Sports Day 後




昼休憩も終わり、二人と別れる。
私もカルロ様と一緒に応援席へと戻ろうとした。だが、歩いていたら、背後から服の裾を掴まれた。

振り返ると、さっき別れたばかりのお坊っちゃまだった。



「あれ。お坊っちゃま?どうかしました?」

「あのさ、最後のリレーでオレが一位でゴールしたら…」


どうしたんだろう。
お坊っちゃまは、何故か黙り込んだままだ。



「お坊っちゃま?」

「オレのお願い事、聞いて!」

「お願い事?何ですか?」

「二人で遊園地に行きたい!」


私と遊園地?
遊園地なら、前に行ったけど。あの時はカルロ様と一緒に回ったのよね。あとからお坊っちゃまにバレたら、もうしばらく不機嫌で大変だった。



「それでいいんですか?」

「お弁当も持って!」

「お坊っちゃま、本当にお弁当が好きなんですね」

「……うん。好きだ」


顔が真っ赤だ。
これはからかってはいけないな。真剣みたいだし。



「いいですよ。お坊っちゃまが頑張れたら、一緒に行きましょうか?」

「うん!約束!!」


お互いの小指を絡めて、約束する。



「…見てて!オレ、絶対一位になって帰ってくるから」

「わかりました。応援してますね!」


お坊っちゃまと別れて、応援席に戻ると、午後の競技は既に始まっていた。席にはカルロ様しかいなかった。ライ様はいない。もう戻らないのかもしれない。



「戻りました」

「ハルクは相変わらず君には甘えるね」

「えっ…もしかして、聞いてました?」

「聞いてなくても、目立っていたよ」


嘘でしょ。
そんな見世物でもないんだから。



「ドルチェ家の息子ってだけで、目立つんだよ」

「それはお坊っちゃまもそうだって言いたいんですか?」

「そう。だから、君も気をつけた方がいいよ。出る杭はうたれるから。うちは敵も多いけど、うちを欲しがる人達も同じように多いんだよ。親父も自分の跡を継ぐ息子以外は出すだろうからね」

「そうなんですか…」

「アリスは知らないだろうけど、毎日うちに送られてきてるんだよ。うちの娘はどうですかって書かれた手紙と写真を添えてね」

「好きな相手と一緒になれないんですか?」

「身分が合えば一緒になれるけど、あまりないかな。タスクみたいな方が珍しいんだよ。でも、あそこはいつ崩れてもおかしくはないな…」


最後の方、カルロ様が呟くような声だったから、よくは聞こえなかった。



「これだけは言えるよ」

「何ですか?」

「親父は身分のない者とは一緒にはさせない。君がリクと一緒になれることがないのと同じ」

「……そう、ですね」


わかってる。
どんなに距離が親しくなっても、近くなっても、一緒にはなれない。想っても伝えられない。伝えたら、傍にいることは出来ない。離れなきゃいけなくなる。

一緒になれなくても、近くで姿を見ていたかったから、私は―――。



「あいつもそれをわかっていないんだろうな。まだ子供だから」

「……子供?誰のお話ですか?」

「内緒」


そう言って、笑った顔は何故だかカルロ様にしては珍しかった。何て言ったらいいか。

まるでバカにしてるような、蔑んだような笑み。



「二人して、全然競技見てねーじゃん」

「ライ」

「ライ様!?」


そこにライ様が戻ってきた。あれ?確か女の人とどこかに行ったのよね。そのまま戻らないと思っていたわ。



「てっきりもう戻らないと思ってたけど?」

「俺も最初はそのつもりだったー。昔よく使用してた旧校舎の教室がまだあったから、そこに連れてこうとしたら、途中で昔相手した女と会っちゃって、それが連れてた女と友達だったみたいで、二人が喧嘩し始めちゃって。もう気分萎えて、戻ってきたーってわけ」


学校でよくそういうことが出来るわよね。
もうこの人に普通や常識って言葉がないのかもしれない。



「ほら、アリス。見てやんねーから、あいつが拗ねるぜ」

「え、拗ねる?……あっ!」


お坊っちゃまがこっちを見ていた。あの顔は間違いなく不機嫌な時の顔だ。
しかも、騎馬戦は今終わってしまったらしい。お坊っちゃまは自分がしているハチマキとは違う色のハチマキを沢山持っていた。



「ハルクがいたチームが勝ってたよ」

「カルロ様、見てたんですか!?」

「うん。君と話しながらは見てたよ。どっかの弟は始まる前にこっちを見てて、勝負ついてからもまたこっちを見てたからね。褒めてもらいたかったんじゃないかな」


まずい。話に夢中で全然騎馬戦を見てなかった…。よし。この後からは集中して見よう!
その後、ドラ様の台風の目をしっかり観戦し、応援をした。あとはお坊っちゃまのリレーだけだ!



いよいよ運動会も最後の競技となった。男女別のリレーだ。4年~6年の各学年から6人ずつ選抜された子達からなる。全員それぞれの番号の入ったゼッケンをつけており、赤組は赤と黄、白組は白と青の4つのグループで走る。お坊っちゃまは白のアンカーだから、白の9番。

最初は女子達のリレー。それを見ていたら、あっという間にアンカーがゴールし、終わった。


次が最後の男子のリレー。
そして、用意を終え、一番手の四年生が一斉にスタートした。

白は2番目。しばらくは順位に変動はなかったが、7番手の六年生になった時に白の子が転んでしまい、ビリに落ちてしまった。すぐに立ち上がるもトップとは少し差がある。その状態でアンカーまで回ってきた。



「あー、やばいじゃん。白。ハルクでもちょっと無理じゃね?」

「でも、ハルクは諦めてないよ」

「お坊っちゃま…」


他は半周だったが、アンカーだけは一周走るらしい。距離は次第に縮まっては来たが、まだ最下位のまま。



“見てて!オレ、絶対一位になって帰ってくるから”


私は席から立ち上がり、その場所から大声で叫ぶ。お坊っちゃまに届くように。



「がんばれー!がんばれ!!」

「すげー、声…」


呆れるようなライ様の声がしたが無視。今はお坊っちゃまを応援するんだ。



「約束したでしょ!一位になるんでしょ!!最後まで諦めるなー!!」


こんな大声で叫んだことないから、つい咳き込んでしまった。



「アリス、大丈夫?」

「…ごほっ、…ごほっ!ごほっ!…すみ、ません…ごほっ」


かがんでいたら、カルロ様に背中をさすられた。まだ応援していたかったんだけど、咳き込んでしまって、声が出ない。



「アリスの応援、届いたんじゃね?あいつ、ビリから二番目まで上がってきた」

「え…」


再度グラウンドを見ると、お坊っちゃまが一番目にいる赤のゼッケンをつけた子の真後ろにいた。徐々に差はなくなり、並んだと同時にゴール。

最初にゴールしたのは、どっち?



「今のどっち!?」

「赤だろ?」

「白だろ?」


見ていた人達もどちらが先だったのか、わからないようだった。私は祈るように手を合わせる。
白が勝っていますように!お願い。





しばらくして、結果が出たようだ。



「一位……白!」


勝った!
お坊っちゃまの方を見たら、こちらに大きく手を振っていた。私も振り返そうとしたが、お坊っちゃまは同じクラスの子達に囲まれてしまい、見えなくなってしまった。



「もうお祭り騒ぎじゃん」

「あれは明日から大変だろうね、ハルクは」

「あの最後のリレーで白組が逆転して、優勝決まったよなー。あれは俺でもキた」

「ビリから一位にまで上がったからね。小学生の時って、運動が出来る男の子がモテるし。明日からハルクの元に婚約者候補は増えるね」

「この運動会を見てる親達は、ハルクをチェックしただろうしなー」


あのくらいの歳でもう婚約者、決めるんだ。何だか少しお坊っちゃまが近いようで遠くに感じてしまった気がした。



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