何に躓いたんだろう。
起き上がると、小さな玩具が何個も転がっていた。手に取ってみるものの、壊れてはないようだ。良かった。壊したら、弁償になっちゃうわ。
そこへ誰かがこちらに駆け寄って来た。


「ごめん!大丈夫!?」

「……はい…」

やって来たのは、中学生くらいの男の子だ。髪色は、黄色に近いような茶髪。しかし、この子も可愛らしい顔をしてる。将来、モテそう。いや、今もモテるに違いない。


「タスク兄。何して……あ」

「ハルク。ちょっと転ばせちゃってさ…」

その後ろからも小学生くらいの男の子がいた。暗めの茶髪に毛先が跳ねている。この子も可愛い。何か驚いた顔をしてるけど、私の背後に何かあるのかな。そう思い、振り返るも何もない。私は立ち上がりながら、汚れをはたく。


「それでは、私はこれで」

「……あっ…!」

私はその場から立ち去った。いつまでも本館に居たら、怒られちゃうし。早くジョーヌさんに鍵を返しに行かなくちゃ。

本館を出て、使用人屋敷の中にあるジョーヌさんの仕事部屋に向かう。ジョーヌさんは、今の時間は大体がここで作業をしているからね。早速、ドアをノックすると、返事があった。


「ジョーヌさん、渡してきました!」

「早いですね…」

私がそう報告して、ジョーヌさんに預かった鍵を返す。ジョーヌさん、何かビックリした顔してる。何で?


「渡したら、すぐに帰って来ました!」

「それも珍しいですね。他の子ならなかなか帰って来ないんですが…。カルロ様とは会えましたか?」

「はい。リク様に部屋を案内してもらって、カルロ様に渡しました!皆が騒ぐ理由がわかりましたよ」

あの顔なら、かなりモテるわよね。使用人の中でも親衛隊までいるみたいだし。あの人のことだったのね。


「アリス。本当に興味ないんですね…」

「どちらかというと、リク様に会う前に会った男の子と仲良くなりたいです」

「男の子??」

「確か、リク様が“ドラ”って呼んでいた男の子です。白うさぎみたいに可愛くて…」

あの子となら、是非とも仲良くなりたい。可愛いかったし。呑気にそんなことを考える私とは違い、ジョーヌさんが驚いていた。



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