Fellow

久々に昔の仲間達と飲むことになったが、俺は当日、所用で少し遅れてから向かうことになった。場所は仲間のうちの一人が経営するバー。今日のために貸し切りにしてくれたようだ。



「悪い!遅くなった」

「クロだー!おっそーいぞー!!」


店内に入ると、奥からフラフラしながら俺の元へ来るブロンの姿。顔を見ると、赤くなっていた。コイツはあまり酒が強くないくせに飲みたがる。だが、親しくないヤツとはまったく飲まないから、酒が飲めないと思われてるようだ。でも、その方が良いだろう。ブロンは酒癖が悪いから。



「ブロン。お前、酔ってるだろ」

「酔ってませーん。あははは!」

「グリ、コイツに飲ませたのか?」

「違う。ブロンが勝手に飲んだ」

「飲んでたら止めろよ。コイツ、酒飲むと絡み酒になんだから」

「にゃはははは!クロー!」


抱きついてくるブロンを離そうとするが、かなり力が強く引き剥がせない。このバカ力め。頭をペシペシ叩いても離れなかった。ますます力をこめられた。



「暑い。ブロン、離れろ。グリ、手伝え」

「そのままでいいよ。ブロン、ずっと休みなく働いてたんだから」


カウンターで座りながら、酒を飲むグリ。平然としているが、その近くにはグリが飲んだ酒の残骸が大量に転がっていた。相変わらず酒を水のように飲んでるな、コイツは…。



「アメジスト様の秘書だから、ずっと忙しかったのはわかる。セレストさんから引き継いでから、ずっと愚痴をこぼすことなくやってるからな」

「ふふっ、ブロンは昔からノワールに甘えますからね」


グリの横に座っていたジョーヌ。彼女も平然とした顔でワイングラスを手に持つ。横には大量の空っぽのワインの瓶が置かれていた。俺がいない二時間でどんだけ飲んでたんだ。コイツらは…。

ジョーヌはうちの屋敷でメイドとして働いている。たまに裏の仕事をこなすこともある。主に色仕掛けで相手から情報を聞き出したりしている。男はあの色香にやられるみたいだが、俺にはまったくわからない。ジョーヌは仲間だからかもしれないが。



「ブロン、ノワールが大好きだもん。彼女がいても、ノワールばかり優先するから、全然長続きしないし。顔はいいのに、中身が大問題」

「それならノワールもそうでしょう。彼女がいても、ブロンがすぐにぶち壊してしまいますから」

「いつだったか、ノワールの彼女にブロンとノワールは恋人と間違われてたよね。あれは面白かった」

「確かに。あれは笑いましたね」

「浮気相手が男だと思ってなかったみたいだよね」

「こっちは全然面白くないわ!浮気すらしてないのに勘違いされた俺の身にもなれ。ったく、ブロン。ほら、起きろ。寝るならソファーに行け」

「やーだ。クロから離れないー」

「お前が離れないと酒が飲めないんだよ」


しかし、何を言っても、ブロンは離れないため、仕方なく俺はブロンを連れて、ソファー席に座ることにした。すると、向かい側のソファー席にグリ、ジョーヌが移動してきた。手には酒を持参しながら。

その時、トイレのドアが開く。出て来たのは、仲間のローズだった。



「あら、やっと来たの?ノワール」

「ローズ。来てたのか。姿がないから、来てないのかと思ってた」

「ちゃんといたわよ。マネージャーから連絡が来ていたから、ちょっと電話していたの」


ローズは今人気の芸能人だ。女優がメインだが、たまにモデルの仕事もやる。ローズが表紙に載る雑誌は、普段の倍以上に売れるらしい。雑誌で着ている服、メイクに使用された化粧品も軒並み完売すると聞いた。更に出演するドラマや映画は必ずヒットすると評判だ。演技も評価されて、色々な賞もよく取るみたいだし。昔は脇役ばかりだったが、今では主演が多い。本人は演じることが好きだから、主役や脇役と関係なくやりたがるが。



「多忙の芸能人がよく休みが取れたな」

「ふふふ。社長とマネージャーにお願いしたもの。絶対にこの日に仕事は入れないでねって」

「圧をかけたわけか…」

「失礼ね。圧なんてかけてないわよ」

「ローズ。電話終わったなら飲もう!」

「いいわよー!」


グリに誘われ、ローズが喜んで、駆け寄る。グリの横に座り、ジョーヌからグラスを渡され、女三人で仲良く乾杯していた。ここにいる俺達よりも酒に強いからな、この三人は。
未だに俺に抱きついたままのブロンは、いつの間にか寝ていた。ほっぺを軽く引っ張っても、へへっと笑うだけ。ガキか、コイツは。

すると、カウンター側の奥のドアから誰か出てきた。その相手に軽く手を振ると、こちらにやって来た。



「予定より遅かったね、ノワール」

「オロンジュ。ちょっとな」

「女性と会ってたの?」

「確かにそうだけど、恋人じゃねーからな。仕事で会っただけ」


この店のオーナーでもあるオロンジュは、常にニコニコと笑みを浮かべているが、口は固いが結構腹黒い。「何飲む?」と聞かれたから、「お前に任せる」と告げるとは、「わかった。ちょっと待ってて」と言って、また奥に行ってしまった。



「ブロンは相変わらずノワールから離れないわよね。いつからノワールにそんなくっつくようになったの?」

「あれはローズが来る前でしたね。ノワールがブロンをいじめから助けたんですよ」

「ブロン、ノワールが来るまで毎日泣いてた。私、よくタオルを貸してあげたよ」

「別に助けたわけじゃねーよ。ただ気分悪いからぶん殴っただけだし」

「でも、ブロンにはヒーローに見えたんじゃないですか?」

「あら、そうなの?それから懐かれちゃったのね」


ブロンは今もそうだが、髪が白に近い銀髪で、幼い頃からその容姿は目立つらしく、施設に入ってからずっといじめられていたらしい。それを俺が入所した日にブロンをいじめていたヤツらを全員ボコボコにしたら、いじめは止んだ。
代わりに俺は周りに怖がられて孤立した。でも、孤立した俺にブロンはひっつくようになったけど。そこからグリ、ジョーヌなど今の仲間達が増えていったっけ。



「そういえば、そのブロンをいじめていたそのリーダーってどうなったの?」

「彼なら亡くなりましたよ。引き取られた先で仲良くなった仲間に唆され、薬にハマってしまい、過剰に摂取し過ぎて」

「ジョーヌ、随分詳しいな」

「たまたまですよ。情報を聞き出そうとした輩のお喋りに付き合っていたら、聞いたことのある名前でしたので。最後までも彼はまともに生きられなかったんだなと…。バカは死ななきゃ直らないと言いますが、彼は死んでも直りますかね」


クスクス笑うジョーヌに俺は、「お前は嫌いな相手には毒舌だよな…」とつい呟く。だが、ジョーヌは「当たり前じゃないですか。私もアイツには沢山、大事な物を壊されましたから」とワインを飲み干す。「あいつ、弱い者いじめて楽しんでたから、私も嫌い。ノワールがやらなかったら、私がボコボコにしてた」とグリまでそう言っていた。相当嫌われていたんだろう。



「ノワール、お待たせ」

「サンキュ」


オロンジュが酒を持ってきてくれた。もう片方の手にはつまみを持って、テーブルに置く。何度かカウンターと席を行き来してはテーブルに物を置いてく。テーブルに沢山の酒や食い物が埋まったところで、自分の飲む酒を持って、ようやく空いてるイスに座った。オロンジュが座ってから、俺も乾杯し、酒を口にした。



「そういえば、ブルーとルージュとヴェールは?」

「ブルーとヴェールは、仕事で来られないって。二人共、皆によろしくと伝えてって言ってたよ。ルージュの方はまだ連絡来てない。先日うちに来た時に誘ったら、珍しく来るとは言っていたけど、彼は気まぐれだからね」

「ルージュなら昨日会ったわよ」


オロンジュと話していたら、ローズが話に入ってきた。



「一緒の仕事だったのか?」

「そ。今度共演するのよ。あいつが主演の恋愛映画だけど。恋なんてしたことないくせにねー」

「ルージュも役に入り込むと別人だからね」

「普段は本を読むか、食うか、寝るしかしないのにな」

「その映画で相手役する女優の○○がルージュにやたら話しかけてたわよ。あれは共演をきっかけに付き合おうと狙ってる感じね」

「○○って、少し前にアイドルの▲◇と付き合ってなかった?」

「あれは付き合ってないって。▲◇が言い寄ってきただけ。▲◇もかなり遊んでるから、セフレだけでもかなりいるみたいよ」

「ルージュ、○○と付き合うのですかね?」

「おれ、○○はまったく興味ないんだけどー」


ルージュの話をしていたら、その当事者の声に全員が驚く。いつ入ってきたんだよ?音しなかったぞ!?お前は忍者か!



「「「「「ルージュ!?」」」」」

「皆、おひさー。元気ー?おれは元気ー」

「相変わらずのローテンション」

「変わらないね。安心した」

「CMでの爽やかさはどこに行ったんだよ。よく流れてるだろ。紅茶のCM」

「あれは爽やかさを求められたから、そう演じただけだよ?“オパール”として。今のおれはただの“ルージュ”だしー」


そう言いながら、俺の隣に座った。座るやいなや、つまみをパクパク食べ始めた。

コイツはルージュだが、オパールという別名で俳優をしている。ローズと同じく人気の芸能人だ。
昔はアイドルグループに所属していたが、歌より演技がしたいと脱退した。今ではその定評がある演技力でドラマや映画に出演オファーが絶えないそうだ。更に女性人気も高く、抱かれたい俳優、恋人にしたい俳優といったランキングにも上位に入っている。今の姿だと全然オーラがまったくないが。

コイツもブロンと同じで仕事モードでは、自分の素を見せないし、“オパール”として好青年を演じてもいる。プライベートはオパールの要素をすべてなくしているため、ファンにまったく気づかれない。
以前、ルージュと街を歩いている時も横で“オパール”の話をしていた女子高生達がいたが、隣に本人がいるのにちっとも気づかれていなかった。本人もケロリとしていたしな。



「本当に別人よね、ルージュは。そういえば、●○さんがあんたを飲みに誘っても来てくれないって嘆いてたわよ?たまには飲んであげたら?」

「嫌だよ。●○と一度酒を飲んだけど、話がうざいから行かないことにした。あいつ、女とヤッた話しかしないし。おれ、そういうの興味ないしさー。女優の▲▲やモデルの▽▽、アイドルの◇◇とかヤッた相手のあれが良かったとか。どーでもいいー」

「あの人、相変わらず色々な女に手を出してるのね。私もよく飲みに誘われることあるけど、行かなくて良かった。あれこれ話されちゃうわ」

「そこ、芸能人同士で話をしないでください」


珍しくジョーヌが注意する。注意された二人は害された様子もなく、素直に謝った。

それからは全員で話をしながら飲んだ。久々に会って集まっても、昔のように変わらず話せる。こういうのいいな。そう思いながら、酒を飲む。すると、ひっついて寝ていたブロンが起き上がる。



「クロ…」

「ブロン。やっと起きたか。俺、ちょっと外に電話してく…」


言いかけていたら、ブロンが首を振る。



「……だめ」

「ブロン?」

「今、外に出ないで。ドアの前に誰かがいる」

「え?」



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