Rainy day【前編】

「リク様に鍵を借りて…」

「リク兄に呆れられんじゃね?また時間を忘れて、ここから出られなくなったのを知ったら…」


うっ。正論過ぎて、何も言い返せない!確かにリク様に鍵を借りに行ったら、「こいつ、またかよ…」とか思われてしまうわよね。リク様に呆れられたくない!

お坊っちゃま、中学生になってから、私に対して厳しくない?



「じゃあ、カルロ様に借りて…」

「そんなんだから、狙われんだよ!警戒心を持て!バカ!」


やっぱり私に厳しい。
お坊っちゃまは私に部屋にいられたくないんだわ。思春期だから、何かまずいものがあるんだ!前にトキくんがそんなことを話していたし。
早くどこかの部屋に行って、朝を待とう。



「ハルクー」


その時、ノックもなしにドアが開く。タスク様だった。



「風呂あいたーって。あれ?アリスじゃん。何でいんの?コイツに引き止められて屋敷から出られなくなったから、一緒に寝んの?」

「タスク兄、何言って…!」

「違います!腕時計が止まってて、時間が過ぎて出られなくなったんですよ!それだけです!ここで寝ませんから」

「ふーん。じゃあ、朝までどこにいんの?」

「そ、それは…!」


確かにお坊っちゃまの部屋を出たら、私はどこに行けばいいんだろう。

あ。布団部屋なら、誰も来ないんじゃない?



「私、行くところありました!そこで朝まで待ちますね!それでは、おやすみなさい」

「ちょっ…どこに行くんだよ!アリス」


お坊っちゃまの呼び止める声も聞かず、私は部屋を出た。

さて、布団部屋に行こう!
そこで朝まで過ごせば、あっという間に明けるはずだわ。

しかし、行ってみたら、布団部屋は朝までいられる場所ではなかった。


だめだ。違うところに行こう。あ、毛布だけは借りよう。毛布を持って、屋敷内を歩く。
廊下の電気がついておらず、薄暗い廊下を私は歩いていた。



何か雰囲気あるなー。外はどしゃ降りの雨だし。雷も鳴り始めてる。これがミステリー小説なら、何か起こりそうな感じだわ。ちょっとワクワクしちゃうな。なんて、本の読み過ぎかな。本でもあれば、時間が潰せたよね。でも、お坊っちゃまの部屋に小説はなかったしな。

私は階段を上がり、滅多に足を踏み入れない三階に来た。うーん、ここに勤めて三年になるけど、この階にはあまり来たことなかったな。


私はどこかの部屋に入ってみることにした。幸い、鍵はかかっていない。何の部屋だろう?無駄に広いけど、テーブルとイスが少しあるだけで、他には何もない。

ま、いっか。ここで朝までいよう。掃除もしてるから、床もキレイだし!決めた。私は毛布にくるまって、窓の近くに座り込んだ。


カーテンがないから、外がよく見えた。
といっても、どしゃ降りの雨と光った後に激しい音をたてる雷だけだ。



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