Summer Story

「…きろ!」


うーん、うるさい。
さっきからお坊っちゃまみたいな声がするんだけど。しかも、体も揺すられてるような…。



「アリス、起きろ!」

「もう、なんですか…」


目を覚ますと、目の前にお坊っちゃまの顔。目をこすりながら、私は起きる。



「あれ?お坊っちゃま、部屋に帰ったのでは…」

「起きたら、部屋でビックリしたけど。お前こそ、いつまで寝てんだよ!」

「いつまで?……10時!?遅刻…って、私、今日は休みですよ。それよりリク様は?」

「リク兄なら大学行った。行く前にアリスのこと、オレに頼んできたから。言われて来てみれば、お前、爆睡してんだもん」


え、爆睡?よだれ垂らしたまま寝てたの、私。慌てて口元を拭う。リク様にこんなだらしない顔を見せてしまった。
うっ、恥ずかしい。穴があったら、入りたい。

ふと私の体には見慣れないブランケットがかけてあった。寝る前まではなかった。もしかして、リク様がかけてくれたのでは!?なんてお優しい!私の推しは天使だった。…うん、知ってた!



「あれ?」

「どうした?」


私が作った夜食が残っていない。少し食べたけど、全部なくなるまでは食べていないはず。それがない。スープの方は少し残っていたけど。お坊っちゃまが食べたかな?



「お坊っちゃま。この中にあった物、食べました?」

「食べてねェけど?オレが来た時から入ってなかったし」


残ってたら、食べようとしてたわけね。相変わらず抜け目ない。



「え、じゃあ、誰が…」

「リク兄じゃねェの?」


確かに考えられるのは、リク様だけだ。全部食べてくれたのかな?でも、違っていたら…。

それより今頃食堂に行っても、もうやっていないよね。残りのスープを朝食にしよう。私はスープを飲むことにした。すると───



「…何飲んでんの?」

「スープですよ。お坊っちゃまには合わないかと…」

「…オレも飲みたい!」

「お坊っちゃま、ご飯食べたんじゃないですか?」

「それ、お前が作ったんだろ?飲まして!」


こうなると、なかなか引かないのよね。お坊っちゃまは…。仕方ない。少しわけてみよう。私は紙コップにスープをいれて、お坊っちゃまに渡す。



「はい、どうぞ」

「いただきまーす」


お坊っちゃまが一気に飲み干した。ちょっと何で一気飲みしたの!?普通は味わって飲むでしょ!



「うまい!もう一杯。ちょーだい」

「一気飲みしたのに!?だめです。これは私の朝食なんですから」

「もう一杯だけ!な?アリス…」


仕方ない。もう一杯だけあげよう。私は紙コップに注ぐ。いれ終わった後、お坊っちゃまはすぐにまた飲み干した。私もスープを飲もうとしたが、中は空になっていた。私、まだ一口しか飲んでないのに…!



「うまかった!」

「良かったデスネ…」


笑顔のお坊っちゃまとは裏腹に私は全然足りない。
一口のスープだけでは足りないから、やっぱり何か作ろう。使用人のキッチンを借りて。今なら許可はおりるだろうし。

私はいすから立ち上がり、持ってきた物を抱え、リク様のブランケットを持った。
ブランケットは洗って返さなくちゃ。



「アリス。どこ行くんだよ?」

「使用人屋敷の方に戻りますね。これを片付けに行かないと」

「オレも行く!」

「だめですよ。お坊っちゃま、使用人屋敷の方は来てはだめだと何回注意したら、わかるんですか」


私が注意すると、シュンとなるお坊っちゃま。中学生になっても、私の後にくっついてくるのだけは、全然直らないな。



「だって、絶対に何か作るじゃん!オレも食べたい!」

「12時になれば、昼食が出ますから、それまで我慢してください!」

「ヤダ。アリスの作ったのがいい!」

「だめです。もう中学生なんですから」

「オレにもちょーだい!」

「だめです!」


帰りたいのに、帰らせてくれない!帰らせまいと、私の腰回りにしがみついてくる。
たまたま通りかかったドラ様とピアニーさんのお陰で、何とか帰れたけど。

これは、何か作って持って来ないと拗ねるな…。



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