Innocent




「アリス」

「はい」

ある日。メイドチーフであるジョーヌさんに呼ばれてた。すると、ジョーヌさんから郵便物が沢山入ったトートバックを手渡された。重くはないけど、郵便物の量が普通ではない。


「これをカルロ様に渡してきてくれますか?」

「……カルロ、様…?」

「ええ。本来なら、彼の専属執事であるアンバーに渡さないといけないんだけれど、今いないんです。急ぎのものもあるから、すぐに渡さないといけなくて」

「それは早く渡さないとですね…」

しかし、私はそのカルロ様がわからない…。名前も今知ったし、顔も知らない。リク様のご兄弟の方、よね?専属執事の人もいるみたいだし。
そんな私の反応にジョーヌさんが目を丸くする。


「もしかして、カルロ様を知らないんですか?」

「すみません。実はリク様以外、ほとんど知らなくて…。本館にも行く機会もありませんので」

「ああ。アリスは新人ですから、本館での仕事はなかったですね。新人だとたまに本館での仕事があるとわかると、ご兄弟達と接触したくて、手を挙げる者も多いんですが」

そうなんだ。別に本館に行かなくても、たまにリク様と会えるからな。遠くから姿を見られるだけでも楽しいし。リク様の姿なら、遠くからでもすぐにわかるわ!


「リク様以外のご兄弟達に興味はないんですか?」

「はい。ありません!」

そこはハッキリと答えた。ジョーヌさんは「それも珍しい…」みたいな顔をしていた。私、本館付近ですら仕事したことないから、他のご兄弟達と遭遇したことないんだよね。


「……そうですか。でも、アリスなら大丈夫でしょう。それに顔を知っていた方がいいので、その郵便物をカルロ様に渡しに行ってもらえますか?あとこれは、本館の鍵です。渡し終わったら、私に返してください。もし、誰かに何かを言われた場合は、私の名前を出して構いませんので」

「はい!わかりました」

カルロ様に渡す郵便物と鍵を預かり、本館へと向かうことになった。

初めて本館に入ってみたけど、やっぱり別館とは、全然雰囲気が違うな。何というか、重いというのかしらね…。
でも、ここにリク様がいるのよね!お部屋もあるし。きっとリク様なら、キレイに片づいていそうよね!もちろんリク様に似合った素敵なお部屋でしょうし。

………それより、カルロ様はどこにいるの?
というか、顔もわからないのに、ウロウロしてるのも進まないわ。これは、誰かに聞くしかないよね。誰に聞こう…。
彷徨っていた時、丁度、小学生くらいの男の子を見つけた。


「……あ、すみません!」

「……………え」

早速、声をかける。白に近いような銀髪に赤い目をした可愛い男の子だ。すると、男の子は私を見るなり、嫌な顔をした。だが、気にせずに話す。


「カルロ様って、どこですか?」

「……」

「郵便物を渡すように頼まれたんですが、顔がわからないし、本館には初めて来たので、部屋もわからなくて……って、聞いてますか?」

「知らない。てか、メイドがオレに話しかけないでよ」

「え、ここのご兄弟の方ですよね?」

「お前、人の話を聞いてんの?」

「聞いてますよ!あなたは、うさぎみたいに可愛いですね!」

初めて見た時から、そう思った。ちょっと口が悪いけど、子供なら許せちゃうし。だって、可愛いから!可愛いは正義だしね。


「……………は?うさぎ??」

「はい。赤い目をした白うさぎみたいだなって」

「……そんなこと言いながら、お前もオレのことを蔑んで……………ん?嘘、ついてない…」

「嘘?そんなのつきません。本心ですから!」

「………」

見た瞬間から、可愛いなと思って、ついにやけちゃう。そんな男の子が私を何故か見て、動かなくなった。フリーズしてる?
あれ??どうしたんだろうか。名前がわからないから、呼べないし。困ったな。


「ドラ……と、アリスさん?」

「……リク兄」

え、リク様!?
そんなリク様の手には、本屋の紙袋があった。リク様。今日も素敵だわ!つい後光が見えて、拝みたくなったけど、何とか堪えた。


「アリスさんがここにいるのは、珍しいですね」

「あ、あ、あの、私、勝手に侵入したわけじゃないですよ!ジョーヌさんに頼まれて、郵便物を渡しに来たんです!!」

郵便物の入ったトートバックを見せる。理由があって来たと言わないと怪しまれちゃう。本来は、許可された人しか入れないからね、本館は。


「僕にですか?」

「いえ、リク様ではなくて…」

……あれ。誰だったっけ?名前を忘れた。カがついたのは、覚えてるんだけど。


「あ、ちょっと待ってくださいね。えっと……カ……ムモ、様でしたっけ?いや、違う。カシス様?何か違うな。カメラ?カラス?カンロ?カ………あ、カイロ様です!」

「もしかして、“カルロ”ですか?」

「そうです!それです!カルロ様でした…」

「あはは。そこまで盛大に間違える人、なかなかいませんよ。しかも、カルロ兄さんの名前を…」

リク様が声を上げて、笑っている。ちょっと恥ずかしいけど、リク様が笑ってくれるならいいか。


「ていうか、カルロの顔も知らないみたいだよ。ソイツ…」

「そうなんですか?」

「はい。お恥ずかしながら…」

目の前の可愛い男の子の名前も知らない。でも、リク様がドラと呼んでたよね。この子もリク様の兄弟なんだろう。可愛いから、仲良くはなりたい…。さっきからリク様と並んでるの見てるだけで、ニヤニヤがおさまらないし。うふふ。リク様も弟には、また違う優しい顔を見せるのね。癒される!



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